見出し画像

一音一会/東亮汰さんリサイタル 感想その2

*こちらの演奏会は、アンコールに限り、撮影OK。ということで、上の写真は、その模様です。

前回の記事で、演奏会の充実度は演奏家の精神状態によるところが大きいのでは?、みたいなことを書いたのだけれども。それは、聴き手側も同様だと思うのですよ。結論から言うと、1月31日の東亮汰さん・尼子裕貴さんのデュオ・リサイタルは、控えめに言って「最高」だったのだけれど、私の精神状態がそれを求めていたのかもしれない。年明けから心が痛むことが続いて、とは言っても自分にできることは少なくて、一方で世間で渦巻く感情の奔流にやるせない思いを抱いていて。そんな中で、やっぱり音楽は救いになり得るのではないか。ということを強く感じたわけです。

さあ、本題に入りましょうか。今回の演奏会場である、霞町音楽堂はとても小さなホールです。六本木駅から歩いても、広尾駅から歩いても10分以内の距離。地下1階で、メールで申し込みした名前を受付で言って、チケット代3000円(税込)を現金で支払います。チケット代と言っても、チケットはなかったけど(笑)。会場の収容人数は70人ほど。実際は、もうちょっとは入れそうだったけど、この写真で距離感がわかるでしょ? 

この写真では見えないけれど、ステージの天井にはステレオマイクが。

ステージまで、めっちゃ近いよね? それこそ、東さんのCD発売記念無料ライブが行われた、タワレコ渋谷のイベントスペースくらい近いですよ。そして、この霞町音楽堂は、演奏を聴きながら、お酒が飲める! ドリンクカウンターが最後列の後ろにあって、私の席は前のほうだったから、さすがに演奏中に立って飲み物を頼みに行くのも憚られたから、開演前に飲み干しちゃったけど。ワインは、赤ワインがカリフォルニア産のカベルネ・ソーヴィニヨン、白ワインがミュスカデということで、私は白をオーダーしました。写真を並べて見たけど、雰囲気が伝わるかな? 

白ワインと会場とプログラム。

リサイタルというか、もう「ライブ」ですね。このワインで、私の気持ちもすっかり温まっており。いよいよ演奏が始まります。

登場した東さんと尼子さんは、この会場では去年7月に続く2度めの演奏。そのためか、とてもリラックスしているように見えました。最初に披露してくれたのは、クライスラーの「プニャーニの様式による前奏曲とアレグロ」。挨拶代わりの1曲として、東さんがよく演奏している曲ですが、テンションがいきなりマックス。えええ、と、飛ばしますねぇ。そして前回の「毎日ゾリステン」と同様に、めっちゃ密度の濃い演奏。なにこれ、いきなり「俺を見ろ!!!」ですか!? この曲は、アルバム『IN CONCERT』にも収録されているけれど、まるで別の曲に聴こえた。いや、そんなはずはないんだけど、さ。その圧倒的な迫力に、「え、もうトリなの?」と思ったもん。
そして2曲目は、クライスラーの「中国の太鼓」。1音1音はっきりと、軽快に弾き切っていたけど、これ、超絶技巧曲なんだよなぁ……。何なんだろ、この安定感。この2曲を聴いただけで、私はチケット代3000円のもとを取った気がしました。それくらい満足できたのよ。

今回のリサイタルでは、トーク部分もたっぷりと。高校時代からの盟友だけあって、話のネタは尽きることなく。楽曲の解説とともに、オーストリア・ザルツブルクへ音楽留学中の尼子さん(今回、東さんとの演奏会のために帰国)の寮生活や授業の話、ジロリアン・東さんと一緒に「ラーメン二郎」へ足を運んだ話などをたくさんしていました(おかげで進行は押し押しに。笑)。

客席最前列の人は、手を伸ばせば譜面台の足に触れるくらいの距離。

ここで、尼子さんのピアノ・ソロによる、リストの「エチュード 第3番 風景」と「エチュード 第6番 幻影」。この2曲もむちゃくちゃよかった。「第3番 風景」はピアノの澄んだ音で気持ちが浄化されていくような感じ。一方の「第6番 幻影」は、そのドラマチックさに魂を掴まれて、ぶんぶん振り回されているかような。例えとして変かもしれないけれど、ディズニーランドで生まれて初めてスペースマウンテンに乗ったときのような、叫び声がでそうな振り回され感というか。そんな印象を持ちました。

そして、東さんが再登場してのドヴォルザークの「8つのユーモレスクより第7曲」。実は、私の今回のいちばんのお目当ては、この曲でした。アニメ「青のオーケストラ」第21話「ユーモレスク」では東さんのソロ演奏で流れていた曲。あ、ここに残っていますね。

劇中では、青野くんが再オーディションを前に、ヴァイオリンを弾きながら自分自身を模索していくかような(これを私は「心の旅」と理解しました。それを描き出す伝える場面演出も、髙橋幹子さんの脚本も見事の一言!)繊細な音色で奏でられていましたが、東さん自身はどんな演奏をするのだろうと、すごく興味があったんですよ。
で、実際の演奏は……。もう、しっかり自分の進むべき道が見えたような、迷いのないイメージ。もしも青野くんが父・龍仁との葛藤を全て乗り越えられたとしたら、こんなに華やかで雄弁な「ユーモレスク」が弾けるようになっていくかもしれないと感じました。

そして休憩前最後の曲は、ドヴォルザークの「ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト長調」。ヴァイオリンとピアノの掛け合いは、最初は少し探り探りなのかなという感じもしたのだけれど、演奏途中で2人のテンションの方向性が合致した感があって。私はドヴォルザークには、稀代のメロディーメーカーという印象を持っているのだけれど、それこそ2人で一緒に歌い上げているかような。ああ、この満足感、贅沢さををどう表現すればいい? もうね、この演奏を聴けたのが(スタッフを含めても)100人以下という、そのもったいなさときたら!

ここで、約10分の休憩。小さなホールゆえに、出演者控室からトイレまでの導線が確保されていなくて、休憩中に客席の間を通ることになってしまうのも(みんな大人だから、ちゃんとスルーしてあげてた)、ひとつ、アットホームな雰囲気ではありましたね(笑)。会場の一角には、こんなものも。

「青のオーケストラ」コミックス、最新刊までをディスプレイ。

ちゃんと、リスペクトしてくださっていますね。ちなみに、客席にはヴァイオリン・ケースを持った小学生くらいの男の子がいて、時々、コミックスを読みに来ていました。話を聞いてみると、アニメも楽しんでくれていて、定期演奏会のシーンが好きだったとのこと。その中でも、「新世界より」の第4楽章がよかった!と教えてくれたのでした。ああ、岸(誠二)監督、ちゃんと子どもたちにもおもしろさが伝わっていましたよ!

休憩の後は、最後の曲となるフランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調」。コース料理で言えばメインディッシュで、極上のヒレ肉のステーキが出てきた、みたいな。それも変な味の飾りつけをせずに、今現在の東亮汰と尼子裕貴を丸ごと見せてくれた、みたいな。圧倒的な迫力で、マックス最高、みたいな。はい、語彙力がありません。でも「最高だった」とわかってくれれば、それでよし。
大喝采とともに「ブラボー!」の声が何度も飛んでいたから、そう思ったのは私だけじゃないと思うんだだけどなぁ……。

アンコールは(押し押しだったこともあって)さくっと1曲だけ。ドヴォルザークの「我が母の教え給いし歌」でした。冒頭に書いたように、この曲では写真撮影OK。私も何枚か撮ったけど、慌てていたから、若干低画像モード。たくさん撮りたい気もしたけれど、やっぱりピアノ~ピアニッシモあたりだとシャッター音を出したくなかったし、何より演奏を聴くのがメインだったから、ある程度で切り上げました。なので、演奏写真が今ひとつなのはご容赦いただきたく。

写真撮影OK。でも、きっと一眼レフ・カメラはダメだろうなぁ……。

それにしても会場の雰囲気、演奏ともに、これだけ素晴らしいのに、演奏会直前までチケットが完売しなかったとか。なんでだろう? わずか70席くらいだったのに。事前の宣伝が上手くいってなかったのかな? 私なんかは、「青オケ」作者の阿久井真先生や青野くん役の千葉翔也さんをはじめとして、「青オケ」という創作物にかかわったすべての人たちに聴いてほしいと思ったくらいなのに(聴いてもらえたら、きっとめちゃくちゃ刺激をもらえたと思う)。
ちなみに今回の演奏会を開催したのは、「ラパンアジル」という若手音楽家を支援するプロジェクト。チケット収益のほぼ全額が、出演アーティストに還元されるそうです。うーん、だったら余計に3000円は安すぎのような気がする。だって私は、その何倍もの満足感を得られたもの。東さんと尼子さんの演奏会は今後も何度か予定されているそうなので、次も絶対来ようと心に誓った。

それらの説明をしていた主催者の女性に何となく見覚えがあって、どこかでお会いしたことがあるのかな?と思いつつ、帰宅して改めて「ラパンアジル」を検索してみたら……。あの方、永井美奈子さんじゃん! 元・日テレのエース・アナウンサー(報道もバラエティも両方いけて、今で言うなら水卜ちゃんクラスの人気を誇ってた!)だった、あの永井さん。そりゃ、見たことあるわな。資金的な面でのプロジェクトの大変さも話しておられたけれど、がんばってほしいなと心から思いました。
可能なら、音源を有料でネット配信するとか? 販売価格にもよるけど、私は今回の音源なら欲しいもの。スタッフの方に、そうお伝えしたら、お店に備え付けの機材で録音はしてあるけれど、音質的に販売できるクオリティなのかは何とも……、とのことでした。とはいえ、こんな贅沢な空間で、最上級の演奏を味わえる機会をこれからも可能な限り維持していただければ、と願う次第です。

そして、東さんの今後の演奏に期待してやみません。「最高」なんか、軽々と超えてゆけぇ!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?