F1グランプリ期間真っ只中の金曜日。まさかの外国で終電を逃す。F1を観にくる時は近くの街ニースにホテルを確保している。近くといっても、電車で40分程度離れている。歩いて帰れる距離ではないのである。明日はF1の予選がある。ドライバー達を応援するため、一刻も早く身体を休め、備えなければならないのにうっかりしていた。とはいえ、時刻はまだ21時50分である。昨日木曜日には22時代の電車が確かにあった。それに乗って無事に帰ってきた。モナコでは連日F1を見に来た客で溢れており、パーティーも開催されている。なのになぜ、金曜日の方が終電が早いのだ・・・。解せぬ…。

駅の入り口の電光掲示板には、無情にも朝6時09分の電車しか表示されていなかった。焦る。とにかく列車のホームまで向かってみる。モナコは国土が非常に小さい国のため、駅は一つだ。そのためいろんな方面から駅に入れるようになっているが、実際に電車に乗るホームまではかなり遠くなっている。そのため、長い通路を数分歩かなくてはならない。早歩きで向かって見るも、電車はやはり跡形もなかった。人もまばらである。ホームに登る前のエスカレーターの麓にいたおじさんが途方に暮れた様子で「これは痛い（ストライク）だ」。と首を横に振ってみせた。こうなればバスに頼るしかないだろう。

駅の通路を抜け出ると、若い黒人男性が声をかけてきた。「もしかしたら君たちを助けられるかもしれない。終電がないんだろ？」親切にもスマホでバスの時間を調べてくれた。しかし新しい情報は特になかった。「ごめんな、あまり助けることができなくて」。そういって去っていってしまった。

その親切心だけでもだいぶ慰められた。ニース行きのバス停に向かってみると、かなりの観光客が待っていた。607番のバスがニースへ向かうらしい。しかし23時代の1回だけだ。それを逃すともうタクシーしかない。バスがどれくらい混むのかもわからないし、F1開催中で、バスが正規のルートを通るかもわからないのである。

バスが使えない・・・。困ったらホテルを目指せ！

仕方なく、タクシーを探す戦略に切り替えた。しかしタクシー乗り場がすぐに見つかる状況じゃない。道路は車で来た観戦客でいっぱいで混雑していた。タクシーは見当たらない。1コーナーの近く（F1オタクの人は伝わるかな？）付近にレストランがあったので、そこで呼べるかと思ったが、道路から離れており、たとえ呼んでもらったとしても、タクシーとの合流は難しそうに見えた。こうなったら、ホテルを探すしかない。

我々が唯一知っているモナコのホテル、エルミタージュは、2019年に一度宿泊しにきた。とても美しいホテルで、ツアーで乗せてもらったフェラーリのエンジンを最後にエントランス前でふかさせてもらったら、ドアマンに怒られた。格式高い、上品なホテルなのである。そのエルミタージュへ向かえば、何らかのタクシーは見つかるだろう。そうあたりをつけて、ホテルへ向かった。

このホテルが結構難所にあるのである。モナコは切り立った崖の上に建物があるケースが多いので、目的地に行くまでに結構骨が折れる。エルミタージュも崖の上の方にある。1コーナーをまっすぐ登ると、カジノや高級ショップが立ち並ぶエリアがある。駅からここまで行くのには、ちょっとしたハイキングである。2019年は、崖になっていることを知らずに5月の暑い日差しの中、汗だくでエルミタージュを目指すことになった。高級ホテルのフロントに入るのが大変気まずかった思い出がある。F1マシンは数秒で登れるのに、歩きとなるととても大変だ。

日が長いヨーロッパとはいえ22時はすでに真っ暗である。汗だくになる心配はないが、かなり焦っている。F1期間中にモナコに宿泊するにも、一泊30万円の部屋は普通だ。モナコの宿泊も考えたが、現実的ではなかった。綺麗な夜景と、港で開催されている大音量のパーティーを横面に、崖を登り始めた。綺麗な夜景をカメラに収める。一方、配偶者は気が気でないようで、わき目も降らずにホテルへと向かっていった。「ちょっと止まって！景色を撮るから！」。私は比較的楽観視していた。伊達に夜のモロッコでゴミ溜め前に降ろされていないのである。（モロッコ旅行記はそのうち更新します）。

いざ、荘厳なホテルに到着し、ドアマンにタクシーが必要なことを伝える。ドアマンは、我々にタクシーを手配してくれるところまでは行かなかったが、タクシーを呼ぶ方法を教えてくれた。あの緑色の電柱が見えるだろ。あそこに書かれている番号に電話してくれ。そりゃそうだ。タクシを手配してくれるのは精々宿泊客だけだろう。あとは自力で。

教えてもらった場所に行くと、近くにタクシーが1台止まっているのを見つけた。近くの人がタクシーを探しているようで、駐車しているその1台に声をかけるも、指定された客を待っているらしい。観察していると、しばらく窓を開けて話し込んでいるようだったが、最終的には断られていた。みんな困っている。

電柱の近くにいくと、ひと組のカップルが、同じくタクシーを探して困っていた。我々と同じように道を行ったり来たりしている。電柱に書かれているタクシー会社の電話番号に連絡しろ、と言われているため電話するつもりだと話すと、男性の方が、私たちの分も手配してくれるという。英語やフランス語ができない我々にとってはありがたい申し出だった。「タクシーを2台頼む」。すると、20分後にかけ直してくれ、とのことだった。タクシー利用者がたくさんいて、配車が間に合っていないようだ。毎年こうなのだろうか…。終電の時間を遅らせて欲しい。

「とにかく20分後にかけなおせと言われた。それまで我々はホテルのロビーで休むことにするよ」。そういって、カップルはホテルの回転ドアの向こうに消えていった。

取り残された我々は、しかたなくその場でしばらく待つことにした。あの止まっているタクシーは何なのだろう。この間に我々を運んでくれれば儲かるのに。みつめていると、その止まっているタクシーに、また何人かが声をかけていったが、毎回窓を開けて応じているのを観て、それにしても、真面目な運転手だな…と思った。

エルミタージュに到着したタクシーを拾おうとしても、次の客が決まっているらしい。空車を拾うのは至難の業だった。やはり電話するしかない。20分立たないうちに、もう一度電話をかけることにしてみた。今度はなんとか繋がり、「エルミタージュホテルの前にいるのですが」ということを伝えられた。すると、「ザハの前か。ザハの前で待て。名前は？と言われる」。名前を伝え、電話はすぐに切られた。あれで大丈夫だったのか心配になる程だ。「ザハ」って何だ…？と数秒考えるも、解決。ああ、「ZARA」のことか。ここはフランスなので、発音が「ザハ」になるのだった。振り返るとちゃんと「ザハ」がある。ここでしばらく待てば間違いなさそうであった。

ホテルのロビーに消えた2人は、まだ現れなかった。彼らの分もタクシーを呼ぶべきだったかと悩んだが、姿がないのでそのままにしておいた。やっとのことでZARAの前に1台のタクシーが停車した。すると、自分たちよりも手前にいた別のカップルが乗り込めないか交渉しようとしてる。しかし運転手は「あなたは電話した〇〇か？」という確認を取ってくれたため、無事に私たちが乗り込むことになった。

F1ドライバーを乗せたことがあるタクシー運転手！

タクシー運転手は話しかけてくるタイプで、車で数十分の間に面白い話が聞けた。モナコに住んでいるモナコ人で、タクシードライバーをやっているらしい。最近はインドネシアに旅行した。次は日本が良いが、飛行機が長い…。そういえば、F1ドライバーを乗せたこともあるよ。

「えっ、本当に？？」「本当さ。ルイス・ハミルトンは気さくな人だよ。チャールズもさ。」

そんな話を聞くことができてラッキーだった。さっすが…モナコである。

高速道路に乗り、右手にニースの街の明かりがポツポツと現れた。「ここはニースの端さ。ここら辺のマクドナルドには薬物を売るようなバッド・マクドナルドがあるよ」。そう教えてくれた。「これこれ、このマクドナルドは危険」。その脇を通り過ぎる。ニースは最も気に入った街なので、そのような一面があることには驚いた。街に入って仕舞えばあっという間で、なんと翌日になる15分前にニースに到着することができた。あとから知ったが、モナコでタクシーを手配する際には、我々が電話した会社しか方法はないらしい。タクシーに困ったら、拾われやすいところに移動して、上記の写真の電話番号にかけてみてほしい。

モナコ→ニース　かかった金額は130ユーロ

モナコからニースまでは130ユーロ。高い金額を払ったが、夜の外国ドライブはそうそうできることではない。なかなか良い体験だったと思う。そうそう、終電を逃したおかげで、かの有名なセバスチャン・ベッテルにサインをもらえたのは、また別の話。（そのうち更新します！）

モナコの旅は続く…。