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「会いたい」騒動から考える同一性保持権の恐怖。

数日前から話題になっているこのニュース。
『「替え歌」は違法なのか? 「会いたい」の沢田知可子と作詞家が裁判沙汰』
図式としては森進一さんの「おふくろさん」騒動と同じですね。
要は作詞家に無断で元の歌詞に無い部分を追加したことで同一性保持権(著作者人格権のひとつ)を侵害したということです。

では、こういう場合は全て著作権侵害として訴えられてしまうのでしょうか?

著作者人格権というのは、著作権に含まれる権利ですが、いわゆる「著作権」(=財産権)とは別のもので、譲渡することはできず、作者(著作者)がずっと持ち続けるものです。
著作権法第20条にはこのように書かれています。
「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。」
要は作者(著作者)の「意に反する」(気に入らない)改変であれば権利(同一性保持権)を行使できるということです。
なので、もとの歌詞を改変すると必ず同一性保持権侵害に問われるというわけでは無さそうです。
今回は、作詞家の方の歌詞への想いが強く、替え歌とかいくつかの要素が重なって気分を害されたのが関係しているのでしょう。

では、歌詞ではなく曲の場合を考えてみましょう。
よくカバーという形で他のアーティストの曲やヒット曲を演奏しCDをリリースしたりしますが、その際、メロディの譜割りが変わったり、歌う人の表現として旋律が変わったりします。
これって同一性保持権侵害にならないのでしょうか?
可能性はゼロではありません。

実際、過去にPE’Zの「大地讃頌」に関してCD出荷停止ということがありました。
(裁判で有罪となったわけではなく、訴えを受けて自主的に出荷停止という判断が取られました。)
「大地讃頌」(wikipedia)
(参考)この件に関するJASRACの見解

例えば、カバーをする場合でも、JASRACに申請して使用料を払うだけで良いと思っている方がいると思います。(実際にインディーズレーベルからリリースされているCDなどはそういう処理だけでも大きな問題になるケースは無いかもしれません。)
しかし、正しくは改変(翻案)に関する権利はJASRACは管理していませんので、権利者(通常は著作権者である音楽出版社)に連絡をして利用許諾を受ける必要があります。
僕も過去にカバーアルバムのプロデュースをやっていたのですが、そういう手続きを踏みました。

「Sonho 〜Evergreen Bossanova〜 / Various Artists」 (Azul Records)「freedom bossa II / freedom orchestra」 (Victor Entertainment)

ただし、ここで得られたのは、いわゆる「著作権」の一つである「翻案権」に関する許諾だけですので、同一性保持権の問題は実は解決していないんです。
この心配を無くすためには、音楽出版社にお願いして著作者との間で人格権を行使しないという契約を交わさせてもらうという方法が考えられますが、現実にはそういうことはなかなか難しいと思います。
となると、出来上がったカバーバージョンが著作者に「意に反する」と判断された場合は訴えられる可能性がゼロでは無いわけです。(限りなく低いでしょうが。)

と考えると怖くてカバーとかもできなくなっちゃいますね。
同質性保持権は、権利者(著作者)の当然の権利とはいえ、ちょっと間違うと恐ろしい萎縮効果もある、とても強い権利ですね。

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