マイクロマネジメント上司体験記⑤限界

心療内科で「中等度以上のうつ」と診断されるも、休職は考えていなかった。
休職なんて考えられない。

思えば、ここまでの人生、私にとって仕事が自分のアイデンティティを保証してくれる場だった。
実家の家族の問題でも恋愛でも数々傷ついたこともあったし、苦しむことがあっても、自分は「仕事」があるから、気分を変える事ができたのである。
そんな自分から、仕事がなくなるのなら・・・考えただけで恐ろしい。
今にして思うと、私のしたことは極めて打算的な方法である。

「病院に行った。うつの診断を受けた。でも仕事は頑張りますので、一応ご留意ください」という主旨なわけだが・・・
要するに、それって仕事が思うように運ばないことへの免罪符でしかない。
しかし、完璧に思考力が停止している自分自身がどうにか仕事を継続するための視点で考えた事だとすると、なんとなく合点もいく。

マイクロマネジメントな上司に話をしてみた。
過去、モラハラ上司と打ち合わせの場をもってことごとく心を挫かれた経験がある自分にとっては、上司を呼び出してどういう反応をされるか恐ろしかった。。。

ところが、やはりこのマイクロマネジメント上司は、細かいだけであって人情がないわけではないようだ。
「君がどうもおかしいと思ったことが、ようやく理解できた。」と。
「目、腫れているから落ち着いてからオフィスに戻っておいで」と言われ、一旦席を立った彼が再び戻ってくる。
「・・・俺だってさ、仕事が本当に嫌で、週末子供と遊ぶことだけを楽しみに生きているんだ。君にも、そういう心の拠り所があるといいね・・・」と言われた。

ダメだ。
そもそも自分が病気になっている原因はこの上司のはずなのに、こういう優しい言葉にほだされる自分がいる。
ストレッサーから励まされることは本来屈辱を感じねばならないはずなのに。
何故か、ここ数か月厳しい言葉ばかりをかけられ、ただひたすらに「認められたい」願望の強い私には極めて弱いところをつかれた気分である。
その後、役員からも呼び出され「本当は休ませてあげたいけれど、大きな仕事がいくつも今月は控えているし・・・時間短縮など調整してもいいから出てきてほしい」と声をかけられた。
この役員の一言が、実際は休職を決意させることになるのだが・・・

どうにか騙しだまし出勤をするが、頭は常に風邪薬を飲んだ時のようなぼーっとした状態が続いている。表情も乏しく、反応も鈍い。最も困るのはとにかくアイデアが出ない。「発想」というものが極めて難しいものになるのである。
それでも、繁忙期一人一人精いっぱい仕事する中で私も必死に後を追う。
事前に勤務計画を提出する際に、通院や体調も考え、いくつか有給を事前に申請した。
ところがこれが上司から却下されたのである。

「突発的に休んだりするのは構わない。でも、周りの忙しい人たちの状況から考えて、計画的に有給を入れたり時間短縮はしないでくれ。」とのこと。
ここに来て、一致しなかった上司と役員との意見。
言われたことそのものよりも、やはり不調の本質について何も気づいてはくれていないのだとこの一瞬で悟った。
その瞬間、頭によぎった言葉「もう、ダメかな」
働くことの限界を感じた。

心療内科で、一言「もう無理です」と伝えた。
医師は分かっていたようだ、「それなら休みましょう」とだけ答えてくれた。
1か月休職の診断書を受けとり、翌日産業医面談で提出。
すぐにその話は知れ渡り役員から呼び出され、軽く事務的なヒアリングを受け。
上司は「一度は頑張るといったのになんで?」という顔をしていたが、現実的なところで、他の人への引継ぎを行うようにとの指示で、残り一週間は引継書を作成する毎日だった。

そして、休職を翌々日に控えた4月のある日、部門会議が行われた。
ほとんど魂が抜けた状態の私は、その会議で何を話したかは覚えていないが、私には、誰も何も触れなかったように記憶している。

会議終了後、私は社長を引き留めた。
過去、クラッシャー部下の時に、人事に配慮してくださったのが社長だ。
それにも関わらず、また別な部署でこんがらがっている自分が情けなくて仕方なかった。
休職の旨、報告をしながら思わず涙が出た。無念な気持ちを伝えた。
社長は「君は自分が思っているほど、できない人じゃないよ。こんな俺だってこうしてなんとかやってるんだから、そう思いつめないで。しっかり元気になってから戻っておいで。」
普段、ぶっきらぼうで物凄く口の悪い社長だが、この時の優しさが余計に胸にしみた。

1か月で、また戻る。そう思いながら。
しかし、私が実際に職場復帰を果たしたのはそれから8か月後のことであったのである。
8か月はまさしく自分の心の中での旅であった。
休職に至る経緯をこれまで綴りながら、これから先は休職体験と、心に生まれる新たな「気づき」を記していこうと思う。



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