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時給5,319円?カナダの1stAC指数は+7.69

世界の撮影業界の“ギャラ”はいくら?

ビッグマック指数を応用し、撮影助手のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国の撮影業界の仕組みを分解していく。

第1回は、カナダ・米国を拠点としたエンタメ業界を束ねる、老舗の労働組合「IATSE(International Alliance of Theatrical Stage Employees)」を起点に、カナダの撮影業界を見ていきます。

IATSE とは?

IATSE(演劇関係者、映像技術者、アーティスト、米国・カナダの美術監督組合による国際連盟)は、演劇、映画、テレビ、イベントなど、エンタメ産業で働く14万人以上の技術者、職人が所属する労働組合。1893年、NYで創設。現在、米国とカナダの 13 地区に 375 以上の地方支部がある。

地方支部の一部は、ICG: International Cinematographers Guild として、米国・カナダで働く、映画・テレビ業界の撮影監督、カメラオペレーター、VFXスーパーバイザー、写真家、広報担当者、その他すべてのカメラクルー、約8,400 人が会員として在籍する。

CSCとは?

世界各国の映画撮影業界には、米国のASC(American Society of Cinematographer)を模した“撮影協会”が存在する。映画のエンドロールでスタッフ名の横に記載されている英語3文字がそれにあたる。

カナダの場合は「CSC(Canadian Society of Cinematographers )」という団体。ウェブサイトは更新されているようだが、かなり古めかしい造りで、協会自体あまり有効に機能していないと思われる。

カナダ経済の基本情報

まずはカナダ経済に関する、数字を並べてみる。

2018年度、カナダ都市部の最低時給は C$14.00(1,157円)、テレビ・ネット配信を合わせた動画の広告市場は $4,300M(4650億円)、国産映画の興行収入は$24.32M(26億円)。

2018年度、日本の最低時給は985円(東京都)、動画の広告市場は2.1兆円、国産映画の興行収入は $1145.32M(1,236億円)。

参考までに、2019年6月時点の「世界時価総額トップ100」のカナダ企業は、2社ある。金融『ロイヤル・カナダ銀行』、金融『トロント・ドミニオン銀行』と、銀行勢が並び、その下には石油『ENBRIDGE』、鉄道『カナディアン・ナショナル鉄道』などが名を連ねる。

カナダの撮影業界の料金表

IATSE LOCAL 669 によるカナダ・米国の撮影スタッフの料金表の一部。金額は時間あたりの単価。

ご覧の通り、料金の改定が毎年行われている。数字全体が上がってるので、インフレ率、実質賃金などを考慮して、算出していると推測される。

料金面で日本と大きく異なるのは、アシスタント費が日本の約2倍 という点。ちなみに、撮影監督、DIT費は日本とあまり変わりはない。

<撮影スタッフの時給> 2017年度
撮影監督・・・$98.80(10,656円)
カメラオペレーター・・・$65.69(7,085円)
DIT・・・$49.33(5,319円)
撮影助手 1st AC・・・$49.33(5,319円)
撮影助手 2nd AC・・・$34.76(3,748円)
フォトグラファー Ⅰ・・・$60.65(6,539円)
フォトグラファー Ⅱ・・・$90.98(9,810円)

低予算作品に関する契約書

IATSE では、別途、低予算映画に関する規約も作成しているようだ。規約は62ページに渡りビッシリと文字が並び、撮影中の食事に関する細かな規定もある。毎年の料金改定の内容もしっかりと記されている。

料金体系は、作品の予算規模に応じて 3段階 のプランが用意されている。記載の金額は、規定の最低賃金(Minimum Wage Rate)を意味する。また料金は、1日最低8時間分が保証される。

Tier 1:$6,000,000(約6.5億円)以下
Tier 2:$6,000,001 - $10,000,000(約10.7億円)
Tier 3:$10,000,001 - $14,200,000(約15.3億円)

また撮影地によっても相場が変わり、大都市での撮影は割高となる。ここでは、カメラオペレーター、DIT、フォトグラファーが同額、1stAC の単価は抑え気味となっている。

<条件:Tier1> 時給 2019年度
撮影監督・・・要交渉
カメラオペレーター・・・要交渉
DIT・・・要交渉
撮影助手 1st AC・・・$27.06(2,915円)
撮影助手 2nd AC・・・$24.44(2,633円)
フォトグラファー・・・要交渉
<条件:Tier2> 時給 2019年度
撮影監督・・・要交渉
カメラオペレーター・・・$51.34(5,538円)
DIT・・・$51.34(5,538円)
撮影助手 1st AC・・・$44.55(4,806円)
撮影助手 2nd AC・・・$34.14(3,683円)
フォトグラファー・・・$51.34(5,538円)
<条件:Tier3> 時給 2019年度
撮影監督・・・要交渉
カメラオペレーター・・・$50.95(5,489円)
DIT・・・$50.95(5,489円)
撮影助手 1st AC・・・$44.21(4,763円)
撮影助手 2nd AC・・・$33.87(3,649円)
フォトグラファー・・・$50.95(5,489円)

国民の祝日が守られていたり、食事の時間が遅れるとペナルティが発生するなど、かなり労働環境を保護した契約内容という印象を持った。

カナダ撮影業界の1stAC指数は"+7.69"

ビックマック指数のビックマックと同様に、映画・広告業界の“撮影助手(1stAC)”の品質は、世界中どこもあまり変わりがない。

この 1stAC 指数は、業界の“市場規模”に対する“人件費”の比率を算出することで、業界全体の健全性を計るものである。日本との関係値を見るために、基準値(= 1.00)を「2018年度の日本」としている。

計算式は以下の通り。
※ カナダ 1stAC の平均賃金を5,319円として計算

1stAC指数 = 1stACの時給 ÷ 法定最低賃金 ÷(国産映画の年間興行収入+動画広告の市場規模)÷ 基準値<JPN>
<カナダの撮影業界の数値> 2018年
Rate = 5,319円
MinWage = 1,157円
Cinema = 26億円 <世界13位>
Ad = 4,650億円 <世界10位>

2,800 ÷ 985 ÷(1,236+21,000)≒ 0.0001278 = 基準値<JPN>
5,319 ÷ 1,157 ÷(26+4,650)÷ JPN ≒ 7.69

2018年度の数値を入力すると、カナダの 1stAC 指数は "+7.69" 。日本の撮影業界に比べて、経済的な見返りを“7.69倍”多く受けていることを意味する。

実際、この料金がどこまで忠実に守られているかは不明だが、カナダの撮影業界には、ウェブ上で公開された契約書、年次で改定される料金表が存在している。

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2019.7.15 最低時給額を訂正しました

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