見出し画像

時給5,750円?イギリスの1stAC指数は+3.87

世界の撮影業界の“ギャラ”はいくら?

ビッグマック指数を応用し、撮影助手のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国の撮影業界の仕組みを分解していく。

第3回は、イギリスの放送、エンタメ、通信、演劇の各業界を束ねる労働組合「BECTU(Broadcasting, Entertainment, Communications and Theatre Union)」を起点に、イギリスの撮影業界を見ていきます。

BECTUとは?

BECTUは、イギリスの放送、エンタメ、通信、演劇業界の労働組合。組織の合併により、2017年より労働組合「Prospect」に統合。
放送、映画、演劇、IT、通信、エンタメ、レジャー、インタラクティブメディア、で働くスタッフ約4万人が会員として在籍する。

労働組合として、料金規定・保険に関する記載も充実しており、税金の解説やサポート窓口など、サービス全体として非常によい造りをしている。

参考までに、 Prospect は2001年に設立された、公共・民間、両方のエンジニア、管理者、科学者、その他の専門家が所属するイギリス最大の技術者のための労働組合。会員数は2017年時点で約14万人。対象分野は、農業、放送、防衛、教育、子供向けサービス、エネルギー、環境、遺産、造船、通信、運輸、とかなり幅広い。

BSCとは?

世界各国の映画撮影業界には、米国のASC(American Society of Cinematographer)を模した“撮影協会”が存在する。映画のエンドロールでスタッフ名の横に記載されているアルファベット3文字がそれにあたる。

イギリスの場合は「BSC(British Society of Cinematographers)」という団体。ウェブサイトの UI/UX は一般の優良企業並にすばらしく、主要SNSのアカウントも充実。会員プロフィール欄など質もかなりよい。機材メーカーなど各社パートナー企業(Patrons)との友好な関係も伺える。

イギリス経済の基本情報

まずはイギリス経済に関する、数字を並べてみる。

2018年度、イギリスの25歳以上の最低時給は £7.83(1,072円)、テレビ・ネット配信を合わせた動画の広告市場は €7,417M(1.0兆円)、国産映画の興行収入は$770.56M(833億円)。

2018年度、日本の最低時給は985円(東京都)、動画の広告市場は2.1兆円、国産映画の興行収入は $1145.32M(1,236億円)。

参考までに、2019年6月時点の「世界時価総額トップ100」のイギリス企業は、5社ある。金融『HSBC(香港上海銀行)』、家庭用製品『ユニリーバ』、石油・化学『BP』、製薬『アストラゼネカ』、酒類『ディアジオ(ギネス)』と、さまざまな領域の企業が並ぶ。

イギリス撮影業界の料金表

BECTU によるイギリスの撮影スタッフの料金表。料金体系は、ドラマ・映画・広告の分野で、作品の予算規模に応じて 8段階 のプランが設定されている。

メジャー劇場公開映画> 基本料金の時給
2018年度・BECTU版
撮影監督・・・要交渉
カメラオペレーター・・・£60(8,214円)
DIT・・・£40(5,477円)
撮影助手 1st AC・・・£42(5,750円)
撮影助手 2nd AC・・・£32(4,380円)
撮影見習い ・・・£12(1,642円)
フォトグラファー・・・£200(27,383円)
<商業広告> 基本料金の時給
2018年度
・BECTU版
撮影監督・・・要交渉
カメラオペレーター・・・£52(7,120円)
DIT・・・£42(5,750円)
撮影助手 1st AC・・・£46(6,297円)
撮影助手 2nd AC・・・£36(4,928円)
撮影見習い ・・・£19(2,601円)

イギリスでは、DITの料金が撮影助手(1stAC)をやや下回るようだ。1stAC の単価は、日本の2.25 - 2.73倍 にあたる。ちなみに撮影機材は世界中みな同じなので、技術能力(スキルセット)に大差はない。

2007年度版の資料を見ると、この12年間で、料金がどれだけ改定されたか?がわかる。記載の金額は、太字が休日料金、カッコ内が基本料金。

<商業広告> 基本料金の時給
2007年度
・BECTU版
カメラオペレーター・・・£40.7(5,570円 / 9,974円)
撮影助手 1st AC・・・£35.4(4,846円 / 8,675円)
撮影助手 2nd AC・・・£27.2(3,723円 / 6,665円)

上記が2007年度のデータとなる。カッコ内の日本円の金額は、左側が現在のレートによる換算、右側が2007年の為替レートで計算したもの。

この12年間で、時給が 約1.3倍 上がっていることがわかる。数字全体が上がってるので、インフレ率、実質賃金など経済状況を考慮して、算定していると推測される。具体的な関連性はともかく、この1.3倍という数字は、この12年間の東京都の最低時給の変化とほぼ同じ値である。

イギリス広告業界の労働規約

商業広告では、BECTUの規約とは別に APA(Advertising Producers' Asossiation)という“広告プロデューサー協会”が定める規約も存在するが、BECTUとほぼ同じ賃金水準となっている。

<商業広告> 基本料金の時給
2018年度・APA版

カメラオペレーター・・・£52(7,120円)
DIT・・・£42(5,750円)
撮影助手 1st AC・・・£45(6,170円)
撮影助手 2nd AC・・・£35(4,798円)
撮影見習い ・・・£19(2,601円)

イギリス撮影業界の1stAC指数は"+3.87"

ビックマック指数のビックマックと同様に、映画・広告業界の“撮影助手(1stAC)”の品質は、世界中どこもあまり変わりがない。

この 1stAC 指数は、業界の“市場規模”に対する“人件費”の比率を算出することで、業界全体の健全性を計るものである。日本との関係値を見るために、基準値(= 1.00)を「2018年度の日本」としている。

計算式は以下の通り。
※ イギリス 1stAC の平均賃金を5,750円として計算

1stAC指数 = 1stACの時給 ÷ 法定最低賃金 ÷(国産映画の年間興行収入+動画広告の市場規模)÷ 基準値<JPN>

2,800 ÷ 985 ÷(1,236+21,000)≒ 0.0001278 = 基準値<JPN>
5,750 ÷ 1,072 ÷(833+10,000)÷ JPN ≒ 3.87

2018年度の数値を入力すると、イギリスの 1stAC 指数は "+3.87" 。日本の撮影業界に比べて、イギリスの 1stAC が、経済的な見返りを“3.87倍”多く受けていることを意味する。

---------- REVIEW ----------

実際、この料金がどこまで忠実に守られているかは不明ですが、イギリスの撮影業界には、ウェブ上で公開された料金表+労働規約が存在していました。業界全体のオンライン化率は、世界で最も進んでいる印象。

----------  NEXT  ----------

----------  ARCHIVE  ----------

----------  SOURCE  ----------


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?