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「好き」について書くのは難しい!~少しだけ奥田民生のこと~

 好きな物事や人について「説明する」って、つくづく難しいし、下手だからためらう。

 具体的に「こんなところ」「あんなところ」が好き、と言っても、単に自分の好みで感覚的なものであって、理屈を説明し始めると、ちょっと違和感。
 人の性格に「優しいから!」とか「明るいから!」とか……自分が判断を下しているみたいで、言いながら、なんかそういうことじゃないんだよなあと思う。単に、目にしていると気分が良いとか、聴いていると心地良い、楽しいとかで、「だってそれが好きだから」としか言えなくて。
 それでも「何故?」と聞かれると一応説明してみるけど、結局、「ほほう」とか「へえ!」とかで終わる。
 人にわかってもらおう! と私なんかは諦めていて、それほど文章にしようという気がない。

 書いたところで上手く書けない。だから書かない―ってわけではなく、知っている人にしか、或いは好きな人にしか楽しめないようにしか書けない。
 映画だって、特にMCU(マーベル映画作品)のものになると、感情的になり過ぎて、自分の感じたことを自分本位に書けばもう自己満足になるとわかっていて、それで良いやと開き直って書いている。

 それに引き換え、嫌いな物を表現する時の繊細さよ。特に食べ物なんか、伝わるよう詳細に語れて盛り上がれる。もはやそれは好きの域では? と思うくらいに詳しくて、表現力豊か。

 でもnoteでは、好きな人や物について、どんなところに魅力を感じるか、何をきっかけにどういったところがどのくらい好きかを、詳細に、上手に語れる方が多い。皆さんの表現力に、元々興味がない人や物事でも感心するなんて多々ある。ああ私の貧しい表現力よ……。

***

 奥田民生の良さに目覚めたのは、今から25年ほど前。
 その前からユニコーンについては知っていた。高校生の頃、後輩だった中学生が教えてくれた。当時は「ああ、あの不思議なメロディラインを楽しむバンドね~……」くらいしか思わなかった。

 でも25歳になる頃、夫となる彼と、音楽の話で意気投合し、その彼が「きっと奥田民生の良さもわかると思う」と勧めてきたのだ。
 「つくば山」という曲があり、

 牛が鳴いてるよ~ 鳥が飛んでるよ~
 魚はねてるよ~ 犬は寝てるよ~

 なんて歌詞を聴いて、当時「なにこのユルさ」と笑っていた。

 でも次々と曲を聴いていけば、奥田民生自身の言う「歌詞は重要視していない」を真に受けることはなかった。「歌詞が出てこない」苦しみから逃げても良いんだと井上陽水から教わった、という言葉から、彼が本当は歌詞について葛藤やしんどさがあったことを思った。
 そのようなものから解放された彼だっただろうが、それでもグッとくる歌詞が随所に散りばめられている。
 説教臭さとか訴えかけるとか共感を呼ぶとかそんなではない、彼の心の内が、聴いている側の感じ方、受け取り方によって、いくらでも揺さぶられる歌詞が特徴だろうか。

 文章でもありますよね。何かを教えようと諭すわけでもない、感動を呼ぶためのものでもない、役に立つ情報でもない、何の押しつけもない、ただその人の感じたことが書かれていて、それがこちらの心を揺さぶるもの。そんなところだろうか。私は奥田民生のそれが大好きだ。

 「厳しいので有る」という曲がある。

 終わりだわ 才能がないや
 きびしいよ いますぐ逃げ出したいや
 昔夢見ていたおぼろげな僕は
 もっとすごいぜ

(※歌詞を全部載せるわけにはいかないにしても、ブツ切りで大変、大変申し訳ない)
 25年ほど前のアルバム「30」に入っているこの曲。先ほど書いた「つくば山」もその中に入っている。好きな曲はこのアルバムの中にたくさんあるけれど、この曲の歌詞に私は惚れた。

 ながらく、彼の人間性はどうでも良い、と思っていた。インタビュー記事もそれほど読まない。話す内容に熱心に食いつかない。ユニコーンも含めて、ほとんど全部アルバムを持っているけれど、ちゃんと曲名も歌詞も覚えない。でも彼が歌いだすと釘付けになる。ギターを弾く姿。歌をうたうその表情。力のこもった声。ステージでの上手さ。耳の良さ。上手く聴かせようなんてしていないのに上手い。歌詞から見える世界観。そして歌う立ち姿。それで充分好き。
 だから彼が何を喋ろうが私生活がどうだろうが関係ない。

 そんな風に思っていたけれど、飄々とした態度、ニコニコ笑いながら感情を出さないようにするシャイな部分は感じていて、それが奥田民生だと思っていた。

 そしてこれを読んで、音源も聴いて、私の頭の中でどくどくと心臓の波打つ音が聞こえてきた。
 

 おろちさんの文章を読み、そしてこの中のちゃこさんの文章を読み。

 全然知らなかった。
 知らないならファンじゃないと言うなら、それで良い。私はその程度。わかっている。
 でも。

「あの」奥田民生の声が震えている。
「あの」奥田民生が泣いている。
「あの」奥田民生がそれを超えて頑張って声を振り絞っている。

 おろちさんとちゃこさんの書いていること。奥田民生への思い。どんなところが好きか。まさにその通りだともうこれ以上書き足すことはないと思った。


 もしかしたら、「好き」を伝えるのは、単にその人や物の特徴を伝えるだけで良いのかもしれない。そこから好きになるかどうかは、やっぱりあくまでも受け取る側の感覚や相性なのだろうから。


 そして奥田民生の、人や物に対する距離感を、私たちは勝手に決めつけていたのかもしれない。
 「飄々としてシャイな彼」。
 そんな彼の魂を感じて、心を揺さぶられないファンなんていないだろう。

 普段、コミュニケートのないおろちさん、ちゃこさん、なので唐突に思われるかもしれないけれど、感激して書かずにはいられなかった。素敵なnoteをありがとうございます!!


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#note感想文

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