日曜の裏集会

 毎日、年寄りグループが来ている喫茶店がある。しかし、毎日ではなく、日曜日は集会がないようで、姿を見せない。毎日集まっているといっても休みがあるのだ。だから、厳密に言えば毎日ではない。

 吉岡は毎日この喫茶店に来ている。他にも何人か、同じように毎日来ている客がいる。しかし、来ていても吉岡が見ていない日もある。だから毎日かどうかは分からない。ところが年寄りグループは目立つので、来ていないとすぐに分かる。

 吉岡がドアを開けると、その正面の奥に必ず年寄りグループがいる。その奥中央の席がふさがっているときは左か右のテーブルにいる。そこもふさがっているときは左の壁際か右の壁際。いずれも六人か七人いるので、すぐに分かる。

 年寄りグループがいないときは吉岡が早く来たためだ。吉岡が店を出るとき、まだ年寄りがいる場合、吉岡が早く出たことになる。また、出るとき、もう年寄りグループがいないときは吉岡が遅くに来たか、または長くいたことになる。つまり時計にもなるのだ。

 その日は日曜日で、年寄りグループがいない日。これはいつもの人達がいないので、少し寂しい。あるべき備品がないような感じだ。

 そして、たまに耳に聞こえてくる話し声もしない。この話し声だけで、あるストーリーができそうだ。また、ここからかなり離れた町の話などもしている。そこにある店屋とかだ。吉岡もおおよそその辺りには明るいのだが、滅多に行ったことはない。そこに高い喫茶店があり、そこに入った話などもしている。町の噂が聞けるため、吉岡はたまに耳を立てる。

 また、誰かが入院したとかの話もあり、その続きもやっている。当然名前も分かっている。

 またいつも出て来る名前がある。その人は集まりには参加していない。この喫茶店はセルフサービスの安い店で、その人はこんな店には来ないらしい。つまり下々が通うような店には。

 最初は雑音として耳に入っていたが、断片的だが、その話を繋いでいくと、筋になる。

 今日はいないので、その続きは聴けないが、それが目的で吉岡は来ているわけではない。本を読みに来ているのだが、その本の内容よりも興味深かったりする。詳細は分からないので、吉岡が勝手に繋げているのかもしれない。

 今日は年寄りグループがいないので、時間が分からない。いつもはこの団体が去ったあとに吉岡は出る。

 他の常連客はどうだろうかと、店内を見渡すと、いる。

 いるのだ。

 年寄りグループの中の一人に間違いない。集まりは休みなので、一人ポツンと隅の方で座っている。

 よく考えると、行くところがないのだろう。毎日ここに来るのが日課になっているはずで、日曜日だけその日課が狂う。それで集まりの日ではないのに、来ているのだろう。

 いつも賑やかで、一声高い声を出す小男だ。野球帽を被っているが、今日は表情が全くない。まるで別人のように。

 その無表情が急に緩み、笑顔になった。もう一人入ってきたのだ。申し合わせていたのかどうかは分からない。そのもう一人も癖になってしまい、日曜日でも足が向かったのだろうか。

 これは、この年寄りグループの正規の集まりではない。

 吉岡は聞き耳を立てた。

 すると二人で年寄りグループのメンバー達の噂話をやり始めている。あの人は過激だとか、あとから来たあの人はリーダー格になったとか。誰それと誰それとは馬が合わないらしいとか、何々さんが可哀想だとか、人に関する話で始終していた。

 これは日曜特番、日曜特集として、十分濃い内容のため、吉岡はこの密談を楽しむことにした。

 

   了

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