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ここがヘンだよ?日本の撮影業界 1/3

世界の撮影業界は、日本と何が違うのか?

ビッグマック指数の応用版として「撮影アシスタント」のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国と日本の“撮影業界”の違いに関して、データを紐解いていきたいと思います。

1stAC指数の統計

今回、調査した国々の1stAC指数は、以下の通りとなりました。

<世界各国の1stAC指数>
2018年
1. カナダ
 +7.69
5,319 ÷ 1,157 ÷(26+4,650)÷ JPN ≒ 7.69
2. オーストラリア +4.93
5,682 ÷ 1,434 ÷(42.2+6,250)÷ JPN ≒ 4.93
3. フランス +4.61
4,164.5 ÷ 1,214 ÷(636+5,182)÷ JPN ≒ 4.61
4. ドイツ +4.51
4,178 ÷ 1,086 ÷(281+6,390)÷ JPN ≒ 4.51
5. イギリス +3.87
5,750 ÷ 1,072 ÷(833+10,000)÷ JPN ≒ 3.87

世界各国の最低時給、動画の市場規模に対して、どれだけの経済的な対価が 1stAC に支払われているか?という観点で切り取った、日本を基準(1.00)とした指数になります。

世界各国との比較|最低時給

データをすこし掘り下げてみようと思います。まずは“最低時給”に対するギャラ単価の比率、を抜き出して見てみます。

上記は、2019年の世界各国の最低時給を示したグラフ。もちろん同じ国内でも、多少の地域差があるとは思いますが、国単位では、オーストラリアが世界最高額となっています。時給 US$14.15(1,526円)。

<最低賃金に対するギャラ単価>
2018年

1. イギリス
 5,750円 ÷ 1,072 = 5.36
2. カナダ 5,319円 ÷ 1,157 = 4.60
3. オーストラリア 5,682円 ÷ 1,434 = 3.96
4. ドイツ 4,178円 ÷ 1,086 = 3.85
5. フランス 4,164.5円 ÷ 1,214 = 3.43
6. 日本 2,800円 ÷ 985 = 2.84

日本をのぞく5ヶ国の平均値は 4.24 となりました。1st AC(撮影助手)の時給は、法定最低時給のおよそ4.24倍の価格帯。参考までに、これを素直に日本に当てはめてみると、適正価格は 4,176円という計算になります。

世界各国との比較|市場規模

次に各国の“動画の市場規模”に対するギャラ単価の比率、を抜き出して見てみます。

上記は、2018年度の世界の“広告費“を示したグラフ。日本には米国、中国に次ぐ世界3位のマーケット(動画は約2.2兆円)があり、映画・広告業界の撮影スタッフの人件費の多くは、この中から発生していると言えます。

<動画の市場規模に対するギャラ単価>
2018年
1. カナダ
 +9.0|5,319円 ÷ 4,676 ÷ JPN =9.03
2. オーストラリア +7.2|5,682円 ÷ 6,292.2 ÷ JPN =7.17
3. フランス +5.7|4,164.5円 ÷ 5,818 ÷ JPN =5.68
4. ドイツ +5.0|4,178円 ÷ 6,671 ÷ JPN =4.97
5. イギリス +4.2|5,750円 ÷ 10,833 ÷ JPN =4.22
6. 日本 1.0|2,800円 ÷ 22,236 = 0.13 = JPN
※ 基準値(JPN=1.0)とした指数
※ 市場総額の数値は百万以下を切り捨て

国内市場の小さいオーストラリアとカナダが高い比率。市場規模とギャラ単価の間に、大きな関連性はないという結果となりました。市場規模のサイズは、どちらかと言うと、撮影の”案件数”に大きく関連しているかも知れませんね。

参考までに、日本の動画市場に関して、日本最大級の動画制作TIPSサイトを運営するVook(ヴック)代表の岡本氏は、このように述べています。

ハリウッドは、起業家で言う“シリコンバレー”。お金も集まってくるし、人材もたくさんいるし、制作のレベルも高い。やっぱり日本とアメリカの差はかなりあると思いました。
一方で、中国、韓国とかアジア圏の人からは「日本は広告市場はたくさんあるし、働く環境はあるし、アジアでは恵まれている方だ」と、言われたことがありました。
参照動画:SESSION X Movie Creator Vol.1|Vook

世界各国との比較|労働生産性

試しに各国の“ひとりあたり労働生産性”とのデータ比較で見ると、下記のようになります。

<ひとりあたり労働生産性に対するギャラ単価
2017年
1. イギリス
 9,677,170 ÷ 5,750 = 1,683 <19位>
2. オーストラリア 11,698,526 ÷ 6,458 = 1,811 <12位>
3. カナダ 10,046,131 ÷ 5,319 = 1,889 <18位>
4. ドイツ 10,892,940 ÷ 4,178 = 2,607 <13位>
5. フランス 11,546,689 ÷ 4,164.5 = 2,773 <8位>
6. 日本 9,067,774 ÷ 2,800 = 3,238 <21位>

日本と水準の近いイギリスとの比較では、約2倍の差が見られます。ざっくり、日本の撮影助手が、イギリスと同じ売上を出すためには、約2倍の時間が必要ということになりそうです。

日本の撮影業界は、労働生産性が低いのか?

より正確な結果を得るために、実はこの調査の途中で直面したひとつの大きな問題がありました。それは、日本独特の“スタッフ構成”です。海外と日本では撮影部の構成にいくつかの違があります。

内容に関しては、上記の記事でも触れましたが、要素を簡単にまとめると以下の3点に集約されます。

1. 日本には、“照明技師”と呼ばれる役職が存在する。
2. 日本には、“撮影チーフ”と呼ばれる役職が存在する。
3. 海外の撮影部が2人で担う作業を、日本では3人で分業している。

一見すると、これは3つの異なる要素に見えますが、これらの要素はひとつに集約することができます。それは、日本と海外の「照明に対するアプローチ」の違いという話です。

撮影監督と照明技師

簡単なまとめとして、海外では“撮影監督(DP)”が照明設計光の計測などの作業を担当しますが、日本では、その領域をシネマトグラファー照明技師撮影チーフの3者が分担しています。照明技師が作成する照明設計をもとに、撮影チーフが光を計測、シネマトグラファーが最終的な判断をおこなう、といった具合です。

海外で一般的な「1st AC」という役職は、光の計測をのぞけば、日本の“撮影チーフと撮影セカンドを兼ね合わせた役職”と言えます。その観点で見ると、日本と海外の料金格差に関しても、だんだんと辻褄が合ってきます。

撮影チーフ+撮影セカンド・・・2,800 + 2,300 = 5,100円
1st AC・・・5,750円(イギリス)

この点に関しては、フィルム撮影の時代から何十年にも渡り慣習化された役職(システム)であるため、そう簡単にシフトするのが難しいという業界文化的な側面もあります。

95%以上の撮影がデジタル化している現在、とりわけ照明が安定したスタジオ撮影などでは、DITのモニター横で、腕組みをしているような撮影チーフの姿を見かけたりするのも事実です。

日本でも海外と同様の 1stAC 制度を採用するか否か?いろいろ議論はあると思いますが、世界標準に準拠した料金体系を新たに設けた上で、試してみる価値はあるかも知れません。

---------- REVIEW ----------

次回は 1stAC と 2ndAC の料金を合算した「撮影部」単位で、統計を取り直し、改めて評価をしていきたいと思います。あとは、気になる点として、各国の“撮影協会”と“労働組合(ユニオン)”の果たす役割に関しても、すこし整理できればと思っています。

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---------- SOURCE ----------

https://en.wikipedia.org/wiki/Film_industry#cite_note-statista-132
https://www.statista.com/
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0228-009767.html 


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