色が消えた世界
#一駅ぶんのおどろき** 参加記事です。**
始
遠い昔に色が消えた世界。
歴史書物が制限された国。誰も本当のことを知らない。この世界のヒントを探して、僕は今日も秘密の地下図書館へ。
住み慣れた街から、廃墟状態の隣街までモノレールで移動する。錆びた缶コーヒーと今にも落ちそうなアーケードの屋根。
アーケード入り口から、3つ目の路地を右に曲がる。1つ目の扉を開けて、長い階段を下る。
2つ目の扉を開ければ、そこは情報の宝箱。この地下図書館には、この時空の、この国の機密情報も隠されている。
表向きは時空体験ブックとして置かれているタイムトラベラーブックなんて代物も。
なんで、そんなことを知ってるかって?
僕はこれまでに何度も、ここに来ているからね。子供の頃、タイムトラベラーブックを実際に借りたことがある。もちろん、そんなモノだと知らなかったけれど。今でも、あの日の感動は忘れない。人生の転機ってやつかな。
情報が制限された世界。だいたい直感で選ぶ。あの日も、どこか惹かれた本を選んだだけ。挿絵が多くて子どもだった僕にはちょうど良かった。そして、本を片手に地上に向かって階段を上がり、扉を開けた。
その瞬間、少し目を閉じてしまったんだ。外が眩しくて。1歩2歩と歩きながら、ゆっくり目を開くと、そこは見たことのない風景が広がっていたんだ。
緑豊かな森、草原。空は青く、風が心地いい。
いきなり世界観が変わると怖い?
いやぁ、僕は恐怖心より好奇心が勝ったね。そのまま丘まで駆け上がり、不規則に並ぶ岩の1つを背もたれに本を読んだ。時々、遠くの景色を楽しみながらね。
それから、その色鮮やかな時空で、家を出たきりの父と再会した。偶然の出来事だった。あの日の、ほんの十数分の再会と別れが僕を変えた。
父さん。
父さんは今、どの時空にいるんだ。必ず迎えに行くと言って別れてから何年経ったんだ。母さんも待っているのに。
危険を冒してまでタイムトラベラーになってさ、元の時空に帰るルートを探す為にって。祖父の代から何年も。
僕たちは、あるいは、この国の住人たちも、本当の住人ではないかもしれないのだ。
先週、合格通知が届いた。従順な公人を育成する大学。高給取りになる為じゃない。目的は、卒業後の国家中核内部への配属権利。
父さんが、禁止されているタイムトラベルをしてまで密かにルートを探してるなら。僕は、真正面から、違和感まみれのこの国の秘密を暴き、ルートを見つける。
11歳のあの日から、僕も旅人になった。
終
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