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インタビュー~母校・大阪芸大の想い出

この記事は、2013年の年末に、僕の母校・大阪芸術大学の後輩にあたる四宮基稀さんから受けたインタビューの再掲載です。少し長いですが、大学時代の想い出や、卒業制作のことを中心に、イラストレーターの仕事についても深く触れておりますので、最後まで楽しんでお読み下さい。

(インタビュアー:四宮基稀)

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットや、小説の表紙、ポスターなど、イラストが使われている様々な場所で活躍されている、イラストレーターの中村佑介さん。今回は卒業制作のお話や、制作に対する想いなど、貴重なお話をたくさん語っていただきました。


まずは中村佑介さんの卒業制作について教えて頂けますか?2009年に発売された画集『Blue』に何点か載っていると伺ったのですが…

中村 そうそう!この後ろ側の白黒で描いてるのから全部よ!この辺のえーっと何点なんやろう?(画集を見て数え始める)…30点ぐらい!

(※正確には「Blue」の143~174番の32点でした。)

オリジナル作品『路地』(1998年制作)

オリジナル作品『バス』(1998年制作)


作品点数が多いですが、これらは全て展示されたのですか?

中村 した!大体がB4サイズで大きくてもB3だったの。で、普通の展示みたく1つ1つの絵をある程度の距離を空けて横位置で展示するんじゃなくって、隙間なく縦横格子状にぶわ~って展示して収めたり、1日目と2日目で入れ替えたりして。で、実はこれ卒業制作にするつもりなくって。だって卒業制作の期間で描いてる枚数にしては多すぎるじゃんか?大体1枚2週間ぐらいかかるから30枚ぐらいあったら2年ぐらいかかってる事になるやんか?で、どうしたかって言うと、元々僕はトリックアートをしようと思ってたの。例えば和式便所の絵を描いて床に置いておくとか、額縁の絵を描いて裏が透けてるとか。そういう騙し絵みたいな事をデザインに於いてやってみて、”展示自体をコンセプトにする”という企画書を大学4年の最初に先生に提出してね、それとは別にこういう女の子のイラストを自分の趣味で描いていたんだけれども、誰にも見せてなかったの。仕事にしようとも思ってなかったし。それをたまたま先生が見つけて、「こっちの方が面白いから卒業制作せんでいい。これを今までと同じように描いてそれを展示しなさい。」って言われたから僕は結果的に卒業制作をしてないと言うか、ずっとやってたと言うかそんな感じやったね。

あと、卒業制作展で展示するだけやと来場者が持って帰る物が無いなと思って。それこそ膨大な作品を見て帰る訳やんか。だから僕はね、卒業制作とは別に漫画を描いて500部(×12Pなので7200枚)をコンビニで自分でコピーして、ホッチキスで留めて、雑誌にして、来た人全員に渡すって事をして。そうするとそこからすごく広がりが出て、実は今の仕事に繋がっていて。仕事をくれた学外の方が「実はこれ友達からもらった物なんですけれども」って言って配った冊子を持って来てくれたりして…当時はそんな事は考えてなかったけれども何か面白い事がやりたいなと思って、自分のできる範囲の中でやったぐらいなんだけれども。まぁ、僕の卒業制作はそんな感じだったって話。

オリジナル作品『バンド』(1999年制作)


卒業制作をするにあたって、そんな経緯があったとは意外でした。ちなみに学生の頃はどんな事をしていましたか?

中村 今日もバンドの演奏してたけれども(インタビューは2013/12/29 難波artyard studioの中村のバンド・セイルズのライブ後に実施)、学生の頃から音楽をやっていて、授業が終わってから全員が帰る22時ぐらいまで、学校の目立つ所でずーっとギター弾いて歌ってた。

サークルとは関係なくですか?(笑)

中村 そう、個人で。その時に演劇とか音楽とか油絵の人とか彫刻とか版画の人とか、色んな学科の人と知り合って色々やらせてもらったの。映画も撮らせてもらったし、音楽学科のとこに行って録音もさせてもらったし、版画もやらせてもらったし。でも、それって結構難しくって、僕はそういう事がたまたまやりたかったから結びついたけど、ほとんどの人はできたとしてもやる勇気が出ないというか…。そこを何とかできたらもっと学校全体が盛り上がると思うけどなぁ…。外から集めてこなくても十分中に人がいるんだから、「映像学科がやってた映画おもしろかったから映画館行こうやー。」とか、「デザイン学科がやってた展示おもろかったでー。」とか言って、学祭や卒展以外でも日常的に色んな学科の人が交流できたら良いよね。

確かに色んな学科の交流は大阪芸大ならではですよね。他ジャンルとの交流と言えば中村さんは“ASIAN KUNG-FU GENERATION のCDジャケットを描いている人”というイメージが強いのですが、ご自分の作品のイラストと、CDジャケットなどにイラストを提供する時では、描く時の意識は違いますか?

中村 もう全然違うよ!だって僕の考えを絵にしてる訳じゃなくって、僕の体を使って彼らのメッセージを出しているだけだからね。小説の表紙とかがもっとわかりやすいと思うんやけれども、その物語を描いてる訳やんか。で、音楽ってのは形が無いし詞もちゃんとした文章になってないから、ちょっとわかりにくいよね。でも、どの仕事も一緒で、小説なら作家、CDならアーティストの、それぞれのメッセージを魅力的に見える服を着せてやるみたいな作業だから、自分で描いている絵とは全く違う。絵柄は一緒に見えるんだけど。

仕事で描くのと自由に描くのと、どちらの方が好きですか?

中村 どっちも好き。話聞くのも好きやし、話すのも好きみたいなもんで、どっちが好きとか優劣も全然なくって。でも、本来すべき事は仕事の絵なんだろうなっていうのは思っていて。例えば自分で表現したい事があって、自分で絵にしてしまって、それこそ純度の高い芸術性のある作品を作ったところで、ものすごい自慰のうまくなってる人みたいな。「自分が100%満足できたんだから、もう見せんで良くない?」みたいなとこに行き着いちゃったんよ。大学の時にずっと作品を描いていて、「結局何がやりたいんやろう?」って考えた時に、自分のテーマがきちんとあってうまく表現できたって思ったものが、ことごとく人に伝わらなかったわけよ。で、適当にっていうわけじゃないけど、あんまり良くないよなって思ってたものがウケが良かったりして。自分が思っている自分らしさと、他人が思っている自分らしさのどっちがホントなのかな?って考えた時に、他人が評価してくれた自分の方が良いのかな?って思って、自分で自分を表現するって事に重きを置かなくなってしまったんよね。やっぱり人と人とが何かを作り出すっていう事は意思疎通も完璧にできないし、失敗もあるよ。でも、自分が思っているよりも実はずっと良いものと言うか、例えば自分の曲に絵を描いてもらって、思っているのと違ったとして「全然わかってへんなー。」って言うのは実は間違いで、自分の曲は自分では客観的には見れないやんか?ホントに客観的に見れるのは初めて聴いた人なわけやんか?しかも、作品を作った人の事を知らない人ね。

ASIAN KUNG-FU GENERATION『ソルファ』/CDジャケット


知っている人だと、作家の人間性なんかも見てしまいますもんね。

中村 そうそうそう!それも込みで。実は自分自身もこういうの表現したかったっていうのを100%出せてる訳がないんよね。それは誰でも。で、それでその曲を絵にしたとして、それぞれが、デザイナーなり、絵を描く人の正解であって。楽曲達とジャケットが融合した作品が真実であると言うか、すごく良いパワーを発していると言うか、ドロッとしてないって言うか。みんながみんな、ドロッとした部分を薄め合ってすごい飲みやすい物になってると言うか。それでようやく別の人の手元に届きやすい形になるって言うかさ。カルピスの原液飲めへんやんか?絶対水で薄めなあかんやんか。だからみんなカルピスなんだよね。

なるほど!とてもわかりやすい例えです。それでは最後に、今の大阪芸大の学生に対して一言頂けますか?

中村 一言って…「がんばれ!」とかそういう事?

(笑) 一言というか、メッセージをお願いします。

中村 学費の元を取りましょうって事よね。あなた達は授業だけじゃなくって、施設とか色んな学科にあるものを使える権利があるんよ。ちゃんと許可取ったら暗室だって使えるし。ちょっと写真に興味出てきたとかやったら。勝手に行ったらあかんけど。だからできるだけ……今で学費なんぼよ?大阪芸大。

学科によって違うのですが、150万円程度です。

中村 でしょ?元取ってますか?って事なんよ。年間が150万?

そうです。

中村 つまり4年間で600万でしょ? 600万払ってホテル泊まったらどんだけ良いホテル泊まれる?っていう。600万で牛丼何杯食える?って言う。それだけのものを学校からもらったかっていうと、学校はあげようとしているんだけれども、取りに行かない人が多いっていう事だと思うんよね。卒業してしまったら、「あ!あの機材無いわ~。じゃあもう辞めよっかな~。」ってなる事が多いから、できるだけ学生のうちに思いつく限りの機材を使う。でも、やるためにはあまり交友関係の広くない子とかは心細くて行かれへんと思うから、みんなFacebookして、そこで友達なったら?みたいな。そしたら行きやすいやん?いっつもどこの食堂おんの?とか。そしたらさ、みんな大人になるんやから、みんなで仕事を振り合って、みんながプロになれるっていうか。そういう事ができるようになるよね。

中村さん自身は学生時代にそういう経験がありましたか?

中村 映画に関わりたかったから脚本だけやった事があるんよ。オーディションがしたかったの!僕は女性の上に立ってみたかった。選ぶ立場になってみたかった。オーディションして「もう、帰れ~。」みたいな。それをやりたいから脚本を書いて個人でやってる子に持って行って作ったの。で、オーディションして可愛い子が来たから撮ったんやけどね。で、その時の監督が卒業してからデザイナーになって振ってくれたのが、今も福岡で売っているお菓子(『博多の女』ハチミツレモン味)のパッケージの仕事。それみたいなもんで、別に学外にまで出やんでも実は人がおるし、せっかく色んな学科の人がいるのに同じクラスの人しか友達にならずに4 年間過ごすのはもったいないなー。っていうのは感じてるよね。

二鶴堂『博多の女 ハチミツレモン味


学費の元を取るのと、色んな学科の人と友達になろう。という事ですね。

中村 まぁ、そんな感じやね。学費を無駄にしないっていうか。ほとんどの人がお父さんお母さんに払ってもらってると思うんやけど、時々はね、自分でバイトして奨学金借りてみたいな人もいると思うけど。そのために金取り返そうぜ!っていう。学校の物も使いまくったろうぜ!っていう。だって1年で150万やとしたら1日なんぼぐらいなわけ?

5000円ぐらいですね!

中村 でしょ?1日5000円払ってるんやで?それやのに学食も自分達で食わなあかんのやで?350円入れてカツカレーとか食わなあかんやん。「あれ?俺の5000円どこ行ったん?」みたいな。先生も5000円分教えてくれてませんけど?って。だって、本さぁ、1冊1200円とかでものすごい参考になる本とかあるやん?先生の授業1回分なんて本1冊にならへんやん?1章分ぐらいやでためになっても。だからパソコン使いたかったらパソコン使いに行ったらいいしさ、図書館の本も借りまくったったらいいしさ。ちゃんと返さんとあかんけどね。機材も壊したらあかんけれども。そうする事によって元取りたいよね。だって音楽学科だってちゃんと許可取ったらスタジオだって貸してくれるし、ピアノだって弾かしてくれるしさ。宅録してて「静かなとこで録りたいなぁ」って思ってスタジオ借りて、録音したら、外部スタジオやったら1人いくらやろ?3時間で1500円ぐらいなんかな?1500円分は元取れたわけやんか。みたいにお金に換算していったらいいよね。「今日何円使ったった!」「よし!5000円行った!」って言って。毎日5000円!毎日5000円を取り返して行こう!

そうですね。どんどん取りましょう!

中村 そうそうそう。以上です。

本日はありがとうございました。

中村 ありがとうございました。


(2013年12月29日 大阪・難波artyard studioにて収録)

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