1stAC指数で分解する世界の撮影業界
ビックマックは世界中で同じ品質である。そう定義して、世界の国々の経済力を計るために使われる“ビックマック指数”。
ビックマックを “1stAC”(映画・広告の撮影アシスタントの名称)に置き換えて、 映像撮影業界向けに応用したのが、この「1stAC指数」である。
背景
映画・広告撮影で使われる機材は、世界中どこもあまり変わらない。ドイツの ARRI社を筆頭に、米国 Red Digital Cinema社、日本を代表する SONY、Canon、Panasonic の3社が連なり、20年近く、ほぼ同じラインナップが並んでいる。
実際、使う機材が同じであれば、それを取り扱う技術者のスキルセットも、多少の個人差はあれど、国単位ではさほど変わらない。
とりわけ、1st AC(ファーストエーシー)または Focus Puller(フォーカスプラー)と呼ばれる、レンズのピントを合わせる職種は、50年以上にも渡り、その作業内容をほとんど変えることなく、全世界で機能し続けている。作業は 16mm のフィルム撮影であっても、8K のデジタル撮影であっても、基本は同じ。
1stAC指数とは?
そんな世界各国の 1stAC の「作業単価」をサンプルに、ギャラ単価に大きな影響をおよぼす要素を加え、単純な演算処理したものを「1stAC指数」と呼んでいる。
どの国を基準にしてもいいのだが、日本との関係値を見るために、基準値(= 1.00)を「2018年度の日本」としている。
単価に影響を与える大きな要因としては、おもに以下の2点が考えられる。たとえば、同じアメリカ国内であっても、LAとNYで単価が異なるのは有名な話として知られている。
1. 国や地域ごとの生活水準(家賃・食費・交通費)→ 法定最低賃金
2. 撮影の制作費・予算 → 業界の市場規模
1stAC指数の計算式
計算式は以下の通り。比較的、簡単にアクセス可能なデータをもとに設計。1stACの単価に加えて、上記の2項目をKPI(重要業績評価指標)として盛り込んでみた。
1stAC指数 = 1stACの時給[Rate] ÷ 法定最低賃金 [MinWage] ÷(国産映画の年間興行収入[Cinema]+動画広告の市場規模 [Ad])÷ 基準値<JPN>
まずはじめに、2018 年度の日本のデータを入力し、基準値<JPN>の値を算出する。広告市場規模(Ad)は、各国のTV広告とオンライン動画広告を合計したものとする。計算は以下の通り。
2,800 ÷ 985 ÷(1,236+21,000)≒ 0.0001278 = 基準値<JPN>
<日本の撮影業界のKPI数値> 2018年
Rate = 2,800円
MinWage = 985円(東京都)
Cinema = 1,236億円 <世界4位>
Ad = 21,000億円 <世界3位>
世界の撮影業界との比較
試しに「カナダ」のKPIの数値を入力してみる。
<カナダの撮影業界のKPI数値> 2018年
Rate = 5,319円
MinWage = 1,157円
Cinema = 26億円 <世界13位>
Ad = 4,650億円 <世界10位>
5,319 ÷ 1,157 ÷(26+4,650)÷ JPN [0.0001278] ≒ 7.69
カナダの 1stAC 指数は +7.69となった。これは日本との比較で、カナダで働く 1stAC が経済的な見返りを“7.69倍”多く受けていることを意味する。視点を変えると、カナダより日本の方が“制作予算に対して受け取るギャラが7.69倍すくない”とも言える。
この要領で、次回以降、カナダ、オーストラリア、イギリス、ドイツ、フランス、日本の労働組合(ユニオン)を糸口に、各国の撮影業界を掘り下げていきたいと思う。
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あとがき
2020年、日本人の半数が50歳をこえる。生産年齢人口(働き手)が激減する中で、業界全体がどう効率化するか?どう生産性を上げていくか?そんな歴然とした“課題”が、日本にはある。参考までに、日本の労働生産性ランクは、G7の中で最下位(20位)。
また指数の計算に関しては、当然さまざまな議論があり、市場のデータに関しても、さまざまな統計が存在する。
この 1stAC 指数は、業界の慣習ベースの「かくあるべき」を、一度リセットして、そんな課題に向き合うためのキッカケ、判断材料を提供するものでありたい。
---------- SOURCE ----------
https://en.wikipedia.org/wiki/Film_industry
https://www.statista.com/
http://mediaincanada.com/2018/08/28/how-canadas-video-spend-trends-stack-up-globally/
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2018_press.pdf
---------- UPDATE ----------
2019.7.15 最低時給額を訂正しました
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