真逆の人

 今日は簡単に済ませようと思うときは保守的で消極的なとき、できれば籠もっていたいが何かとやることがあるため、最低限のことはしないといけない。
 樋口はそんなときは神がサボりなさいと進めてくれると理解する。いったいどんな神で、どんなプロセスでの理解なのかは謎なのだが、啓示のように直接来るのだろう。しかし啓示を発している天の声は樋口自身のもの。つまり臭い声を出しているわけだ。
 この臭みは体臭のようなもので、樋口の匂い。意外と本人は臭く感じない。慣れた匂いであり、もう匂いそのものが分からない。
 さて、その日は何もしたくなかったのだが、仕事を終えないといけない。その日の分だ。これを残すと明日が辛い。その明日もサボると週末が辛い。さらにそこもサボると月末、そして年末が辛いが、そこまで引っ張らないだろう。途中で、もうやらなくなるか、放置する。
 その日の一寸したサボり心が、その後大きな影響を与えるかもしれない。これは善行を積めば良い事が起こるよりも確率は高い。
 時計を見ると定時まで間がある。簡単にやれば間に合う。それどころか時間が余るだろう。丁寧にやれば時間が足りないほど忙しい。そして今日はやる気がないので、それは無理。
 結局さっさと済ませて早い目に終え、社を出た。ラフすぎたかもしれないが、意外と早くできることが分かった。では今までどんなやり方をしていたのだろう。結論は丁寧にする必要はなかったことになる。馬鹿丁寧すぎたのだ。
 これは入社したときから丁寧な人、几帳面な人として評価されたため、それが尾を引いている。実はそれは偽装だった。本当はそんな人間ではない。しかしこの嘘を長く続けた。期待を裏切らないように、また違う面を出すのが嫌なため。
 本当は怠け者で、何もしたくない。だから仕事などしたくない。これが本音だ。そのため、それを隠すため、人一倍よく働き、丁寧で几帳面さを出し過ぎた。過剰なほど。
 それは今も続けているが、一寸しんどいとき、やる気がないとき、その地金が出る。
 樋口にとり、自分を解放するとは、眠らせること。新たな面を出すのではなく、怠け者の本姓に戻るだけ。しかし、これは禁じ手なので使えない。
 世の中には実は真逆の人だったというのが結構いるものだ。
 
   了

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川崎ゆきお

川崎ゆきお超短編小説 コレクション 5

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