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時給4,178円?ドイツの1stAC指数は+4.51

世界の撮影業界の“ギャラ”はいくら?

ビッグマック指数を応用し、撮影助手のギャラ単価から算出される「1stAC指数」をもとに、世界各国の撮影業界の仕組みを分解していく。

第4回は、製造業・工業を除く、クリエイティブ業界を含めたドイツ最大級の労働組合「ver.di(Vereinte Dienstleistungsgewerkschaft)」を起点に、ドイツの撮影業界を見ていきます。

ver.diとは?

ver.di は、5つの労働組合の合併により、2001年に設立されたベルリンに拠点を置くドイツの労働組合。ドイツ労働組合連合(DGB)にも名前を連ねる。約200万人の会員を擁し、IG Metall(製造業・工業などブルーカラー層を束ねるドイツ最大の労働組合)に次ぐドイツ最大級の労働組合である。

2003年1月発表のプレスリリースには、ver.di が BVK(ドイツ撮影協会)との協力して、クリエイティブ業界の著作権問題を含め、ともに労働条件などの集団交渉を行う旨が記されている。

BVKとは?

世界各国の映画撮影業界には、米国のASC(American Society of Cinematographer)を模した“撮影協会”が存在する。映画のエンドロールでスタッフ名の横に記載されているアルファベット3文字がそれにあたる。

ドイツの場合は「BVK(Berufsverband Kinematografie)」という団体。ウェブサイトは非常にシンプルで、ドイツ語表示の時だけ追加コンテンツが見れるようになるなど、かなり内向きな仕様。

ドイツ経済の基本情報

まずはドイツ経済に関する、数字を並べてみる。

2018年度、ドイツの最低時給は€8.84(1,086円)、テレビ・ネット配信を合わせた動画の広告市場は €5,200M(6,390億円)、国産映画の興行収入は$260.85M(281億円)。

2018年度、日本の最低時給は985円(東京都)、動画の広告市場は2.1兆円、国産映画の興行収入は $1145.32M(1,236億円)。

参考までに、2019年6月時点の「世界時価総額トップ100」のドイツ企業は、3社ある。ソフトウェア大手『SAP』、化学工業『Linde』、保険・金融『Allianz』。ランク外には、情報通信・製造業『シーメンス』、自動車『VW』などが名を連ねる。

ドイツ撮影業界の料金表

ver.di によるドイツの撮影スタッフの料金表。映画・テレビ・広告など撮影分野による料金の差はないようだ。記載の料金は、ウィークリー料金(平日8H×5日=40H)として算出されたもの。

<基本料金の時給> 2018年前半・ver.di
撮影監督・・・€71.73(8,814円)
カメラオペレーター・・・€39.88(4,901円)
DIT・・・€34(4,178円)
撮影助手 1st AC・・・€34(4,178円)
撮影助手 2nd AC・・・€24.88(3,057円)

DIT料金と撮影助手(1stAC)が同額となっている。1stAC の単価は 日本の1.49 - 1.82倍 にあたる。深夜帯(22:00-6:00)の労働は1.25倍、日曜日の労働は1.5倍、祝日の場合は2倍の割増料金が適応される。

以下、添付の資料は、ドイツ語の原版を英語に自動翻訳したもの。

上記は、2016-2017年度のデータなのだが、この資料をもとに2020年度までの5年間で、どれぐらいの料金改定が行われるか?を算出してみる。

<基本料金の時給> 2016年・ver.di
撮影監督・・・€68.88(8,464円)
カメラオペレーター・・・€37.98(4,667円)
DIT・・・€32.25(3,963円)
撮影助手 1st AC・・・€32.25(3,963円)
撮影助手 2nd AC・・・€23.4(2,875円)
<基本料金の時給> 2020年・ver.di
撮影監督・・・€76.65(9,419円)
カメラオペレーター・・・€42.65(5,241円)
DIT・・・€36.43(4,476円)
撮影助手 1st AC・・・€36.43(4,476円)
撮影助手 2nd AC・・・€26.88(3,303円)

この5年間で、時給は 約1.12 - 1.13倍 上昇し、撮影助手(1st AC)を例に取ると、時給で513円、日給換算(平日8H)で4,104円の料金改定が実施される。

参考までに、2015年よりドイツでは法廷最低賃金(当時€8.5)が導入され、2020年の€9.35(1,148円)に向け、賃金を段階的に引き上げる計画がある。撮影業界の料金改定が、それと連動しているかは定かでないが、資料を見る限り、2020年までの料金はすでに算出されている。

以下、添付の資料は、ドイツ語の原版を英語に自動翻訳したもの。自動翻訳の際にレイアウトの乱れが生じている。

ドイツ撮影業界の1stAC指数は"+4.51"

ビックマック指数のビックマックと同様に、映画・広告業界の“撮影助手(1stAC)”の品質は、世界中どこもあまり変わりがない。

この 1stAC 指数は、業界の“市場規模”に対する“人件費”の比率を算出することで、業界全体の健全性を計るものである。日本との関係値を見るために、基準値(= 1.00)を「2018年度の日本」としている。

計算式は以下の通り。

1stAC指数 = 1stACの時給 ÷ 法定最低賃金 ÷(国産映画の年間興行収入+動画広告の市場規模)÷ 基準値<JPN>

2,800 ÷ 985 ÷(1,236+21,000)≒ 0.0001278 = 基準値<JPN>
4,178 ÷ 1,086 ÷(281+6,390)÷ JPN ≒ 4.51

2018年度の数値を入力すると、ドイツの 1stAC 指数は "+4.51" となった。日本の撮影業界に比べて、ドイツの 1stAC が、経済的な見返りを“4.51倍”多く受けていることを意味する。

---------- REVIEW ----------

ドイツで活動する1st ACの友人に話を聞いたところ、記載の料金に関しては、実際ほぼその通りで、場合により、それ以上の単価もあるようです。また撮影協会(BVK)の所属率は、かなり低いとの話もありました。

ドイツの撮影業界にも、ウェブ上で公開された“料金表+労働規約”が存在していました。なにかと日本と共通点の多いドイツは、今後も日本のよいベンチマークになりそうですね。

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