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『石狩湾硯海岸へ接近中』の全文公開 連載第211回 「あと(あ)がき」

 それではここらで著者から最後にふたたび浄に筆を返してこの物語を終えさせ、著者自身は筆箱の中に戻りたいと思います。またいつか化けて出てやるど。   
 Enter Joe.
 艇庫近くの海岸では、艇庫の敷地内に入れない何人かが、気温が低いのに今夜も旭ヶ丘のうちと同じ月を見ながら焚き火をしている可能性がある。人数分の本数の月時計が砂浜や草の上を歩いたり、そのあたりに座ったりしているのだろう。矢をつがえて、現地との間に臨時に糸電話のコールドラインを設置してみた。シュルシュルシュルシュル。もしもし、聞こえるか、聞こえるか。
「ウェイ?」
「そっちに行ってんのが誰だか知らないけど、飲みすぎんなよ、お前ら。こんな季節に浜で寝込むと、下手すると肺炎になったり凍死したりするぞ」
「大丈夫っすよ、ボクらみんな宇宙服規格の繭みたいな全身防御ギアにすっぽり入ってますから。さっきから、この辺り半径10メートルの重力を6分の1に減らして、かまどの周りをみんなでゆっくり跳ねて回ってるんっすよ。体が軽いっていいっすね。風船になったみたいっすよ。15メートルも上がってからゆっくり降りてくるんっすから。見晴らしが良くって、上からの視線で辺りを見回す感じ、これから何回も夢に見そうっすよ。
 それより、お願いがあります。ちょっとメモしてもらえますか。ボクらお腹が空いてしまって、キャビアとまでは言いませんけど、ピッツァとジンギスカンとタレとパスタとタマネギとニンニクとサーモンとホッケと干し貝柱と(おい、おい、高いんだよあれ)チーズとバターと黒ビールとニシンの酢漬けと焼きたてのバゲットとクロワッサンをそれぞれ15人分、できたら2回目の乾杯用にスプマンテを5本、今すぐに高速ドローンで送ってください。デザートにアイスクリームも6キロほどと乾燥杏、それに、忘れてましたが、塩辛とキムチとローストアーモンドとマシュマロとチョコレートとワサビ味のポテトチップスもあったら嬉しいっすねえ。ああ、あとおにぎりも各種揃えて60個ほどとミネラルウォーター30本も。今晩ここに泊まりそうなんで。支払いは出世払いということで、ひとつ」
 うっせ。何様のつもりじゃ。自分たちで用意して行け。誰が顔を一度も見たこともないアカの他人のために代金を立て替えてやるのか。重力を逆に10倍ぐらいにして、お前らの体を地表にべったり貼り付けて身動き取れなくしてやるど。糸を魔法で導火線に変えて火を点けてやろう。パチン! Feuer! これでも喰らえ!

 シュ——————————————*!

 Hier ist meine Antwort für euch!

終わり
The End.

This is copyrighted material. Copyright (C) 2018-2024 by 茅部鍛沈 Kayabe Tanchin « Kayatán », 新 壽春 Atarashi Toshiharu. Sapporo, Hokkaido, Japan. 石狩湾硯海岸へ接近中は、新 壽春の登録商標です。All rights reserved. Tous droits réservés.

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