時限爆弾

 今日は何をする日だったのかと火野はふとそんなことを思った。何も思い当たることがないし、予定も入っていない。やるべきことはいくらでもあるが、日常事で、スケジュール化するほどでもない。
 その日のカレンダーを見て、思ったわけではない。何となく、今日、予定があったように感じたのだ。これはきっと忘れているのだ。それで思い出そうとしたがきっかけが何もない。手掛かりもなく、記憶の糸もない。しかし何かあるはずだということだけが分かる。
 それで古いメモなどを引っ張り出したのだが、殆どは捨てている。そして今日の日付をもう一度確認するが、日付と絡むような事柄は思い出せない。たとえば誰かの誕生日とか。
 しかし、そんなものは忘れていても、問題はない。そんな内容ではなく、今日、何かをやる計画だったのだ。もっと大事なことで、記念日ではない。または何かの期限でもない。
 何かしないといけないのに、それが何か分からない。このまま日が暮れると実行できないまま終わる。そして取り返しのつかないことになるかもしれない。そんなレベルなら、しっかりと覚えているはずだし、スケジュール表にも書いてあるはず。だから別の用件なのだ。しかも別格、別枠のような。
 既に昼を過ぎている。もし出掛ける用事だったとすれば、間に合わないかもしれない。午前中に出ないといけない場所だと間に合わない。
 分かっているのは今日。今日にすべきことがあるはずだという程度。
 これは人と関係するのではないかと火野は最初に思ったのだが、誰とも約束した覚えはない。確かに人と合う用事はあるが、それは日付は分かっている。今日ではない。
 そして人と合うことを前提に、誰だろうかと考えてみた。軽く約束をし、メモもしないで、そのままだったとしても、これは社交辞令でない限り覚えているはず。日付は忘れても、誰との約束か程度は。
 しかし、日付だけを覚えているというのはおかしい。余程今日という日が特別な日なのか、偶然今日なのか、それも分からないのだから、何ともならない。
 過去に死神と出合い、あなたの寿命はその日までと言われたのだろうか。その日が今日。しかし、そんなことは信じたくないので、忘れようとした。都合が悪いことは忘れることにしているので。
 しかし、そんな死神に出合ったことはない。あったら大変だ。
 結局火野はその日のうちには思い出せなかった。
 翌朝起きたとき、目をそっと開けたのだが、この世だった。そして、その後も特に変わったことがない。ただの勘違いだったと解釈し、もう気にしなくなった。それにあのときの今日はもう終わったのだから、何をしても手遅れだろう。
 それから数日後、火野は昔の日誌を整理していた。大学ノート数冊分ある。置き場所を変えるためだが、それとなくその一冊を開け、昔はどんなことを思っていたのかと、適当なページをめくった。
 解答はそこにあった。
 三十年前の日付。そして三十年後には行ってみる、となっている。計算すれば、この前のあの日だ。何かをやるはずの日だと感じたあの日。
 そんなこと、覚えているはずがない。そして、何をやるのかも実はつまらないことで、三十年後ならもう結構な年なので、行けるだろうというような内容。それはちょとした思い出の場所。大事な用件でも何でもない。
 三十年後に作動するスイッチを、このとき入れたのだろう。そして、作動はしたが、中身までは覚えていなかったようだ。
 
   了

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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