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夢中(ゆめなか)1話

死人にどうにかして会えないだろうか。大切な人を失ってしまったことがある人なら一回は思ったことがあるだろう。その対象が大切な人じゃなくてもいい。
 
例えば戦国の時代を生きた織田信長に会いたい人もいれば、偉大な発明家エジソンに会いたい人もいる。婚約を約束してこの世からいなくなってしまった彼女に会いたい人や、自分が小さい時に可愛がってくれたおばあちゃんに会いたい人もいる。
 
今回その対象になるのはおれの親友だ。

俺には親友(たかと)が居た。
 
居たということはこの世にはもう居ないと言うことだ。なぜこの世からログアウトしたかというと、生まれつき心臓の周りの血管が普通の人より細く心臓に血液が行かなくなってしまったことが原因だった。

突然、親友がこの世からいなくなってしまって俺のことを理解してくれる人がこの世界に1人もいなくなってしまった。

俺は友達が多い方ではなく、心から友達と言えて何でも話し合えるのがたかと1人だけだった。

1人”だけ”だったと言ったが、1人でもそのような関係になれただけでも俺は幸せ者だったと思う。けれど、その親友が亡くなってしまった。

 たかとがいなくなって気づいたことがある。もちろん親友が死んで悲しい気持ちが強くあった。しかし、後悔がそれほどなかったのだ。

 一体なぜ後悔があまりなかったかというと、それはいたってシンプルなことだった。
 
俺たちは普段から「お前は俺の親友だ」と言葉にして感謝の気持ちを伝えていたからだ。

今思うと、なかなか恥ずかしいことを伝えていたなと思う。普通は恥ずかしくて言えないことも俺たちは普通ではなかったので言い合えていた。

喧嘩をして会えなくなってしまったり、事故で会えなくなってしまったり、そのような別れ方だったら、普段感謝の気持ちを伝え合っていたとしても後悔というか、これから先、俺の心のどこかで何かがチクチクしていただろう。

だが今回は急なことが急に起きてしまった不運なことだったのでよく今まで生きてくれた。天国でしっかりと休んでくれ。と思える。いやもしかしたら自分にそういう風に言い聞かせていたのかもしれない。

たかとの死を知らされた時俺は免許センターにいた。

普通免許を取りに行っていたのではない。普通免許は高校三年生の時に取っていたので今回は普通二輪免許を取りに行っていた。

たかとが原付を持っていて、1回乗らしてくれたことがあった。原付だったけれど今まで感じたことの無いような風の感覚がそこにあった。50cc以上のバイクはどんな風が待っているのだろうと思い、普通二輪免許を取りに行くとことにした。

俺はよくたかとに、
「免許取ったらドラスタで迎えに行くからな!」
と言っていた。

普通二輪免許を取ってから1年の間は後ろに人を乗せては行けないのだけれど、俺ははやくたかとに250ccの風を体感して欲しかった。

免許センターで教官の説明が終わって休憩しているときだった。

スマホがLINEを通知した。内容を確認してみると、
「先日、山川 貴人(たかと)くんが亡くなりました。」
と書いてあった。

最初は何の冗談だよとか思っていたけれど、冷静に考えてみれば、たかとからのLINEが来てない、こんな冗談を言う必要があるのか、いや必要ない。

真っ先にたかとにLINEした。
「おい生きてるよな?」
既読がつかない。
うそだろ?

教官が戻ってきて休憩が終了した。

そこから色々説明されたが何も覚えていない。頭の中はたかとで埋まっていた。
「本当に死んでしまったのか。」
次は免許の写真撮影ということだけ理解していた。

説明が終わり、スマホを見た。たかとからのLINEは来てない。たかとのトークルームを開き、既読ついてるか見てみた。そしたら既読がついていた。

もしかしたら生きてるかもしれない。1パーセントでも可能性があるならそれを信じたかった。

もう一度LINEした。
「頼むから嘘って言ってくれ。」

LINEして約2分後にたかとから電話が来た。

たかとから電話が来た時、 何が起きているのか理解が追いつかなかったため、電話に出遅れた。
電話に出ると、電話の相手はたかとの彼女(みおちゃん)だった。みおちゃんは俺達の3個下の高校1年生だ。

みおちゃんは泣きながら、たかとが死んでしまった経緯を教えてくれて、最後に、
「今、たかとの家にいます。もうどうすればいいか分かりません、、」

俺もどうすればいいかわからなかった。

とりあえず、免許の写真撮影が終わったらたかとの家に向かうとみおちゃんに伝え、写真撮影に向かった。

写真撮影は目が腫れて顔が少し赤くなってしまった。あとから配られた免許証をみて酷い顔だなと思った。

新しい免許証が配られてから俺は一目散に車でたかとの家に向かった。


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