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女の子共和国

冬、駅で歩いていると印象的なポスターを見かけた。博物館がやる、白黒時代の映画祭みたいだった。

行かないと後悔しそうな感じがあったので見に行った。映画は3回死ぬほど良く、無声映画だった。ピアノやバイオリンを横で2人の音楽家が楽器をかえながら劇中の景色に合わせたり銃声を表現した。

ロビーがあり、コートを掛ける場所があって、きれいなシートと建物の作りもよく、映画館の人による挨拶やすこしの説明もとても穏やかで丁寧で、僕ら観客は気持ちよく内容に集中できた。チケットは650円だった。税金を払う気が増す。

Die Republik der Backfische (1928年)

バックフィッシュというのは、漁業的にはまだ十分成長していない魚が語源で、若い女のことをこう言うって表現があるようだ。それのレプブリク、共和国。

映画の内容

以下、パンフレットの内容説明文を訳します。

南米アルゼンチンのパンパ(っていう場所)でバキバキ暮らしていた女の子、ビリーは、きれいにナイフ・フォークを使うテーブルマナーなどの「しつけ」を学びレディーになるためにヨーロッパの女子寄宿舎にやってきた。しかし彼女は、扱いなれたレボルバー拳銃や投げ縄も持ってきていました。すごい怒られて(予備の小型拳銃以外)捨てられたり、夜中飛び出して謹慎をくらったりするのですが、そんな息苦しい暮らしをする他の女の子たちからは人気者になります。そして、その子たちを率いて、遠く離れた小島に「女の子共和国」を建国し、ビリーは大統領になります。

って感じ。ジャンルとしてはコメディです。前半は息苦しい作法や、やりたくない勉強や裁縫を学ぶシーン、寄宿舎を抜け出してバーで飲むビリーを誘って家に連れていってしまう男性に、隠し持った拳銃で反撃するなどが続く。

たっぷり「女の子が生きたいように生きることの難しさ・余計に背負わなくてはいけないリスク」などを描いた後、集まった女の子たちは拳銃を使って銀行強盗をする。よく覚えてないけど、このシーンの覆面マントは、シーツやカーテンを縫う技術でこしらえたのかも。

島で独立した後の最高な世界のシーンはとても楽しく、しかも規律や協調性が美しく描かれている。丸太やトタンで作られた建物や見張り台、島を横断する汽車の姿はハンドメイド性が強調され、食堂ではベルトコンベアで全員の食器が自動配膳される。故障してその場で直すところを描くなど、気が利いている。おそらく1928年に思いつくであろう、あらゆる「女中」という概念が当番制やメカによってあれされています。

彼女らの島にはたくさんの子どもたちがいて、軍隊のような組織を作っています。大統領であるビリーは外交もこなし、色々あったけど、すごいぜ!みたいな感じで終わる。

ビリーの人について

ビリー役のKäthe von Nagyはハンガリー出身で、これが初めてのドイツ映画での主演。すぐに無声映画のトップスターになる。

1919年からヒトラー内閣が成立する1933年までのワイマール共和政の時代の映画だ。ちょうどこれを見たとき、1919年のワイマール憲法から、ドイツの女性参政権は100周年だった。ヒトラー内閣になってからは、「女性は家庭に戻ろう」のようなスローガンとともに、「女性は全てを控えて男性を支えるべし」という方向性が打ち出された。

またすこし、パンフレットに書かれていた文章を訳します。

「ワイマール映画」の時代はドイツ映画にとって黄金期だった。この20年間ほどドイツ映画が国際的になったり、カリスマを放つことは二度と無かった、というぐらいだ。世界中からベルリンやバーデスベルグに映画人が集まり、最強のスターたちがローマ、ウィーン、ワルシャワ、コペンハーゲン、ブダペスト、モスクワから来た。母語やアクセントは関係なく、芸術的なビジョンと可能性だけが物を言う、無声映画時代だったからだ。

って感じ。僕は日々、言語依存度の高い生活をしていて、あらゆる言語に対して強いリスペクトも持っている。それだけにまた、こういう状況にも強い興味を持ちやすい。

また何か見に行こうと思うので、良かったらこういうところに書きます。


(2019年にドイツ歴史博物館のツォイクハウス映画館で、ワイマール映画の国際性に注目して組まれたこのプログラムでは、Philipp Stiasny と Frederik Lang がキュレーターだった。)