【プレオープンの日】Ars Electronicaの雑多所感記 3日目

9/5(木)から9/9(月)までオーストリアのリンツにて開催されている、Ars Electronicaに出展のため来ております。現地で見たもの・感じたものを記憶が新しいうちに残しつつ、現地の雰囲気が伝わればいいなと思い、現地のレポート的なものを雑多に、毎日書いていきたいと思います。

※出展内容、具体的な試みについてはこちらをご覧ください。河津は主にInspiratorに関わっています。

9/4(水)の今日はArs Electronicaプレオープンの日です!まだ展示など設営途中のものもありますが、Ars運営チームの方が事前ツアーの機会を設けてくださり、一足早く作品に触れることができたので、今日は作品の話が多めです・・・!(本当にたくさんあるので全部書ききれないかも)

プレツアーは15時からだったので、それまで設営の詰めをしていました。ワークショップのランスルーなども行い、準備完了です!(まだ細かい調整などはするみたい)

朝来たら看板できてました!

掃除して綺麗になりました!各部屋最終的にこんな感じになりました。

15時になったのでそのままプレツアーへ!今日のプレツアーは全部で3つあり、POST CITY全体のプレツアー、CYBER ARTSのプレツアー、ARS ELECTRONICA CENTERのプレツアーです。本当に盛りだくさんでした・・・

POST CITY プレツアー

まず、POST CITYの全体マップはこんな感じです。

開催期間中はGROUND FLOORという階層が入り口となります。

作品の種類と展示場所の関係ですが、ざっくり上の階層がライトめ、下の階層に行くほどディープな作品が多くなるとのことです。ガイドの方がおっしゃるに、「アーティストにとって、作品とは研究である」とのことで、より深みに向かって突き進むものである、ということ。ただ、一般の人にも理解されるために作品を一般化するための手法は2つあり、買いやすいアートパッケージにするか、ビジネスサイドの個人・会社と組みプロトや形にするための動きをする手法がある。そのより一般化されたアートの形が上階層に来て、アーティストが自身の世界に入り込んだ作品が下層「BUNKER」に展示されます。このBUNKERフロアの作品群がとにかく面白くて、より考えさせられるものが多かったためいくつか紹介させてください。

こちらの作品は、植物の細胞の動きが他の細胞にも影響を与える・活性化させるという特性があるそうなのですが、この動きを唇の動きとみなし、読唇術を使える人が言語化、その言語データをたくさん収集しつつさらにディープラーニングにかけることにより、植物の言語パターンを理したAIエンジンを作成、人間と植物とが会話を行うという作品です。

実際に会話を行えるかということが焦点ではなく、技術の発達に伴い人間が人間以外のものとどういう関わり方をして行くべきなのか、ということを問うています。

こちらの作品は、光を検知することでレーザー光を照射する、ネズミ型のようなロボットが大量に床を動いており、どれかのロボットにiPhoneなどの光を当てるとそのロボットがレーザー照射、その光を受けたロボットもレーザー照射、という連鎖が次々に起こっています。何もなければ何もしないのに、誰かが光を出すとみんなそれに倣う、人のアイデンティティを問う作品とのこと。

・・・という説明が最初になされたものの、実はこの場にこの作品を作ったアーティストの方がいらっしゃっていて、その人曰く、作品を作るにあたり問いとかそういうものを考えて作り始めたのではないとのこと。

この動画、ネズミ型ロボットの移動音がすると思うのですが、最初はそれで音楽を作ろうとしていたらしいです。ただ情報伝達の手法としてレーザー光・受光センサを付けたり、基盤の関係上追加部品を尻尾のような形で取り付けて動かしていたところ、別の誰かから「この動き可愛い」という意見が上がった。そこから「謎の生態系を持った生物の動き」としての側面が、この作品の一つの価値になった、という経緯だそうです。

アーティストの方は、ただ作りたいものを作っただけ。そこに別視点での価値が加わり作品がより良いものになった、ということを聞いて、この「別視点での価値」というものに気付けるか、そのアンテナというか力をどのようにして身につけるべきなのだろうか、などと考えさせられる作品でした。ちなみにアーティストの人曰く、次のアップデートはより生態系のベクトルを強化していきたいとのことでした。

CYBER ARTS プレツアー

POST CITYのプレツアー終了後、路面バスに乗ってCYBER ARTSの展示会場へ。そもそもCYBER ARTSとは、PRIX ARS ELECTRONICAというメディアアートコンペティションの受賞者作品を展示している場所です。世界中のアーティストが参加する国際的なコンペで、その優秀作品たちもいくつか事前に見ることができました。

こちらは「労役とは何か?」を問うた作品です。人が働いた後の汗の匂いというのは実は独特なものらしく、その匂いは3種類のバクテリアから作られるとのこと。この作品では、それら3種類のバクテリアを培養、活性化させ、特定の配分で中央のTシャツに染み込ませることで、労働後の汗の匂いを再現しているとのこと。

「汗水かいて働いた苦労」というのは人工的に再現できる。長時間の苦労を美徳としている時代もあったかと思いますが、そういうのが大事だったっけ。働くということを今一度見つめ直すための問いを投げかけています。

ちなみに、今年は「匂い」というものを取り扱った作品が3作品も受賞しているそうです。匂いの成分を数値化したり配合を考えるのは一筋縄では行かないそうで、未だ体系化されていない分野だからこそ研究の幅もあり、作品として昇華されているケースが多いのだとか。バクテリアは、実は人間の体のそこそこの部分(2kgほど)を占めていて、それがいいバクテリア・悪いバクテリアかで、その人の性格・性質にまで影響を与える研究結果も出ているそうです。人間は自分だけで何か物事を考えているようで、実は身の回りの構成要素の恩恵を受けている。それらと人間との関係性について、考えさせられるものがあります。

こちらの作品は、これを作成したアーティストの方の子供の頃の体験が元になっているそうで、小学校の時の授業風景を、教師生徒全てロボットで再現したものだそうです。

最初に先生がノートに何かを書き、生徒がそれを真似してノートにとっています。ロボットアームで書きます。ただ生徒がわは途中で集中力がなくなったのか、落書きしたりやりたい放題になってきます。ただしばらくすると先生に叱られたのか、みんな先生の真似、ノート取りに戻ります。

そんな一教室のありふれた風景を、ロボットで再現するという皮肉を効かせた作品です。教育というのは生徒が先生の真似をするだけなのだろうか。そんなものはロボットでもできる。みたいな・・・?人の教育というものについて問を与える作品になります。

ARS ELECTRONICA CENTER プレツアー

少し休憩した後、最後のプレツアーに向かいます。

もう一度路面バスに乗り、ドナウ川を超えてARS ELECTRONICA CENTERに向かいます。ARS ELECTRONICA CENTERはARSが運営する常設の電子芸術センターです。

遠目ですが緑に光る建物です。

今日は主に地下ブースに展示されている、AIにまつわる作品群を見ました。

こちらの作品は、書いた文字の色が黒っぽいか白っぽいかをAIが判断し、さらにそれがあってたか、間違ってたかを入力することで結果がフィードバックされ学習される、体験者がAIを育てることができる作品です。

この作品、やってることは黒か白かの二項分類と、結果をフィードバックした教師あり学習で、分類系の機械学習システムを作る際にはとても考えやすいものなのですが、この作品のメッセージは「AIはどこまでを判断して良いものなのか」「AIに人が介入された時どうなるのか」ということです。

AI系の作品にほとんど共通として言えたのが、AI自体が大事なのではなく、AIにどのようなデータを与えるか、それにより何をさせるかということが大事なのである、というメッセージ性です。結果があってるか・間違ってるかの判断データをきちんと正しく送ればどんどん賢くなっていきますが、悪意を持って間違ったフィードバックを与えると結果は簡単に狂います。この辺りに、人がAIに対してどのように関わることができるのか。人はきちんとAIを使うことができるのか、などという問いが含まれている気がします。

こちらの作品はシンプルで、画像認識を行うディープラーニングのプログラムが、認識を行う過程をそのまま画像化・ビジュアライズしたものになります。

ディスプレイがずらっと並んでいますが、左のほうに行くにつれて判断している画像データは鮮明に写っており、右に行くに従ってほとんどピクセルみたいな情報になっています。

画像認識のディープラーニングシステムを組む際に多い手法として、いくつもの層を作り、鮮明な画像情報からどんどん抽象化されたデータにしていき学習を行なっていきます。これは、抽象的な情報を学習した方が未知の情報、今まで学習したことがない情報に対しても正しい決定が下せる、汎用化された状態に近づけるからです。(っていう解釈を僕個人はしているのですが、間違ったこと言ってたら遠慮なく指摘ください)

カメラに写った画像がリアルタイムで画像認識されるのですが、その画像がディープラーニングの中でどのような情報に変換されているのかをそのまま表示する。ブラックボックスと言われがちなAIという仕組みをビジュアライズ化することで、人とAIの距離を近づけよう、というメッセージを感じました。

などのような作品を、今日一日を通して、ここでは書ききれないくらいの情報量の作品を目にすることができました。プレオープンでもこれだけの量、、と身震いするほどです。実際、他にもきになる作品がたくさんあったので全部紹介できないのがもどかしいです・・・

すでに、ビジネスとアートの発想の違い・イノベーションを起こすためにそれをどうブリッジさせて行くべきか。またAIというものの再理解・可能性についてなど、疑問が膨らんできていて明確な答えも出ないような状況で、プレオープンながら。これがArs Electronicaなのか・・・ということを改めて強く認識した日になりました。時間をかけてもっと考察したいのですが、まだプレオープン、一部の作品にしか触れていないため、明日以降実際に自分のペースでじっくり考えていこうと思います。

とりあえずは、明日から展示1日目です!初日にして山場な明日を乗り切りたいと思います。

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