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時給2,800円?日本の1stAC指数は+1.00

世界の撮影業界の“ギャラ”はいくら?ビッグマック指数を応用し、撮影助手のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国の撮影業界の仕組みを分解していく。最終回は日本です。

日本の撮影業界には、アクティブな労働組合(ユニオン)がなく、ギャラの単価も最低でも15年以上は改定されていません。源泉徴収の点を考慮すると、最近では実質 10% 値下がりしているケースも多いようです。最終回では、そんな日本の映画・広告領域の撮影業界の仕組みを分解してみます。

JSC|日本映画撮影監督協会とは?

世界各国の映画撮影業界には、米国のASC(American Society of Cinematographer)を模した“撮影協会”が存在する。映画のエンドロールでスタッフ名の横に記載されている英語3文字がそれにあたる。

日本の場合は「JSC(Japan Society of Cinematographers)」という団体。毎年、“撮影助手育成塾”という撮影アシスタントの育成プログラムを実施していることで知られるが、労働組合としての機能はない。

日本経済の基本情報

まずは日本経済に関する、数字を並べてみる。

2018年度、日本の最低時給は985円(東京都)、動画の広告市場は2.1兆円、国産映画の興行収入は 1,236億円

参考までに、2019年6月時点の「世界時価総額トップ100」の日本企業は、50位の『トヨタ自動車』のみ。ランク外には 105位『ソフトバンク』、116位『NTT』、129位『NTT DoCoMo』などが名を連ねる。

アジア諸国では、中国は5位のEC『アリババ』をはじめ12社、韓国は19位の電子機器『サムスン電子』、台湾は39位の半導体『TSMC』、香港は66位の保険・金融『AIA』などがトップ100に顔を並べる。

海外の撮影スタッフ編成|DP方式

日本の映画・広告業界では、日本独自のスタッフ編成が採用されている。どこがどう違うのか?まずは海外で採用されているスタンダードなスタッフ編成を見てみよう。赤の点線枠内は、従量課金型の料金体系の部署。上のレイヤーになるほど料金単価が上がる。

撮影監督(DP)が撮影設計、照明設計、特殊機材などすべての部署を統括する責任者となっている。その下に連なる部署は以下のとおり。

<1列目・ピンク|GRIP>
・KEY GRIP・・・クレーンなど特殊機材の操作・管理
・BEST BOY・・・GRIP(特機)のチーフ助手
・GRIP・・・特機部、照明部の助手
<2列目・水色|DIT>
・DIT・・・映像の品質管理、デジタル機器の責任者
・DATA MANAGER・・・撮影データの管理
<3列目・青|撮影部>
・DP・・・撮影監督
・CAMERA OPERATOR・・・いわゆるカメラマン
・1st AC・・・撮影スタッフの手配、機材の管理、フォーカスの管理
・2nd AC・・・1st ACの補助作業
・CAMERA PA・・・研修生
<4列目・緑|照明部>
・GAFFER・・・照明設計に基づくライトの操作
・管理・BEST BOY・・・照明部のチーフ助手
・ELECTRICIAN・・・照明部の助手

日本の撮影スタッフ編成

日本ではより分業化?されたスタイルが採用されている。赤の点線枠内は、従量課金型の料金体系の部署。上のレイヤーになるほど料金単価が上がる。

日本固有の方式として、照明技師撮影チーフという役職がある。標準的なスタッフ構成は以下のとおり。

<1列目・ピンク|GRIP> ※ 海外と同様
・KEY GRIP・・・クレーンなど特殊機材の操作・管理
・GRIP・・・特機部の助手
<2列目・水色|DIT> ※ 海外と同様
・DIT・・・映像の品質管理
・デジタル機器の責任者
・DATA MANAGER・・・撮影データの管理
<3列目・青|撮影部>
・B CAM OPERATOR・・・カメラが複数台の時のカメラマン
・1st AC・・・撮影スタッフの手配・露出の計測(撮影チーフ)
・2nd AC・・・機材の管理・フォーカスの管理(撮影セカンド)
・3rd AC・・・2nd ACの補助(撮影サード)
<4列目・緑|照明部>
・照明技師・・・照明設計と指示
・1st AC・・・ライトの操作・管理(照明チーフ)
・2nd AC・・・照明部の助手

日本の撮影業界の料金表

日本の撮影アシスタントの料金体系は、作業内容に関わらず、等級ごとに5,000円の差を付けた単純な構造となっている。新料金との記載があるが、3rd の単価(10H)は元々18,000円である点に注意をしたい。

この資料は、とある広告制作会社より配布されたものだが、制作会社がフリーランスの料金表を作成している点が、海外との大きな違いとして挙げられる。

<撮影部の料金・時給換算>
・シネマトグラファー・・・要相談
・カメラオペレーター・・・要相談
・撮影チーフ・・・2,800円
・撮影セカンド・・・2,300円
・撮影サード・・・1,800円
・DIT・・・要相談 5,000円以上?
・Data Manager・・・要相談 3,000円以上?

この料金表では、オーバータイム(延長料金)に関しては、時給計算となっているが、日本では1DAY料金を基準とした“日数計算“がスタンダード。これが、いつ頃から適応された料金か定かではないが、少なくとも自分が業界にいる15年間は、一度も料金の改定はされていない。

元同僚の先輩カメラマンの話によると、1980年頃(40年前)の料金体系は以下の通り。当時は「撮影サード」という役職はなかったようだ。この数字を元にすると、約20年間で、時給にして1,000円の料金改定があったことになる。

<撮影部の時給> 1980年頃
・撮影チーフ・・・1,800円
・撮影セカンド・・・1,200円
※ 機材チェックは2,000円

また、2011年の東日本震災以前は「ならび」という俗語があったように、この単価に10%の源泉徴収を上乗せした金額が定番だった。ごく個人的な調査だが、近年は制作会社の主導による、源泉(10%)を差し引かれた状態での請求事案が80%を超える、という点にも注目したい。

日本の撮影業界の1stAC指数は"1.00"

ビックマック指数のビックマックと同じく、映画・広告業界の“撮影助手(1stAC)”の品質は、世界中どこもあまり変わりがない。

この 1stAC 指数は、業界の“市場規模”に対する“人件費”の比率を算出することで、業界全体の健全性を計るものである。日本との関係値を見るために、基準値(= 1.00)を「2018年度の日本」としている。

計算式は以下の通り。

1stAC指数 = 1stACの時給 ÷ 法定最低賃金 ÷(国産映画の年間興行収入動画広告の市場規模)÷ 基準値<JPN>

指数の基準値(= 1.00)としているため、当然ながら、日本の 1stAC 指数は "1.00" 。参考までに、世界各国の動画市場に関する KPI のデータを簡単にまとめると、以下の通りとなる。

・カナダ・・・+5.87動画の広告市場 <世界10位>
国産映画の興行収入 <世界13位>
・オーストラリア・・・+3.15動画の広告市場 <世界9位>
国産映画の興行収入 <世界10位>
・イギリス・・・+3.87動画の広告市場 <世界4位>
国産映画の興行収入 <世界5位>
・ドイツ・・・+4.51動画の広告市場 <世界5位>
国産映画の興行収入 <世界8位>
・フランス・・・+4.61動画の広告市場 <世界7位>
国産映画の興行収入 <世界7位>
・日本・・・1.00動画の広告市場 <世界3位>
国産映画の興行収入 <世界4位>

繰り返しになるが、撮影助手のスキルセットは、世界中どこもあまり変わりがない。日本の動画広告の市場規模は世界3位(2.1兆円)、国産映画の興行収入は世界4位。かなりの好条件に囲まれているように見えるが、実際、日本の撮影助手の人件費はどの国よりも低い。

---------- REVIEW  ----------

アメリカ以外の国々の撮影産業は、大きくはどこも“国内需要”に依存しています。それなりの規模のマーケットが存在する日本は、その点では非常に恵まれた環境にあると再認識しました。

一方、ギャラ交渉で「今回予算が厳しくて・・」みたいな場面があると思いますが、この数字を見るかぎり、それが人件費をディスカウントする理由になり得ないということも、よく理解できます。

次回、この調査結果をもとに、総括をしていきたいと思います。

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---------- SOURCE  ----------

---------- UPDATE  ----------

2019.7.29 段落の崩れを修正

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