名だけ残っている人

 五十年ほど前に活躍していた人となると、今はもうその名が出ることは希だ。百年前となると、よほど名を残した人でないと無理だろう。また、誰もが知っている人となると限られる。これは繰り返し繰り返しその人名が出てくることが条件かもしれない。

 平田の五十年前というと生まれた頃だ。物心が付いてからだと四十年前からこちらは結構記憶にあるが、それも思い出す機会を与えてくれないと、出てこない。

 本屋へ行くと邪魔になるほど本が並んでいた作家なども、その後、どうなったのか、音沙汰がない。

 今でも関わりのある昔の政治家などはたまに名を聞く。今の政治家の祖父程度までは。ただし、知名度がないと無理だが。

 世の中から姿を消したように見えるのは、触れられる機会が少ないためだろう。今では本の中にしか手がかりがなかったりする。これもよほど探さないと出てこない。

 当時、盛り上がっていた人達も、時代とともに消えていく。忘れられていくのだが、それはいつの時代でも同じだろう。

 百年前の人で、普通の人で、無名の人でも、思い出す人がいる。それは非常に狭い世界だ。そして、少数の人しか知らない人々として先祖がいる。平田はお爺さんを知っているが、その向こう側になると曖昧だ。さらにその先になると、もうキャラクタとして立たない。名は残り、戒名はあるが。

 平田の先祖は江戸時代の中頃までさかのぼれるが、その先は分からない。世に名を残した先祖は一人も出ていない。だから、家族だけが知っているのだが、それも古すぎると、もう名前だけだ。

 そういう人達はどんな人だったのかは記録にない。明治の手前で引っ越したらしいことだけは伝えられている。家系図はないが、仏壇の戒名帳に名が連なっている。それも新しい。何度か書き写され、書き足されている。

 平田家先祖代々の墓石はあるが、これも古いものではない。これは父方の話で、母方になると数代前から先は分からないらしい。養女がどうのと、複雑なことになっており、本当の血の繋がりのある先祖が分からないらしい。

 平田は平田家を継いだが、仏壇を引き継いだ程度で、先祖代々の品とか、家宝とかは当然ないが、祖父の父親の形見程度は残っている。家も何度か建て替えたり、引っ越している。

 人々の記憶の中に亡くなっても生きていると言うが、嘘だろう。名前だけが分かっているだけでもましなほうだ。そして、その戒名帳も、火事などで燃えると、もう分からなくなる。

 平田の先祖をたどるとアフリカのある女性に突き当たるかもしれない。その先の先はほ乳類の先祖だろうか。さらにその先になると、魚かもしれない。

 どちらにしても広げすぎると、水っぽくなるようだ。

 

   了

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川崎ゆきお

漫画家

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 2

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