エクソシスト

 大庄屋の娘に狐が憑いた。まだ幼い。小学校の三年生ほどだろうか。その頃から人見知りが激しくなっていた。
 親は色々なマジナイを試みたが、効かない。
 祈祷師の婆さんの祈祷でも治らない。娘は狐の真似はしないものの、挙動不審、落ち着きがなく、動きが動物的。しつけを守らず、履き物のまま座敷を歩く。寝る時間は決まっておらず、ところ構わず寝ていたり、夜中庭に出て、何かを追いかけたりしている。
 狐には悪いが、狐が憑いたと、この状態では言うだろう。狐というより、獣的になっている。
 その頃、村寺に山伏が滞在していた。山伏は山野に伏し、寝起きもそこでする。しかし年取った山伏らしく、春先とはいえ、まだ寒いので、野宿は無理らしい。
 当然庄屋は村寺を訪ね、山伏に頼む。
 山伏とは修験者のことで、自然の中に身を置き、そこで修行する。決まった山もあるが、この老山伏は里山を移動している。
 しかし、大寺の僧でもある。これは仏像を拝むのではなく、山野に入っての修行を好んだためだろう。それよりも総本山には僧が多く、高齢だが高僧にはなれず、外に出た。同じ宗派の末寺で寝泊まりすることが多いので、山伏とはもう言えないが、その扮装はどう見ても山伏。
 大寺の高僧と勘違いされたのか、庄屋は山伏を丁寧に迎え入れ、狐落としを頼んだ。
 山伏は娘をしばらく観察しているうちに、野山の動物と同じ匂いを嗅いだ。それがあふれ出してしまったのだろう。
 山伏はその子と二人きりにしてくれと頼み、離れのさらに奥にある蔵座敷に入った。
 ここは座敷牢として使われていた場所だが、もし娘が手の付けられないほど暴れるようなことがあっっとすれば、ここに押し込めるしかない。
 娘は嫌な顔をしながらも、山伏に興味が沸いたのか同行した。
 上目遣いで、瞳からの光が細い。口は半開き、鼻と口の間が膨らんでいる。
 山伏はじっと娘を見詰めながら、様子を窺っている。
 節穴の奥は真っ黒。山伏は奥目のためか、節穴のような目になっている。白目が見えない。これはあるのだが、影になって、見えないだけ。
 その節穴の目と、娘の尖った瞳がしばらく戦っていたのだ、娘の瞳が少し丸くなった瞬間、ギャオーと叫び、真っ赤な顔をして歯をむき出した。
 娘は後ろを向き、尻を向けた。
 負けました、ということだろう。
 そのあと、娘は怖かったのか、泣きだした。
 娘の獣性より、老山伏の獣性の方が強かったのだろう。これで娘の獣性は奥へ逃げ込んだらしく、元の娘に戻っていた。
 しかし、山伏も倒れた。
 血圧を上げすぎたようだ。
 
   了

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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