ピティナ特級を審査して

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今さらですが…
21日はピティナ特級ファイナルの審査をしてきました。
実は僕は1次から動画やライブ配信でおそらくほとんどのコンテスタントを聞いていたのですが、今年の特級は本当にレベルが高かった。
その中でもファイナルに進んだ森本隼太君と谷昴登君の才能と能力はずば抜けていました。2人とも国際コンクール級の才能ですね。だけどこのままでは国際コンクールでは通用しないこともまた事実です。2人とも(恐らく全く違う理由で)自分だけの世界に入り込んで突っ走ってしまうことが多々あり、その結果せっかく持っている音楽が出ないテクニックと音量だけの場面になってしまいます。彼らはまだ高校生ですし、彼らの先生たちも国際級のピアニストでもちろんそんなことは分かっていると思うので、そこが改善されるのは時間の問題だと僕は思ってますが。


セミファイナルとファイナルを聞いて全ての演奏の中で1番印象に残ったのは、谷君のプロコフィエフ:サルカスムスでした。不勉強ながら僕はこの曲の魅力が全くわからなかったのですが(もちろんたくさんのCDを聞いています)、谷君の演奏で初めて魅力が分かりました。また森本君のデュポンも本当に美しかった。また森本君のラフマニノフのコンチェルト最後は大きな喜びがあの広いサントリーホール中に伝わっていくようでした。2人ともそれだけの大きな美しい音楽を持っているのに、わざわざそれを全部壊すように突進してしまうのが本当にもったいない。

さて、曲選のことも少し。今回はファイナルでラフマニノフ3番が3人、そしてその3人が揃って入賞したということで、やはりラフマニノフなどが強くてショパンは弱いという印象を持った人も多いでしょう。しかし僕は決してそうではないと思います。山懸さんの美しいショパンは十分に印象的でしたし、なによりも彼女がファイナルまで進んだのは全てのラウンドでショパンを選ぶというこだわりがあったからこそ。セミファイナルでのアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズはとてもいい演奏で、あの曲がなければファイナルにはもしかしたら進んでなかったんじゃないかな。今回は他の3人がすごかったというだけで、さらに磨きをかけてもっと魅力的なショパンを弾けば十分上に行く余地はあると思います。


青柳先生も書かれていましたが、今回のセミファイナルではコンクールの定番曲とはいえないドイツ物やショパンで直球勝負に出ている人が何人もいました。これはとても嬉しいことです。コンクールで通るためにマイナーな現代曲をチョイスするというのはよくやることですが、僕は長い目で見ると良くないと思う。その人のためにも音楽界全体のためにも良くない。それがコンクールのためではなく、その人が現代曲がとても好きでそれで勝負をかけたいと思っているのであればもちろんありでしょう。しかし本当はショパンを弾きたいのにコンクールでは現代曲を弾く、そうするともし入賞出来たとしてもその後のコンサートでなかなかショパンは弾かせてもらえません。またいざ弾いてみると自分のショパンは全く評価されないということもある。やはりある程度オーソドックスな曲でちゃんと評価が得られてこそだと思います。
また、とにかく難しい曲を弾かないといけないと思っている人が多いですが、難しい曲はキチンと弾けてこそ評価が得られます。無理して難しい曲を弾くのは自滅でしかないです。自分の成長のため、ということなら大いにありでしょうけれど。

さて、なんだか偉そうにいろいろと書きましたが、人ごとではない!僕も本当は7月にラフマニノフの3番を弾く予定でした。残念ながらコンサート中止になってしまいましたが。しかし今回若者の凄まじいテクニックを目の当たりにしていろいろとヒントになることもあったので、記憶が薄れてしまう前に練習しなければ!

と言っている間に明日からは日本音コンの審査です。今まで審査をほぼ避けてきた僕が審査員のハシゴとは信じられない気持ちですが、音楽界と若い才能の未来のために誠意を込めて聞いてきたいと思います。

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