桜咲イタ父帰レ

「花見時ですなあ」
「桜は咲いてますか」
「サクラサイタチチカエレです」
「電文ですか」
「そうです」
「父は何処かへ行っていたんでしょうか」
「失踪したんでしょうなあ。家出のようなもの」
「でも居場所は分かっているのでしょ」
「失踪なので、行方は分かりません」
「じゃ、電報を届けられない」
「電文ではそうなるのですが、実際には桜咲いた父帰れです」
「じゃ、電文じゃないとなると何ですか」
「新聞広告です」
「ああ、しかし、父はそれを読むでしょうかねえ」
「さあ、それは分かりませんが」
「それでどうなりました」
「見たようです」
「これだけでも凄い偶然ですよ」
「そうなんです。全部の新聞に出したとしてもね」
「じゃ、父は新聞を隅から隅まで見る機会があったのですね」
「そうでしょう」
「でもいい知らせですねえ」
「知らない人が見ても、何か和みます。悪い話じゃないので」
「それで帰ったのでしょうか」
「帰りました。その父とは私です」
「だから、問題は解決したので、帰ったわけですね」
「はい、問題から逃げていました。それを家族が解決したので、もう安心して戻って来いということです」
「情けない父親ですねえ」
「いや、私がいれば解決しないので、姿を隠したのです」
「なるほど、それなりに事情があったのですね」
「そうです」
「それが、桜咲いた父帰れの中身ですね」
「間違いはありませんでした」
「良かったですねえ」
「家に帰ってみると、庭の桜が咲いていました」
「花見時ですからね」
「私は桜を観賞するために戻ったのではない」
「はあ」
「引っかかりました」
「桜咲いたでしょ」
「それだけです」
「庭の桜が咲いた。それだけのことで、新聞に出すでしょうか」
「出しません」
「だから、問題が解決したと思うでしょ。桜咲いたで」
「嘘じゃありませんが」
「そうなんだが、引っかかった」
「じゃ、問題は解決していなかったのですね。それじゃ安心して帰れないじゃないですか」
「まあ、逃げていても仕方がないので、問題は何とかしましたがね」
「それは良かった」
「やってみれば、簡単でした」
「そりゃ良かった」
 
   了 

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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