叔母さん。1 「甥っ子」

 変わった甥っ子が生まれたのは、私が社会人になりはじめたころだった。会社に早く慣れようと忙しい時に、三つ離れたお姉ちゃんの妊娠も重なり、あの時の私はイライラしていたと思う。上司の一人は短気だし、お肌の調子も悪くなるし、お姉ちゃんはとても幸せそうだったので、私はなんだか体も心も忙しかった。
 お母さんから電話があったのは、四月三十日の夕方のことだった。私は短気な上司に残業を押し付けられて、苦手なパソコン作業をしていたので、母の電話に出た時はイライラした声をしていた。でも「赤ちゃん産まれそうだから、あんた早く病院きなさい」という母の言葉で、私は一転して慌ててしまった。今から会社を抜け出せるのかも分からなかったし、もうすぐ自分が叔母さんになるのだと思うとドキドキして、パソコンの前でひとりおろおろとしていた。
 そこへ短気の上司が私に気づいて、「森野! お前何やってんだ!」と注意をされ、私は怒られることを覚悟して事情を説明した。すると短気な上司は「だったら早く行けよバカ!」と言って、意外にもすんなりと会社を出ることができたのだった。帰りがけに上司に「女の子か?」と言われて、私が「男の子です!」と答えると、上司は「行ってこい!」と言って初めて笑顔を見せてくれた。
 病院に着くと、もう赤ちゃんは生まれていて、私はすでに叔母さんになっていた。お母さんは泣きながら「かわいいね。ほんとかわいいね」と言って喜んでいて、お姉ちゃんは「お母さん泣き過ぎだよ」と言って笑っていた。生まれたての赤ちゃんは、お姉ちゃん譲りの整った顔をしていて、鼻と輪郭は旦那さん似だと思った。
 私は「叔母さんだよ。私が叔母さんだよ」と言って、母と同じくらい泣いていた。

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kayama

八〇〇字連載 「追川カオル」

・なるべく毎日更新。 ・八〇〇字以内。 ・プロットなし。気軽に書く。 「老若化無作為症候群」の追川カオルに関わる周りの人達の物語。
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