低レベル

 平田氏は低次元の素晴らしさに気が付いた。もの凄く良いものではなく、ほどほどのもの。最低線をギリギリクリアしたような並レベルのもの。だが、並よりも少し劣るが、実用性を損なわない程度のもの。
 高級ではなく、普及。その下は粗悪なもので、使えないようなシロモノになるため、それは避ける。なぜなら実用性がないので、使えないためだ。
 高次元を目指すのではなく、低次元を目指す。これは目指さなくても、既に手に入れている。低レベルなので、簡単に手に入るし、また実行できる。上等ではなく下等。勝とうと思わないためだが、勝負したくないのだろう。それができるレベルにいないため、そのステージ上にはいない。これはそこに立ちたくないので、棄権しなくても参加資格が最初からない。
 学校での成績が悪い場合、進学校が厳しくなるが、一番低いレベルでも入れる学校がある。そこだと低レベルを保ったままの人達なので、非常に楽。むしろこれまで末席だったのが、主席なっていたりする。周囲のレベルが低すぎるためだ。
 それよりも程度の低いことをしていると、気楽。本格的ではなく、ずっと素人のまま。プロではなくアマ。アマの中でもハイアマではなくローアマ。入門者、初心者以前のレベル。
 平田氏はそういうところにずっといた。最初から打たれている杭なので、打たれることはない。むしろ下から叩いて持ち上げないと、杭が杭であることの意味がなくなるほど。
 低レベルほど安定している。そのため平田氏は若い頃から低レベルを保っての活発な動きに定評があり、重心の低さ、頭の低さ、すぐに身を引く謙虚さ、等々で安定した人生を送っていた。
「いやいや、私なんて、生きているだけで、一杯一杯ですよ」
「ご謙遜を」
「私などがこの地位にいるのは不似合い。何度も辞めようとしたのですがね」
「天下の平田さんがそのようなことを」
「私はもっともっと下の人間なのですよ。皆さん何か誤解されておられます」
「天下の大人物ではありませんか」
「いやいや。私なんて小物も小物」
 しかし、平田氏の思惑とは違い、非常に高い地位に昇ってしまったのだ。掃いて捨てるようないくらでもいる木っ端役人が、大きな役職に就いているようなもの。
 目指していたその他大勢の中の一人とは全く違う。
 低いものを目指していたのだが、逆に高いところに上ってしまったのだ。
 この平田氏、その世界では独裁者に近い力がある。しかし、自分で決めたことなど何もない。
 だから平田氏のレベルの低さは昔のままで、それを貫き通していることは確か。
 これは学校で級長を決めるとき、なり手が誰もおらず、誰も立候補しない。それであまり成績に恵まれない生徒を全員で推薦し、級長にしたようなもの。
 一番上に低レベルの人を置くことで、システムが非常に安定するのか、平田氏の天下は長く続いた。
 という話が本当にあるかもしれない。
 
   了
 

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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