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‥こんな話しをきいたよ⑤

医療事務時代に、パートスタッフの米山サトコさんから聞いた話。

サトコさん家族は母方の祖母と同居していた。サトコさんはおばあちゃん子で、おばあちゃんがとても大好きだった。

サトコさんが高校生の頃、おばあちゃんは体調を崩しがちになって、自室で寝ている事も多くなり
サトコさんのお母さんが介護をするようになった。

何度か大病を繰り返し、手術も受けたがその度に元気になっていたおばあちゃん。

おばあちゃんは不死鳥だね!サトコさんはそう言っておばあちゃんを元気付けていた。ニコニコと微笑むおばあちゃん。サトコさんも何かと身の回りの世話をしていた。

元気な頃のおばあちゃんは、台所にある勝手口から出入りするのが癖で、おばあちゃんにとってはそっちが玄関だったみたい、とサトコさんは言う。

そんなおばあちゃんも、やがて意識が時々飛ぶようになり、主治医の先生の往診を受けるようになる。

ある朝、サトコさんがおばあちゃんの部屋に様子を見に行った時、おばあちゃんが息をしていない。すぐに両親へ伝えて、主治医に電話した。

主治医を待っている間、不思議と気持ちは落ち着いていた。弱っていくおばあちゃんをずっと見てきたからか、自分はこの日がくる覚悟が出来ていたんだなとサトコさんは思った。

リビングへ戻る途中、おばあちゃんの部屋を振り返った。何やら白い霧のような雲の様な物が浮いている。

良く見るとそれは人の形をしている。その白い霧がサトコさんの前を歩くようにフワフワと漂う。
目の前を通り過ぎ、リビングを抜けて台所へ向かい、そのまま勝手口へ吸い込まれるように消えていった。

その時サトコさんは、おばあちゃんはもう戻らない。あの世に行ってしまったんだ、と実感が湧いてきた。そして寂しくなり、泣いた。

両親にこの事を伝えた。勝手口が好きなおばあちゃんらしいね、と言いながら親たちも涙ぐんだ。

わたしが見たのはこれだけ、あとは特に何も起きなかったよ。とサトコさんは語った。

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