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ノウワン 第七段 漆黒(パート2)

 佐伯投馬を始めとするアラハバキ中枢部のメンバーが次々と円卓に着き、最後に小学生が燕尾服を着た男に手を引かれて入口から最も遠い席に腰掛けた。
 「うおおお、凄い!オトナの世界じゃん!!」
 我妻 健には舞台の中で『一見破天荒にみえるけれども実はシナリオ通りに動き、話を円滑に進める』そんな機能はない、本当に只のナマモノの小学生だ。この会議室の人間、御屋形に近いであろう佐伯や大中といった人物でさえその意図は掴めずに神経をヒリつかせている。
 
 「御屋形様は何考えてやがるんだ?」丸山 デイビスは自分の神経がささくれていくのを感じていたが、右隣の矢島教授から手書きのメモを渡されて更に目眩をおぼえた。『御屋形様のご友人は熱心党、間違いない』。熱心党はあまりに小規模な宗教団体であったが大和国中で的確に風俗・道徳・秩序・生活習慣の破壊を行っている、しかしながらマスメディアとそれを好む企業(スポンサー)を既に乗っ取っているためその活動は報道されることもなく、コモンセンスの制御が機能せずその影響から逃れている。(こういったことは別の時空の世界でも同じように行われているだろう。)あの安物の黒いスーツに貫禄のないYシャツとネクタイ、痩せっぽちの体躯、あいつが熱心党、あれが「御屋形様のご友人」か。なんで御屋形様はあんな奴を俺たちアラハバキに招き入れた?気持ちが悪い、納得いかねぇ。

 「皆様多忙の中御足労ありがとうございます。わたくし時田がこの会議の進行を務めさせていただきます、この度の事案は先週おこった西横堀川での不可解なテロに関してのことです。神憑りが関与しているのは間違いありません。本来なら皆様のご意見を先ず賜りたい所ではありますが、今回は私がこのテロの不可解な点を指摘し、その上で皆様のご意見を伺いたく思います。会議の進行上それが一番よろしいと思いますが、皆様よろしいでしょうか?」
 一同無言だが、時田は念をおして矢島教授に問いた。「矢島教授、よろしいですね?」「ああ、俺もそっちのほうがやりやすい」。矢島隼人はあの西横堀川で起こった不可解なテロ、そこで神憑りによって何が行われたか?を全て説明できる。彼にはその能力と経験があった。

 「先ず、一般的に公開されていない情報ですが、河内湖の堤防を決壊させた人物、これは越中 一樹です。後で皆様に紹介しますが有名な特撮監督で、その犯行動機は彼個人的な欲求によるものです。また彼は西横堀川の工事予定地のべ6kmを瞬時に掘削した者、つまり神憑りとは無関係で何ら接点を持ちません。つまり越中はあの場面で神懸りが現れるということを予期などしておらず、当然のことながら神憑りと打ち合わせなどしていないということです。ここで第一の疑問が生じます、何故、あの場面で都合よく、神憑りは現れることができたのか?ということです。事件現場に名探偵が偶然いあわせる、我々はそういったミステリーの世界の住人ではないのですから、これは不可解極まりないというしかありません。」
 「あ、僕しってる!身体は子供、頭脳は大人ってヤツでしょ?」
 「タケル様は実に聡明でございますね、何万人に一人といった超人的な能力を持つ名探偵が事件の現場にたまたま偶然居合わせて全てを解決させる。そのような可能性は現実においてはほぼ皆無なのです。なぜたまたま偶然にもあの現場に神憑りがいたのでしょうか?」
 「おい待てよ、つまり越中って何万人も実際に殺そうとしたテロリストなんだよな?今はこの場にいないがそんな奴がなんでこの会議の参加者リストに載っているんだ?おかしいだろ?」
 「丸山殿、ご意見は先ず私がこの事案の不可解な点を全て提示してから頂きたいと存じます。先ほどそのように申し上げましたが?」
 時田 琢磨は我妻家の執事である。その行動や言動に一切の無駄はない。 
 「幸いにも今回の神憑りは複数のアラハバキによって目撃されております。今からその現場に居合わせた佐伯様と大中様に証言を読み上げていただきます。」
 佐伯投馬が立ち上がり河内湖の堤防から見た「黒いトレンチコートの奴」の目撃証言を述べた。


 時田が続けて事態の異常性を時系列に沿って説明をした。
 「つまり二度目に放った神憑りの蹴り、これは明らかにおかしいのです。ライフルを刻んだ弾丸ではないのですから蹴りによる貫通力には限界があります、その衝撃は放射線状に広がるべきです。にも関わらず神憑りの蹴りは見事に指向性を持って堀を8kmに及んで刻んでいる。これが第二の疑問点です。」

 「更に第三の疑問点。逢坂市は京都市とは違います、その街並みは碁盤の目のように張り巡らせられてはいないのです。しかしながら神憑りのキックの威力は曲がりくねった逢坂の街中の道路を沿うように蛇行してその土砂を掘削し続けていった。一度蹴ったボールに追いつくことが出来ることはサッカー選手がドリブルで証明していますが、あの日起きた現象はそのようなスポーツの常識では済むものではありません。一度蹴ったボールを触れもせずにその軌道をあそこまで自由自在に自己都合でコントロールすることは翼があっても不可能です。」
 「ボールは友達!」
 「そう、我々の世界で異次元のプレーをするサッカー少年もまた存在しません。この世界はジャンプのそれではないのです。タケル様は実によくわかっていらっしゃる、時田は坊ちゃんの将来が楽しみでなりません。」
 「おい、ちょっと待ってくれ、もう我慢できねぇ。さっきから神憑りって単語が連発されているが、俺も佐伯もそれが先ずわからねぇ。何なんだ神憑りって?」
 「なるほど、大中様。困りましたね、しかし確かにそうですね。。。この時田としたことが失礼いたしました。神憑りとは今はこの世界の秩序を正す代行者と認識して頂ければ結構です。」
 「なんだそれ?正義の味方ってことか?」
 「正義の味方。それは乱れた人間の秩序を正す者のことです、そうではなく神憑りはあくまでも世界の秩序を正す者であり、おそらくは神の代行者です。」
 佐伯と大中は互いに顔を見合わせた。意味がわからない。
 「議題を進めます。」

 「第四の疑問点はなぜあれほどの破壊が行われながら、逢坂市民に死傷者が一人として出なかったのか?ということです。これに関してアラハバキの量子コンピューターがその可能性を割り出したところ0.0000000001%という数字がはじき出されました。先ず有り得ません。」
 「第五の疑問点は西横堀川開発予定地の土砂が瞬く間に竜巻と共に連れ去られ逢坂湾と海遊館付近に見事に振り落ちた所です。あまりにも美しすぎます、都合が良すぎると言ってもいいでしょう。本来このような秩序だった作業は突き詰めれば何らかの物理法則に基づくものですが、我々はそのような物理法則を知らないのです。この5つの問題を精査し、この新たな6番目の神憑りに対応策を錬る。それが今回の会議の趣旨です。」

 大中は当然と言って良い懊悩に見舞われた。
 おいおいおいおい、なんだってんだ、これ?御屋形様の命令で会議に参加したが、俺は確か、そう智恵へのスケベ心が原因で色々あって河内湖の堤防の上でドラム缶に詰め込まれて、そこで死ぬ予定だったんだよな?世界の秩序?神の代行者?アラハバキはやばい組織だってのはわかってるつもりだが、これは想像を超えてるぜ。あれから一週間、佐伯に協力してもらって「黒いトレンチコートの奴」を探しまくった。特徴のあるコートだったからな、それなりに有名な服屋をくまなく調べまくった、だが手がかり虚しく捜査は空振りに終わった。神憑り?なんなんだアイツは?そもそもアラハバキは何故いまでも俺を生かしたままにしておく?そんな甘い組織じゃないよな?
 

 佐伯 投馬が発言する。
 「時田さんに聞きたい。その神憑りってのは人間なんだよな、少なくとも俺にはそう見えたんだが?」
 「ええ、おそらく我々と同じ普通の人間です。」
 「だったら俺たちと同じように何らかの社会的な組織に属しているはずだし、その身元を探りそこから身辺を調査するのが基本だ。」
 「佐伯様がその道のプロだということは存じ上げておりますが、非常に危険だと思われます。お勧めしません。」
 「なぜ?」
 「神憑りを追う者は尽く不可解な死を遂げます。先週も、とあるアラハバキの者が深追いをしたあまり行方不明となっております。天罰という言葉はあまり好きではないのですが、神憑りを追う者はいつでも最期には悲惨な死を被るのです。」
 天罰?にわかに信じがたいな。それにこの部屋で専門家が知恵を出し合ったくらいで奴を見つけ出せるとは思えない。あの猫の着ぐるみを着た女、アラハバキの会議に着ぐるみでコスプレして来る奴なんぞ初めて見るぞ。それに奥に座ってる鼻デカ男、さっきから振り子みたいに鼻をふらつかせているが普通の人間とはとても思えねぇ。
 「アラハバキはなんでその神憑りってのにこだわって調査をしている?そこにいる大中はこのあいだ大きなポカをやらかしてな。もしあの黒いトレンチコートの奴を捕えることが出来れば、御屋形様に寛大な処置を頂けるんじゃないかって、俺も大中も藁にも縋る想いで奴を追いかけているんだ。探すなと言われてもねぇ。」
 「これはご冗談を佐伯様、貴方はもう聞かされているはず。」
 「ああ、だがアラハバキがこんなに安易と大中を許すとは到底信じられない。何かがあるはずだ。」
 「佐伯さん、大中さん、二人共覚悟をしておくニャン。」
 羿白(グエン パイ)が二人の会話に口を挟んだ。
 「どんな理由があろうと一度でも神憑りと因縁をもってしまえば、あとはもう神の手の平で踊り続けるだけニャン。神そのものを殺さない限り、その因縁は付きまとうニャン。」
 ニャン?!なんなんだこいつ。
 「忠告しておきます、猫の姿をした女性よ。思い上がった言葉は慎むべきです、それに貴女はみだりに精霊がざわつくのを望む者ではないはずです。」
 丸山が矢島教授のメモを左隣のグエン パイに回した、『御屋形様のご友人は熱心党、間違いない』。熱心党?なんでここにいるのよ?アレに関わることをここで口にするべきではないか。。。
 「佐伯様、今は議題を先ほどの5つの問題点に絞りたく思います。ご心配はご尤もですが、その説明の中で貴方の今ある不安の多くが解消されるはずです。」
 「いや、疑問点ならもう一つあるぜ。なんでその、神憑りってのは。。。」大中は懊悩の中から必死に言葉を絞り出した。「あの神憑りは何で人助けなんてやっているんだ?動機がわからねぇ。やつは別に正義の味方ではないんだろ?」
 「真実はいつも一つ!」
 「タケル様。その話はもう御十分かと。」
 大中の疑問は六番目の議題として審議されることになった。

                  つづく。

逢坂紀行
 遂に次回は前々から描きたかったSF解説パートに入ります。本来なら相葉ひかりが逢坂市街をぐちゃぐちゃにしている最中に宇宙刑事ギャバンばりに解説パートをつける予定だったのですが。。。ぜんぜん面白くねぇ。という理由で全てカットしました。矢島教授の真の姿に期待してください。

 それでは皆さま。let's go your journey🎵


 
 

 


 
 

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