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社長の仕事(その3)

長めのシリーズになってしまいましたが、新社長が多く生まれる4月ということで、前々回から社長の仕事についてお話ししています。私が考える社長の仕事とは、以下の3つです。

  1. 向かう方向を指し示すこと

  2. 判断すること

  3. 範を示すこと

前々回は「1. 向かう方向を指し示すこと」について、前回は「2. 判断すること」についてお話ししましたので、今回は「3. 範を示すこと」についてお話ししたいと思います。今回で完結する、はずです、笑。

3. 範を示すこと

社長の仕事についてお話ししてきていますが、もとより絶対的な正解はありませんし、社長によって答えは変わりうるものと思います。ただ、前々回/前回の「1. 向かう方向を指し示すこと」、「2. 判断すること」については、表現の差はあれども、かなり共通的な解になるのではないかと思います。一方で、今回の「3. 範を示すこと」というのは、人によってかなり考え方が異なるかもしれません。あくまでも私はこう考える、ということで。

範を示すという表現は、日常ではあまり使わないかもしれませんね。率先垂範という熟語から、範を垂れるという言い方もするようです。この範は模範の範。要は模範を示すということです。

こうすべき、こうしよう、言うことは簡単です。でも、それを自ら実践できているか。会社としてここを重視しようと言いつつ、社長がその分野にちゃんと時間を使わない。例えば、プロダクトを持つ会社として開発は大事といいつつ、開発部門との打合せに積極的でない。あるいは、会社としてお客さまは大事だと言いつつ、いざ問題があるとお客さまに対して不誠実な選択をする。例えば、ソフトウェアに不具合があった際に(最小化はすべきですが、ゼロにはなりません)、それをお客さまに告知することを避ける。そうなると、社員は、ああ、何だかんだ言いつつ、結局この人は口だけなんだな、と認識します。そうなると、社長が示した向かう方向性に対する納得感も得られませんし、社長の判断も尊重されません。つまり社長が社長として機能しなくなります。

新人事件

私が弥生の社長になった(2008年4月)当初は、正直に言って社員に信用されていなかったと思います。不信感があったというわけではないのですが(多分)、社員として、この人をどこまで信用していいのかわからないという状況だったと思います。

私が弥生の社長になる前は、経営コンサルタントとして活動しており、弥生と最初に関わったのも、(お客さまとしてを除き)コンサルタントとしてです。そこから青天の霹靂でいきなり社長になった。そりゃあ、なんだこいつ、ってなりますよね。少なくとも様子見の社員が大勢だったと思います。

弥生のお客さまは今も昔もスモールビジネス。しかし私が社長になった時点では、より大きな企業をターゲットとしようとしていました。企業が成長する上で、新たなセグメントを狙いとすること自体は、決して間違っていません。ただし、それはこれまでのセグメントをしっかりと守れていれば、という前提です。そしてその当時は、その前提を満たせていなかった。つまり新しいセグメントを攻略しようとするあまり、既存のセグメントを蔑ろにしてしまった。既存のセグメントとは、スモールビジネスであり、そしてスモールビジネスにリーチする重要なチャネルは家電量販店でした。結果的に当時、家電量販店における弥生のプレゼンスはボロボロになっていました。

それまで急成長を遂げていた弥生の成長が止まった。ちょうどリーマンショックの時期であり、外的要因であると言いたいところですが、実態は、既存のお客さま/セグメントを蔑ろにしていたという真因(の一つ)がありました。そんな中で、私は従前からのコアなセグメントにフォーカスするという方向性を示し、同時に、新たなセグメント攻略から撤退することを判断しました。原点に帰ろう。弥生のお客さまはスモールビジネス、そこに注力しよう、そのためにも家電量販店を弥生のショールームといえるものにしよう。

方向性を示し、苦しい判断もした。でも、社員の反応は冷ややかでした。色々言っているけど、口だけなんじゃないの、と。この社長もいつまでいるかわからない。そんな見方もあったかもしれません。

そこでどうするか。それは言い続けるしかないですよね。ただ、単に言うだけではいつまで経っても響きません。そんな中で、私は家電量販店の店頭に立たせて欲しいということを、担当しているN部長に何度もお願いしていました。でも、なかなかきいてもらえない。所詮ポーズ、口だけでしょ。それでもしつこくお願いしたところ、ようやくこの人は本気なのかもと思ってもらえたようです。

願いが叶ったのは、社長に就任してから3ヶ月後ぐらいでしょうか。ようやく地元でもあるヨドバシカメラ マルチメディア横浜店の店頭に立たせてもらうことができました。当然ですが、お目付役(Hさん)と一緒。ちなみに、Hさんはお店の方に今度新人を連れてきますと話していたようで、実際に私が同行すると、新人って、新社長なの!?、とビックリされていました、笑。

弥生の社長を務めた15年間で、何回も転換点といえるタイミングがありました。おそらくそのうちの最初の一回がこの「新人事件」です。この人は口だけではない、言ったことは自らやる人なんだ。そう認めて(正確には認め始めて)もらったのが、この新人事件だったと思います。

(なお念のためですが、上記の判断であり、行動は当時のものであり、今現時点であれば、同じ判断や行動が適切であるとは限りません。)

当然一回だけで信頼を得られるわけではありません。その後も言ったことを自分でやってみせることによって、少しずつ信頼を勝ち得ることができました。

一挙手一投足

上で考え方が異なりうると書きましたが、その要因の一つとしては、範を示すというのが、往々にして何でも自分でやってしまうことにつながりかねないことにあるかと思います。実際問題として、何でも自分でやってしまわないよう、注意が必要です(これは私の弱点だと自覚しています)。逆に、まず任せる、やらせてみる、その後必要であれば、指導するという考え方ももちろんありだと思います。

まずやってみせるにせよ、まず任せるにせよ、重要なのは、社長の一挙手一投足は、全て見られているということです。まず任せるのでもよいですが、任せてみた、うまくいかない、となって社員が後ろを振り向いた時に社長がいなかったら、その瞬間に信用は失われます。

社長の一挙手一投足は、全て見られているといっても、もちろん物理的に全て見られているということではありません。ただ、実際にはどうであったとしても、全て見られていると意識をする必要があるということです。社長は会社の(=自分たちの)未来をちゃんと考えてくれているのか、社長は逃げることなく、判断すべき時に判断してくれているのか、社長はこうすべきと言ったことを自ら実践できているのか。

細かいところ(でも意外に重要なところ)ですが、お金の使い方も見られています。日頃から経費の無駄を厳しく指摘しているのに、こと自分が使うことになると甘くなっていないか。社長と飲みに行くと、全部奢ってくれる。当たり前のようですが、でもそれって結局会社のお金だよね、自分たちがいないところでも、自分たちが稼いだお金はこうやって使われているのか、と冷めて見られていたりするものです。

もちろん、プロジェクトの打ち上げなどで、チームが全員参加する慰労会などは会社のお金で全く問題ないと思います。ただ、例えば内輪で飲みに行くのにも会社のお金でいいのか。これは正直、考え方が分かれる部分ではありますが、私は会社のお金を使う時と、自分のお金(いわゆるポケットマネー)を使う時は明確に使い分けています(税金を考えると、会社のお金の方が合理的なのですが、私自身はあえて後者中心にしています)。

要は、胸を張れるかどうか。これは仕事であり、会社のためになると、100%何の曇りもなく胸を張れるのであれば、会社のお金でいいし、そこに少しでも曇りがあるのであれば、あくまでも個人のお金の方がいいと(私は)思っています。

率先垂範としてまずやってみせるのか、あるいは、まずはやらせてみて、必要に応じ部下を導くのか、それは考え方次第であり、結果的にはどちらでもいい。ただ最終的に重要なのは、言っていることとやっていることが一致しているかどうかです。

今週末はいよいよ

さて、4月ももう後半ということで、今週末は待ちに待った石垣島でのトライアスロン大会です。自転車を分解しての空輸は初めて。ちゃんと準備ができているか心配ですが、一応荷造りも(ほぼ)完了。

石垣島はバイクのコースに起伏が結構あるということで不安ですが、一方で南国ならではの澄んだ海でのスイムは楽しみです。当日の天気予報は晴(降水確率0%!)。最高気温が31度とちょっと暑すぎるものの、せっかくなので目一杯楽しみつつ、完走を目指したいと思います。

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