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脳内調理で赤を足す

いちごシャーベット。それは、叔母が作るいちごシャーベット。
夏休み日なると祖母の家に入りびたりになる小学生の頃、車で二十分ほどのところに住んでいた叔母の家にも時折出かけた。
叔母は洋裁が得意で、小さい頃の服はほとんど叔母が作ってくれていたのだ。今思い出しても、可愛いワンピースだった。お気に入りで遊びに外へ出るのだが、なかなかのわんぱく娘だった私は、公園に留まらず裏山へ入り込み、枝や柵に引っ掛けてはよく破いてしまっていた。そのたびにまた新しい布を手に作ってもらいに行くのだ。
叔母の家のひとつの部屋はアトリエになっていた。大きな裁ちばさみやメジャーや型紙、今では珍しい足踏みミシンもあった。その足踏みミシンをどうにか習得したくて必死だったことがある。どんなにタイミングを狙ってペダルを動かしてもバックしてしまうのだ。右手で手回しのハンドルを少し手前に回して、ひょいっとペダルを動かす。自分本位に力んでしまいがちだが、ミシンの動きに合わせなくては本来の動きにはならないのだ。うまく動かせた時の飛びそうな感覚は今でもよく覚えている。バックせず、前に進んだらそれだけで大満足な小さき私であった。
スー、シャッシャ…と、体に沿ってメジャーがあちこち動くのを息を凝らして見ていた。少し手を広げて、時にくるりと後ろを向いたりして採寸してもらう。次はどんな洋服が出来上がるのだろうかと、色白のきれいな叔母の横顔を見つめるのだ。
「さ。おしまい!おやつにしましょうか。」
待ってました!叔母のアトリエでひとしきり遊び、新しい洋服を作ってもらい、更なる喜びはこれである。叔母特製のいちごシャーベットだ。シャリシャリシャーベットのまるまるいちごである。いちごの姿を残したまま、果肉はシャリシャリ。その不思議な食感が最高な代物であった。甘いシロップがいちごの酸味とうまく調和している。叔母が子供らが集まる長い休みに備えて作ってくれているのだ。大きな入れ物にいっぱいのいちごのシャーベットが詰まっていた。赤く染まったシャリ感のある濃厚ないちご色がとてもきれいだった。
叔母の家へ行くのは、大好きだった。いいこと尽くめで嫌いなわけがない。

いちごが美味しい季節、いちごの赤に少し色を足し…脳内調理を施して、あのシャリシャリいちごシャーベットの赤を思い出す。

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