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ここがヘンだよ?日本の撮影業界 2/3

世界の撮影業界は、日本と何が違うのか?

ビッグマック指数の応用版として「撮影アシスタント」のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国と日本の“撮影業界”の違いに関して、データを紐解いていきたいと思います。

新基準「CD指数」での統計

統計を出すにあたり、これまで指数のサンプルとしていた「1stAC」に関して、日本と海外では1stAC が担う役割が異なる、という点を前の記事で問題点として取り上げました。

そこで今回は 1stAC と 2ndAC の料金を合算した「撮影部(Camera Dept.)」というユニット単位で、あらためて統計を撮り直したいと思います。指数の名前は、とりあえず「CD指数」としておきます。

CD指数 = 撮影部の時給[UnitRate] ÷ 法定最低賃金 [MinWage] ÷(国産映画の年間興行収入[Cinema]+動画広告の市場規模 [Ad])÷ 基準値<JPN>

基準値とする2018年の日本のデータは以下の通り。考え方がすこし複雑ですが、日本の場合、役割としては、撮影チーフ撮影セカンド撮影サードの3者で分担する作業にあたるので、3名分の人件費の合算とします。

基準値<JPN> =
(2,800[1]+2,300[2]+1,800[3])÷ 985 ÷(1,236+21,000)≒ 0.0001278 

新基準での指数は以下のようになりました。スタッフを1名を追加してもまだ日本の数値は低いままです。

<世界各国のCD指数>
2018年
※ [ ]は1stAC指数時の値
1. カナダ +5.32 [7.69]
9,067 ÷ 1,157 ÷(26+4,650)÷ JPN ≒ 5.32
2. オーストラリア +3.51 [4.93]
9,987 ÷ 1,434 ÷(42.2+6,250)÷ JPN ≒ 3.51
3. フランス +3.28 [4.61]
7,299 ÷ 1,214 ÷(636+5,182)÷ JPN ≒ 3.28
4. ドイツ +3.17 [4.51]
7,235 ÷ 1,086 ÷(281+6,390)÷ JPN ≒ 3.17
5. イギリス +2.77 [3.87]
10,130 ÷ 1,072 ÷(833+10,000)÷ JPN ≒ 2.77

世界各国との比較|最低時給

前回と同じく世界各国の“最低時給”に対するギャラ単価の比率を計算してみると、結果は以下の通り。

<最低賃金に対するギャラ単価>
2018年・CD指数
1. イギリス 10,130 ÷ 1,072 = 9.45 [5.36]
2. カナダ 9,067 ÷ 1,157 = 7.84 [4.60]
3. 日本 6,900 ÷ 985 = 7.01 [2.84]
4. オーストラリア 9,987 ÷ 1,434 = 6.96 [3.96]
5. ドイツ 7,235 ÷ 1,086 = 6.66 [3.85]
6. フランス 7,299 ÷ 1,214 = 6.01 [3.43]
※ [ ]は1stAC指数時の値

日本をのぞく5ヶ国の平均値は 7.39 となりました。「撮影部」単位での時給は、法定最低時給のおよそ7.39倍の価格帯。参考までに、これを素直に日本に当てはめてみると、適正価格は 7,279円という計算になります。

額面は依然として低い値となっていますが、最低時給との比率としては、世界平均とかなり近い数値となりました。

世界各国との比較|労働生産性

関連性が低いと思われる“市場規模“に関しては、今回は割愛して、つぎに各国の“ひとりあたり労働生産性”に対するギャラ単価の比率を見てみます。

<ひとりあたり労働生産性に対するギャラ単価>
2017年・CD指数

1. イギリス 9,677,170 ÷ 10,130 = 958 [1,683]
2. カナダ 10,046,131 ÷ 9,067 = 1,112 [1,889]
3. オーストラリア 11,698,526 ÷ 9,987 = 1,175 [1,811]
4. 日本 9,067,774 ÷ 6,900 = 1,318 [3,228]
5. ドイツ 10,892,940 ÷ 7,235 =1,511 [2,607]
6. フランス 11,546,689 ÷ 7,299 = 1,587 [2,773]
※ [ ]は1stAC指数時の値

日本と水準の近いイギリスとの比較で、1.38倍の差となりました。日本の撮影スタッフ3名の労働力が、イギリスの撮影スタッフ2名分を下回る数値となっています。人員を1名追加しているので、当然といえば当然の結果ですが、1stAC単位での評価時に約2倍の開きがあった差が、かなり縮まりました。

統計の簡単なまとめ

簡単なまとめとしては、日本の映画・商業広告の撮影業界の撮影アシスタントに関して、総じて労働単価が低いという結果となりました。

使用する機材、求められるスキルセットは世界中どこも同じなので、個人差はあれど、撮影アシスタントの品質は世界中であまり変わりがない

今回の「1stAC指数」および「CD指数」は、その観点で、とかく数字で表現しづらい定性的な撮影業界というものを可能な限り定量化して評価するための試みとなります。

この「定量化」という作業は、世界のあらゆるものがシステムに紐づく、いわゆる IoT 化する時代に、かなり重要な要素となると個人的には考えています。それは例えば、すべての商品が常に“時価”であったり、“要交渉”の状態ではAmazonの売り場には並ばないというような意味合いです。

日本の撮影業界が抱える課題とは?

▶︎ そんな日本の撮影業界の課題をどこに設定するか?
▶︎ そもそも論で、労働単価が低いことは問題なのか?
▶︎ そもそも論で、現状のままではダメなのか?

よくある話で、これは日本中のレガシーな産業に共通する課題と言えるかもしれませんが、個人的には、日本の撮影業界の抱える問題は以下の2点に集約されると思っています。

1. 労働単価が低い(国際比較)
2. 労働生産性が低い(IT化・省人化による限界費用の圧縮)

----------  REVIEW  ----------

この記事は純粋な「統計結果」として、独立して残しておきたいので、私見を交えた詳細に関しては、次回以降また掘り下げていこうと思います。撮影協会と労働組合に関しても触れられればと思っております。

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---------- SOURCE ----------

https://en.wikipedia.org/wiki/Film_industry#cite_note-statista-132
https://www.statista.com/
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/

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