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COVID–19時の企業ステートメントに見る、これからのパブリックコミュニケーション

新型コロナウィルスは多くの企業に何らかしらの影響を与えている。

在宅勤務への移行、それに伴う仕組みの整備といったMUSTで優先される社内事項の話はここではしない。企業として外部に発信された、新型コロナウィルスに対する企業の姿勢や考えを伝えるステートメントの事例をいくつか紹介したい。久しぶりのPR視点の記事であり、私の琴線に触れた個人的なピックアップだ。

移住して顧客とのコミュニケーションの在り方を再考した

米国に移住して、企業や店舗が休業日に出す顧客へのお知らせのコミュニケーション手法が日本とは若干異なることに気づいた。このお知らせが、この半年間、私のひとつの楽しみになっていた。

象徴的なコミュニケーション事例をひとつ紹介したい。

ちょっと季節はずれだがサンクスギビングという祝日の時に地元のスーパーマーケットからもらったお知らせだ。日本で言うなら年末年始に相当するだろうか。年末年始のように家族親戚が集まり、豪華な伝統的料理を囲みお祝いする日だ。

日本のWebサービス運営する企業の皆さん、店舗の皆さんは、年末年始に休業する時、どのようにお客さまにお知らせをするだろうか。

誠に勝手ながら、XX/XX〜XX/XX の間は冬季休業期間(年末年始休暇)のため、休業いたします。・・・(中略)・・・・・ご迷惑をおかけいたしますがよろしくお願いいたします。

このような文章が定型なのではないだろうか。

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(意訳)今日はうちのお店を閉めているから、すべてのひとたち(うちの従業員もだよ!)が愛するひとと共に最高の食事と寛ぐ楽しい1日となるでしょう。だってふだんは広くとても忙しい世界なのだから。今日は喜びと良いことのすべてに感謝の気持ちを込めて過ごす日です。 それは愛のために。私たちのコミュニティの平和のために。そしてもちろん、ウエストが伸縮するパンツのために。みんな、おめでとう! (New Seasons Marketの2019/11/28のメールより)

休業予定の連絡も同じようなテイストで来る。

この街に来て、街の店頭で休業の張り紙を見るのがとても楽しみになった。お店の個性や考え方、お店で働く人たちの顔がそのメッセージから浮かび上がってくるからだ。祝日だから休むのではない。休む理由は店の姿勢であり意思だ。企業やお店のミッション、ビジョンのもと意思決定をして休むのだ。そして休業のメッセージひとつでも、顧客とコミュニケーションをしようという姿勢とユーモアがとても心地よい。

さて本題に話を戻す。今回の休業は決して楽しい出来事ではない。企業にとっても社会にとっても個々人にとっても深刻な事態だ。そういう非常事態にはとりわけ、何を考えたか、その上でどういう対応をしているか、を明確に表現し顧客とコミュニケーションすることはとても大事だ。

外出自粛と医療現場の混沌において、影響を受けて対応が早かったのは靴メーカーであり、それらの企業を中心に紹介したい。

自分たちのこれまでどおりの強みとスキルで貢献する【KEEN】

ポートランドに本社を置くKEEN。サステナブルなブランドとして日本国内にもファンが多い。もともと製造工程における自然への負荷の軽減を考えて、たとえばフッ素系の撥水加工剤の使用をしないといった独自のポリシーのもと製造販売している。この春には、ペットボトルの再生繊維によるUNEEK SNKの発売も開始した。

KEENのコロナステートメントを見てみよう。

We understand shoes may not be a priority for some, but making shoes that help people get outside and get the job done is what we do best – it’s the unique skill we bring to the world.

So in keeping with the original promises we made when we started this company, we made a pledge to provide up to 100,000 pairs, about $10,000,000 in shoes, to the workers on the front lines and the families at home fighting through the crisis. Whether these shoes help a worker stay comfortable during a long shift or simply allow people to get outside to breathe in the benefits of nature while safely practicing social distancing, we felt compelled to share our strengths for the common good.

KEENは、今一部の人には靴は最優先ではないということを明示した上で、自分たちのユニークなスキルは外に出て仕事をする人(医療従事者やエッセンシャルな仕事する人のことでしょう)にとっては必要だと宣言。その上で最前線で闘う人と家族に10万足をプレゼントしている。強みをシェアする事で社会に貢献するということを明確に謳っている(つまりポリシーと事業を維持して貢献すると)。

KEENは4月19日にマスクの製造も発表しているが、地元ポートランドでの工場生産にこだわるKEENらしく、最初の10万枚はオレゴンのフレッドメイヤー(スーパーマーケット)の従業員に提供したらしい。

コロナに対する活動は、'I' じゃなくて 'We' 。 「We’re Better Together」【All birds】

日本にも1号店が開店したばかりのAll birds。ウールなどの自然素材を使った靴の履き心地の良さに定評があるだけではなく、ペットボトルの再生繊維を使った紐や梱包材にはリサイクル段ボールを使うなど環境に配慮した靴作りにファンが多いブランドだ。

かく言う私も一度All birdsの靴を履いてその取り組みを見たらハマってしまい、いろいろな人にお勧めしていた。誰かに商品を薦めたくなる、そのストーリーを伝えたくなる、そんな購入者がマーケッターになるような緩やかなファンコミュニティを持っているAll birdsならではの取り組みがコロナの声明でも出されていた。

彼らもKEEN同様、自分たちのポリシーある靴そのもので支援をしようという声明。ヘルスケアのコミュニティ(医療従事者のことだろう)で靴を必要な人の申し出を受け取り、その靴を用意するとしている。まず$500,000分の靴を自分たちから寄付、その上でこの活動を顧客とともに取り組もうとするところが特徴的だ。

We’re working hard to lift up our healthcare community responding to COVID-19. We’ve already donated $500,000 worth of shoes, but we still have a long list of friends who need support. So now we’re figuring out ways you can do your part, too.

方法はふたつ。ひとつめはシンプルなドネーション。普通だ。ふたつめがいい。特別に設置された「Donation Bundles」のショップがある。ここで自分の靴を買うと、バンドルのもう片方がどこかの誰か(医療従事者コミュニティ内)の元に届けられる(価格は2足分買うよりも抑えられている)。ファンを持つAll birdsならではの仕組みだ。

コロナは人間のエゴと思いやりとの戦いだと私は思っている。「外出したい、これが欲しい、旅行したい、そんなひとりの娯楽の欲望」 VS「 自分の行動が誰かを救う、誰かのために守る」その戦いだ。自分が靴を買うと、医療前線で働く誰かが少し快適な足元をえられるかもしれないDonation Budles。素敵な仕組みだ。


アスリートの不屈の精神で暮らしのシフトをサポート【Nike】

同じく世界的な靴メーカーのNIKE。ポートランドの隣町に世界本社を構えている。New Blanaceとほぼ同時期に地元のOHSUと連携し、医療従事者のためのPPEシールドの製作を発表している。

NiKeらしいと思ったのはどちらかというとこちらだ。

For Nike, supporting the shift in public life amidst the coronavirus means approaching novel problems with the indomitable spirit of an athlete.

「コロナによるパブリックな暮らしのシフトへのサポートをアスリートの不屈の精神で取り組む」と表明している。ページ内では、家の中でのトレーニングのサポートはもちろん体を動かしたいキッズ向けのサポートの意向も示している。

Made shoes yesterday. Making masks today.【New Balance】

世界的なシューズブランドのNew Balanceのこのニュースはたくさんのメディアで報道されたから知っている方も多いだろう。今世界中で足りないとされているPPEの製造をいち早く4月2日に発表し(大学と連携)プロトタイプの生産を1週間で、中旬には納品予定と、さすが大規模な製造ラインを持っている大企業らしく、今必要なものへと迅速にスイッチした。

https://www.newbalance.com/made-medical-letter-landing-page-4-2/?ICID=CTA_HP_H1_LP__22023_MW

COVIDのインフォメーションサイトも設置している。KEENやAll birdsのようなユニークなメッセージ性は強くないものの、実際の行動のスピードと今本当に必要なものの製造を宣言し実現するところ、そしてMade shoes yesterday.Making masks today.のコピーが良かったので紹介した。

COMMITTED TO YOUR HEALTH【New Seasons Market】

靴メーカーではないのだけど、冒頭で紹介したスーパーマーケットのステートメントも紹介しておく。3月の初旬、まだオレゴン州内(本州より大きい)に100名も感染者がいない頃にこのページが立ち上がった。New Seasons Marketはポートランドの地場のスーパーマーケットだ。

 COMMITTED TO YOUR HEALTHというのは、現在の状況においてスーパーマーケットを利用する人にとって物すごく心強いメッセージだ。

そしてUpdate日時が入っているが、毎週のようにアップデートされている。今週は、誰でもわかるこの絵がスーパー内に張り出され、アップされた。

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3月23日に外出自粛が発表されるや否や、入場制限と店内の6フィートキープを徹底。レジには従業員を守るためにシールド板が取り付けられた。レジをひとりの客が終わるたびに周辺を消毒液で拭きあげる徹底ぶりと、出口は1箇所に絞り、専任スタッフがカートをすべて拭きあげている。ここまで徹底をしてくれていると、頭が上がらず感謝の気持ちしか湧いてこないし、買い物はここで絶対にしよう(この街に住んでいる限りは一生)という気持ちになる。

そして私がこのスーパーを好きな理由は、ステートメントの第1項目にはいつも、お客様より、従業員を守る・大事にする、といったメッセージが入っているからだ(該当ページ内では、直近の更新事項の後に「Supporting our Staff」が来ている)。

身近な仲間を大事にする、コミュニティを大事にする。いつもこの順番でメッセージは発信される。それがいいのだと思う。

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このようなステートメントに正解はないのだと思う。同じ業種をピックアップしても、ビジョン、その会社の歴史、そして製造ライン、拠点の持ちかたなどによって対応は異なっている。しかしながら、ここにあげた企業は、このステートメントを通して、社会における自分たちの役割、存在の社会的意義を明確に言葉にしている。

アフター・コロナでもウィズ・コロナでも、この非常事態が収束する頃にはPRの在り方も、企業の社会との接し方もきっと変わってくる。そこで間違いなく大切になるのは、企業や団体が、社会に対してどういう意義と役割を持ち存在しているのかを語ること。今まで以上に明確に語ることが求められるようになると思うのだ。社会に対して、環境に対して、地球上の課題に対して、国境を超えて、自分たちは何のために存在しているのか。それらに対して必要な存在であれば、顧客も増えるだろうし、経済的価値も上がっていく。いわゆるESGというやつかもしれないが、企業コミュニケーションにおけるその観点はますます必要になる時代が到来しそうだと思っている。

※サイトからの抜粋はすべて4月22日時点の内容です。

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