お洒落は足元から

子供の頃より母親から、「そんな穴のあいた靴下はやく捨てなさい!」と言われてきた。巷の女性も、本当に「お洒落かどうかは男性の靴下でわかる」「お洒落は足元から」などと聞く。その度に上着やズボンなどは割と気を使っているものの、よく靴の中で靴下の穴から親指が出ているような僕にとっては、「どうせ見えないんだから良いじゃないか」とうるさく感じていた。

ただ、穴の空いた靴下でひとつだけ困るのは座敷のある食べ物屋に入ってしまった時である。見られるのは一応恥ずかしいは、恥ずかしいのだ。その夜もお好み焼き屋の窓から座敷があるか、ないかを確認し、テーブル席だけだったのでホッと一安心して入店した。

その店は、店内は間接照明で、BGMもジャズで、まるでBARかと見間違うほどお洒落なお好み焼き屋だった。メニューにも普通のお好み焼き屋さんでは見られないようなオリジナリティ溢れる西洋風な献立が並んでおり、食材もこだわっているようで、味も申し分ない。食べている最中に「またここに来よう」と思う程だった。

大阪の人が全員そうなのかはわからないが、僕はとりわけ夕食には白飯を食べないと、食べた気がしないので、途中まで食べていたお好み焼きの箸を置き、500円と少し値段は高かったが、追加でライスを注文した。すると3分後に奥から「チーン!」という音。非常にイヤな予感がした。

案の定出てきたのはレトルトご飯だった。なぜそれがレトルトかとわかったかというと、保存料でテカテカに光っており、板がまっぷたつに折れ曲がったように、茶碗に盛られていたからだ。レトルトご飯自体は嫌いではないが、さすがに500円には見合わない。それにその茶碗のデザインがこだわっているもんだから、余計に腹が立った。「さっきのは撤回!二度と来てやるも…ハッ!!」 これはまるで見える所ばかり格好つけているのに、見えないところはだらしない自分にソックリじゃないか。母親があれ程口酸っぱく「靴下は大切!」と言っていたのは、こういう事だったのか。

靴を履いたままだったので、誰からも見られることはなかったが、「この穴の空いた靴下、帰ったら捨てよう」と思いながら帰路についた。

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