夫が満たした"戦友の条件"

高校1年生の頃、所属していた部活の大会で、先輩が活躍したことがあり、私は文字通り、手放しで大喜びした。

すると顧問の先生が言うのだ。
「お前、そんなに嬉しいのか?」と。
無垢な私は即答する。
「はい!!自分のことのように嬉しいです!!」

若さ故にテンションが上がりやすかったことは認めるが、誓って本音だった。
しかし、先生はこう続けた。

「ふん、喜ぶなんてことはな、仲間じゃなくてもできるんだよ。どっかの知らない犬が子ども生んだって嬉しいし、長年思い出しもしない同級生が結婚したって、おめでとうとか言えるんだよ。」

15歳の私は、ふいに大人から突き付けられた「善意の否定」にパニくった。
え?ええ?別によくない?犬や結婚に喜んでも、よくない?なんで私、怒られてる??

頭に???を乗っけていると、先生は私をにらみつけるように上から見下ろし、力強く言い切ったのだ。

「お前がこの先作るチームは、喜ぶだけじゃダメだ。苦しいとき、悔しいときに、一緒に痛がってやれない奴は、友達止まりで、ほんとの仲間じゃねえんだよ。」

ああ、恩師。
あの言葉、当時の倍の年齢になった今、噛みしめておりまする…!

事件は冬物セールでおきています

冬物は高い。
生地が厚いのだから納得はいくけれども、お財布にはやさしくない。

なので去年の私は、娘のサイズアップを見込んで、次の冬に活躍する、あったか素材のパジャマを冬物セールで購入しておいた。

そして寒くなってきた12月。
定価の1/4のお値段でゲットすることができたうさぎのパジャマを、1年の封印から解き放ち、娘の眼前に披露してみる。

くしゃっダンッ!

「ヤッ!!!ミッキーがいい!!!ヤダヤダヤダ~~!!!」

おお、ジーザス。
パリパリのビニール包装から楽し気な演出をしつつ取り出したうさぎのパジャマは、数カ月まえから「ディズニーでなければ服でない」という信念に生きる娘に、床にたたきつけられてしまった。

「娘ちゃん、このうさちゃんすっごく可愛くて、娘ちゃんに似合いそうだよ~ママ着てるとこみたいな~~!」

「ヤーーー!!きない、のぉーーー!!!!」

おだて作戦、失敗。
ふん!とオムツ一丁でおままごとを始めた娘を遠い目で眺めてしまう。
アメリカのディズニーリゾートまで意識が飛んでいきそうだ。いかんいかん。

「ママ、娘ちゃんが喜ぶかなーと思って、ワクワク買ったのにな~。着てほしいな~…(チラッ)」

「あい、ママ。ごはんどーじょ!」

オモチャ茶碗にサンマの頭とアイスクリームとナスが盛られている。
よいせっと言いながらマヨネーズもかけてくれたようだ。

泣き落とし作戦、失敗。
ああ~もう~このパジャマどうすんのぉ~~。

白目になりつつ、いただきます…と手を合わせる。

ふたたびのカルフォルニア

夫は最近、帰りが遅い。娘の寝顔しか見れない日が続いている。
この日も日付が変わってから帰宅したが、「疲れた~」より先に「ありがとね~」と言ってくれる。

そしてアクロバティックな寝相の娘に、ミッキーの布団をかけ直すと、あれ?新しいパジャマ着せなかったの?と聞いてくる。

「着せなかったのではありません…着なかったのです…」

「ああ~やっぱディズニーじゃなきゃダメ?」

こくん、と無言でうなずく。
就寝まであの手この手でねばってみたが、結局ミニーマウスの春用ペラペラパジャマで布団に入った。
「このピンクがいいの~!!」と唇を尖らせて。
ちなみに全力拒否のうさぎパジャマもピンク色だ。なんてこった。

私はすでに諦めていたので、新品だし、欲しい人いないかママ友に聞いてみるよ、娘には本人が気に入るパジャマ買おう、と夫に告げる。
しかし夫は「待った」をかけた。

見向きもされなかったパジャマを掲げて宣言する。
「ママちゃんの無念は、俺が晴らす…!」

いや、別に無念ってほどでもないからもういいよ、と伝えても、夫の情熱スイッチが謎にONされており、いやいや任せてよ、とグフグフ笑う。
すっかり張り切りモードだ。

ちょっと嫌な予感がする。
また白目になりつつ、はるかかなたのディズニーリゾートを眺めてしまう。

育児を一緒に戦う仲間

翌日の夕方、ワンオペ湯上りタイミングでの配達に慌てて玄関に向かうと、ミッキーとミニーのワッペンが数枚送られてきていた。
夫が発注したのだろう。

なるほど、パジャマにつけて無理くりディズニーデザインにするわけね。
夫はアイロンを使ったことがないから、週末にでも私がやるかな。

…新しいの買ったほうが、はやいんだけどね。。

はあ、夫が考えてくれたことは嬉しいけど、ちょっと的がズレている。
少しのモヤモヤを感じながら、ワンオペ疲れで娘と一緒に寝落ちする。



あ、やばいお米炊かなきゃ…。
翌朝6時に目覚めてリビングに急ぐと、ヘンテコなパジャマが窓際にかけてあった。

3つのディズニーワッペンが熱処理されてくっついているが、バランスがなんともおかしい。全体的に左上に寄っている。
まっすぐ伸ばさずに当てたのだろう、シワがそのままになっており、右わきがぐちゃッとつまってよれていた。

不格好な失敗作だ。

だけどまだ朝日も差さない窓際につるされたそれは、キラキラ光る希望に見えた。

私が寝てから帰宅したのに、慣れないアイロンを引っ張り出して、検索しながら使ったのだ。
娘が起きてる時間に帰れない分、ゆったり眠れる温かいパジャマを、夫は夜中に仕上げたのだろう。

きっと、穏やかな顔で、手元を見つめながら。
ワンオペで遠い目ばかりしがちな私を、支えるために。

昨日、夫のアイデアを少し迷惑に感じた自分が恥ずかしい。
どんなお店にも、こんなパジャマは売ってない。
こんなにイビツで、こんなにキュートで素敵なパジャマに、値段なんてつけられない。

レベルアップも2人一緒に

炊きたてのごはん、玉子焼き、お味噌汁に、野菜炒めも。
数日ぶりに見栄えがする朝食を作り、家族を起こす。

寝不足な夫に、パジャマありがとう、とっても可愛いね、と感謝する。
へへへ、ちょっと難しかったけどね、とヘラヘラするが、達成感はありそうだ。

ごはんの匂いに誘われた娘は、パジャマを指さし、「あー!ミニー!!」と嬉しそうだ。

良かったね、娘。
伸ばされた小さな両手に、特製パジャマを渡してやる。
「今日から寝るときはこれを着ようね、パパが作ってくれ…」

「やだーーーーー!!!デイジーがいいーー!!」

ぐしゃっ!バシンッ!!!

「ええええーーーー!!!?」

夫と2人、絶叫をハモらせて視線を交わす。
途端、ぷぷ、ははは!と同時に笑い出してしまった。

「ママちゃん、あのパジャマ、セールでいくらだったの?」

「500円かな」

「俺はワッペンに800円つかったよ。俺のほうが痛手だったね、ママちゃん、キミなど、まだまだだよ、ふふふふ」

夫らしい、謎のマウンティングをかまされる。
そうか、ワッペンを追加購入することは、私が無駄にしたパジャマ代を上回る意味があったのか。
合理性はないが、理屈はわかるような気もしてきた。

「喜ぶだけじゃダメだ。苦しいとき、悔しいときに、一緒に痛がってやれない奴は、友達止まりで、ほんとの仲間じゃねえんだよ。」

先生、どうやら私のチームメイトは、一緒にどころか、私以上に痛がってくれる仲間だったようです。
しかも、痛がりながら、ふふふと笑う強い人です。いや、ヤバイ人です。

あの日の教えは、うまくいかないながらも、幸せな家族生活につながっていて、まだまだレベルの足りない夫婦だけれど、これからも一緒に育っていける気がする。

遠くのカルフォルニアよりも、手元の朝食を、まずはじっくり眺めてみたり、ワッペン付きの新品パジャマを、清々しく笑い飛ばしてみたり。
それが我が家の「戦友の条件」なんだ。


記:瀧波 和賀

cakesで育児コラムの連載が始まっています^^

#育児 #夫婦 #イヤイヤ期 #ディズニー #パートナーシップ


子育てにおいて大恩あるディズニーに、感謝を伝えるべく課金しまくります。 サポートしてくださったあなたの気持ちは、私と共に鶴となり、ミッキーの元に馳せ参じることでしょう。めでたし。