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ジーンとドライブ vol.4

女は誰しも、お姫様に憧れ、いつの日か素敵な王子様がやってくると心のどこかで信じている…のではないだろうか?いつしかどこか斜交いな目線で見るようになった私でさえ、そんな迷信めいた事を信じてはいないと言いつつ、いつか運命の人が!と思っていたものである。

そんなかすかな望みも病の親の面倒を観る内に、もうすっかり明らめ、夢から覚めたシンデレラの様に毎日を過ごしていた。

見かねたお節介な友人がせっせと男の人を紹介してくれるので、足を運んではみるものの、どこか変な方ばかりだった。吐き気がするほど香水か柔軟剤の香りが強い方…人のこと考えよう!きっと剥げていらっしゃる。しかし、粉をふってきれいに隠していらっしゃる…明るくいきましょうよ!他に、お肉を小さく小さくナイフでコキコキと切り刻んでお口に運ぶ方…、一度なりとも目を合わせず、挙動不審に動いている方、音楽家というが不潔そうな方…。この年まで独りでいるとこうなのか?そして、私も人から見るとこうなのか?皆さんいい人かもしれない。でも、よく知りたいと思うまでに違和感が多すぎて、悲しくなってしまうほどだった。親には申し訳ないけれど、もう、別に本当に独りで構わない!と強く思った。そう思ってからはもう友人の誘いには乗らなくなった。

そんな時にジーンと出会った。「普通だ…。普通の人だ。」これがジーンの第一印象だった。断るつもりで最後に会ったのがジーンだったが、次に会う約束をしていた。その次も。そしてその次も。

でも、会って三週間で「結婚を…」と言われて、高価な絵画や訳の分からない壺を買わされるのではないかと疑心暗鬼になった。それで、困った私は質問した。

「結婚したら幸せになれる?」

封印していたはずのいつか王子様が~と憧れる女子の言いそうな言葉だ。「僕が幸せにします!」そんな言葉が返ってくると少し期待をしながら言ったのだ。もし、そう言われたら、何も悩まず飛び込んでみようか?と思った瞬間、帰ってきた言葉は、

「僕は、幸せになると思います!」

(え。そ、それは、ど、どういう)

「君が幸せになるかどうかは君しだいだと思います!」

(え~。そこはそうじゃなくて。その~。)

釣りバカの浜ちゃんなのか?予想だにしないジーンの言葉に固まった。やっぱり王子様なんていないじゃないか。そこは嘘でも無理でも「僕が!」と言うべきではないのか?!おいおいおいおい。

その夜、考えた。幸せは掴みどころのない空気のようなものだ。どんな状況でも、人が見てどうでも、当人が幸せだと感じれば幸せなのだ。シンデレラは王子様に見初められて幸せなエンディングを迎えたが、それまでだって幸せだったんじゃないか?意地悪な義母や義姉には悩まされただろうが、部屋に花を飾り、動物たちと楽しく家事をこなしていたではないか。ぼろぼろの服を着せられていても、幸せを感じて生きていれば美しく目に映る。だから一層、義母や義姉は嫉妬したのだ。幸せは人から与えられるものではないのだ。そんなことをグルグル考えた。彼の言うのは間違ってはいない。夢見る女子としては少々…大分納得はいかないが、間違ってはいない。そう考えた私は結婚を決めていた。

今、ジーンは予言通り幸せそうにいる。私は、やっぱり時々納得いかん…と思いつつ、なんとはない毎日を有難く、笑顔で過ごしている。

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