読書感想文「ヴィオラ母さん 私を育てた破天荒な母・リョウコ」ヤマザキマリ (著)

 自身の枠をぶっ壊して人生を切り開いた女性の物語である。メジャーな存在となった人は家族について語り出すものだが,ヤマザキマリは違う。自身の今について,自身の生い立ちについて語るときに,あの,伝説の,規格外の自身の母親に触れざるを得ない。
 お嬢様として育ち,親の目の届く範囲で暮らしていた子が音楽との出会いの中で,全く違う挑戦の連続の日々を選択する。「道を開く」とは松下幸之助の有名な著書だが,北国に出来たばかりのオケで何の保障も約束もないであろう演奏家としての暮らしを切り開いたのだ。それを見ていたのは,長女・マリである。そんな我が道を突き進む母親にとって,子どもたちに与えるのは,最低限の安全と自由だ。道を阻む者たちを相手にする戦士にとって,何より大事なのは自由だ。惜しみない自由を与えられたマリは紆余曲折を経て,母親に認められる漫画「テルマエロマエ」を著すことになる。
 同じように自由に,そして多くのしがらみと拘泥してきた二人の母親として,複雑さを持ち合わせながらも感謝するマリが書く第6章「リョウコという母親」。おそらく,この章を書きたくて,この一冊があるのだろう。愉快なだけではない。母への手紙なのだ。


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