読書感想文「チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学」小川 さやか (著)

 2019年,最もホットな一冊だ。抜群に面白い本なのだが,何が面白いのか。愛すべきキャラクターの主人公・カラマが面白いのか。カラマ大好きの著者である突撃姉さん・小川さやかが面白いのか,シェアリング経済と人が次々と入れ替わりながらも維持される香港のタンザニア・コミニュティとICTテクノロジーの関わりが面白いのか,いや,どれも面白いのだが,本当に面白いのは,こうした香港のウラ社会・ダークサイドを研究する文化人類学が面白いのだ。人類学の最大の特徴は,フィールドワークとりわけ参与観察である。他の学問でも,現地調査や巡検があるだろうと言われるだろうが,あくまで,研究者・学者が他者目線で客観的に調べるのが,他の学問でのやり方だ。文化人類学は,どっぷり首まで浸かってみる。そうして内側から研究対象の肉声を研究材料に上げてゆく。そこから生まれる面白さなのだ。
 チョンキンマンションに出入りする人間のダメさ加減,どうしようも無さは厳然と存在する。だが,それが人間の本質であり,「彼らの仕組みは,洗練されておらず,適当でいい加減だからこそ,格好いい」という著者の言葉を確認するために,この本を手に取ってもらいたい。


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