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マラソンシーンで胸がいっぱいになった「パリ、嘘つきな恋」

 「最強のふたり」を好きな映画トップ10の中に入れている。その制作会社が発表した「パリ、嘘つきな恋」。夫と、観たいねと話していたけど、ブルーレイで出てからかな、ネットで観るかもな、などと思っていた。
 主人公の男性が亡くなった母親の車椅子に乗っているところを見つかり、そのまま足が不自由だと嘘をつき始めたら、同じく足が不自由な女性を紹介され、どんどん後に引き下がれなくなる、と映画予告で紹介されていて、面白そうだなと。

*ネタバレあります


 観てみると、その年齢設定にびっくり。50手前って言っている。同じくらいじゃないか。
 主人公のジョスランがとにかく軽薄で、女性をとっかえひっかえ。それは遊ぶ人の多くに言えることだろうけれど、人の気持ちに関心を持たず、思いやらない。
 紹介されたフロランスに惹かれていくが、最初についた嘘が雪だるま式に大きくなるばかりで、真実を打ち明けるきっかけや勇気をどんどん失っていく。

 幾つになっても、人は恋に落ちたらカッコつけたくなって、無理して、でも素直になれたら本当に愛し合う二人になれるんだなあと思う。


 相手役のフロランスが大変魅力的で、笑顔も素敵。車椅子でテニスもするし、ヴァイオリンも弾いてオーケストラに参加している。その明るく生き生きとした表情に心奪われるのもよくわかる。

 大人の恋愛を軽妙に、時に優雅に美しく見せてくれる映画だったが、何より感じたのは「大人」より「中年」だった。
 亡くなった母親や、おそらく老人福祉施設にいる父親との会話。
 いつまでも若い人と同じように自分がいられないことを、うっすら感じながらでも、その考えに支配されないように仕事をし、ジョギングをする。マラソン大会に出る。
 
 ジョスランはフロランスと出会うことによって、自分の気持ちに気づき、フロランスの気持ちを思いやることにようになる。そして最終的に自分のついてしまった嘘に打ちのめされて、ようやくしっかりと自分と向き合うようになる。自分の気持ちを向き合うようになると、周りの人の気持ちも考えられるようになった。

 秘書の若いマリーが、誰も私の誕生日なんて祝ってくれない、気づいてくれない、いつもこんな風に生きている、と泣いちゃうシーンに、主婦や母親としての気持ちを重ねてグッときたが、そこからマラソンのシーンに移り、涙をこらえきれなくなってしまった。
 度々マラソンをしてきて、ジョギングもそれなりにしてきたはずのジョスランが、マラソンの後半、身体的な衰えも多少あるのか、おそらく精神的なものが大きいと思うが、若い人たちと同じように走れない、そんな風景が目の前に広がっている様子に、どうしても胸が詰まった。

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 私の夫は、きっと今でも、いつかまた走りたいと思っているだろうなあと推測しているが、一時ジョギングにハマり、マラソン大会に度々出ていた。ぽっちゃり体型ながらフルマラソン4時間以内で走ったこともある。忙しくなってくると、ストレスがたまる! と走った。忙しいと走る暇もないはずだが、無理やり時間を作って走る時もあった。

 マラソン大会に行くと、私は主に会場でスタートとゴール付近で声援を送った。走るのが好きではない私は、息子が走る時で親子参加しか認められない大会の時以外は一緒に走らなかったが、会場の高揚した雰囲気や走っている皆の息遣いには独特の感動があり、その場に身を置くだけで良い気分になったものだった。
 だいたい夫が戻ってくる時間は聞いておいて、その頃にゴールとなるグランドより前の沿道に立ってそわそわする。

 戻ってくると、いつも呼んでいる名前じゃ恥ずかしいから、息子と一緒に「父さ~ん!」と声をかける。大会によって色々だったけど毎回、最低でも10キロに出ていたから、走ってきたヘトヘトの夫が、息子を見てちょっとだけ表情を崩して手を振ってくれる。
 それを見ているだけで胸がいっぱいになる。

 もちろん夫より年齢が上の人はざらにいて。年配のランナーにひときわ声援が送られる。
 皆がそれぞれに自分と闘って全力を振り絞り、ヘトヘトになりながら帰ってくる様子には心動かされる。


 そして今回の映画でのゴール近くのジョスラン。周りの若いランナー。愛した人への思い。孤独な闘い。もうもう胸が苦しい。

 この映画で泣いちゃうとは思わなかった。なんだか予想外の涙に自分で驚きながら映画館を出た。
 私の方が先に出たので、夫を待っていると、夫と同じ程度の白髪頭のおじさんが一人で次々と出てきて、何度も間違って声をかけそうになってしまった。後から出てきた夫も「いやあ、思っていたより良かった。観に来て良かった」と言っていた。
 おじさんたちにも人気の映画のようだ。



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