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実用的なコホート・LTV分析 (収益) - Diligence at Social Capital : Part 3

BY JONTHAN HSU     翻訳 : 和田健太郎   監修 : 玉井和佐

これまでの2つのポストではユーザーの成長率と、経常収益の成長率を理解するためにどのようにグロースアカウンティングを当てはめていけば良いかについて述べて来た。一方で「顧客がサービスの使い始めてすぐによくお金を使っているのか、それともしばらくたった後にお金を使っているのか?」、「チャーンはある一定ポイントで起こっているのか?それとも絶え間無く、万遍に発生しているのか?」と言ったユーザーのライフサイクルを把握したい時に、前述の二つのグロースアカウンティングは適していない。 

これらのユーザーのライフサイクルに関する情報を掘り下げるために、本ポストでは実用的なコホート及びLTVの分析方法について述べていく。


まず初めに、仮に我々が何らかの商品 / サービスを顧客に販売するビジネスを営んでいるとする。ここではこのビジネスのLTVに注目する。

以下の記述では、収益のベースがサブスクリプションなのか、あるいは、トランズアクションベースであるのかは、重要ではないことを最初に述べておく


従来までのほとんどのLTVの算出は下記の等式を用いたモデルを使用しており、この等式では取引期間が無限であることが前提となっている。

LTV = m * r / (1 + d - r)

m:貢献利益
r:リテンションレート
d:ディスカウントレート

上記の公式はアーリーステージのスタートアップに当てはめるには下記の理由によりあまり実用的でないと言える。

リテンションはコホートにまたがって定数となっている。そしてより重要なことに、顧客のライフタイムを通して定数となってしまっている(例えば、1ヶ月目から2ヶ月目にかけて継続してサービスを利用する確率が r であれば、20ヶ月目から21ヶ月目にかけて継続してサービスを利用する確率も同じ r となってしまう)。

ビジネスのユニットエコノミクスがコホート及び顧客のライフサイクルを通じて一定となっている。すなわち貢献利益も一定となってしまう。

等式は長期に渡って定数となっており、ディスカウントレートが過剰に反映される。

我々が企業に目を向けるとき、上記いずれの仮定にも当てはまらないことがほとんどである。アーリーステージのスタートアップは自社の扱う製品がコホートごとに変化するため、リテンションが大きく変動する。加えて、コホート分析に用いる期間も数ヶ月、あるいは数週間のコホートしか持っていない。

通常、アーリーステージの企業は収益のベースが確定しておらず不確実性がとても大きいため、ディスカウントレートが用いた将来を予測自体が困難なものとなってしまう。


故に我々は公式に基づいたLTVではなく、経験に基づいた実用的な方法で算出されたコホート及びLTVに着目することを強く好んでいる。


前述で挙げた収益を生み出す企業の話に戻り、まずはこの会社のLTVカーブのサンプルを見てみる。

グラフの右側にある項目欄の(カッコ)は、事業スタート日のコホートの数である。また若いコホートに関してはまだデータが集まっておらず横軸が短いラインになっている。まずweek 36時点のコホートLTVに着目してみる。

このデータセットでは、160ドルから280ドルの広範囲のレンジにコホートが収まっている。古いコホートはLTVが高く、新しいコホートはLTVが低い傾向が読み取れる。特に2014-03-24コホートは強いLTVの上昇を示しており、通常より多くの利益を顧客から獲得している。一般的に、LTVは顧客が徐々に支出を増加させる右肩上がりの線形になる。ただし、顧客がプロダクトから得られる価値を見出さなくなれば、顧客は支出を減らして、LTVは平行な曲線に変化していく。

もちろん、どんなLTV曲線も増加することに間違いはなく、また、読者が識別できるグラフを見せるために限られたLTV曲線を載せていることは理解していただきたい。そして、我々は顧客がサービスに登録した日ではなく、顧客が初めてサービスにお金を支払った日にスタート地点をずらしている点についても留意が必要である。プロダクトが違えば、初めて顧客から収益が発生した日が異なるからである。

加えて、時点TにおけるコホートのLTVを計算するためには、時点Tまでに生み出された収益を顧客数で割れば求めることができる。ここで注意が必要なのは、チャーンした可能性のある顧客をLTVの計算から排除しないことである。なぜなら、顧客獲得のためにマーケティング費用などを支払っていて、その費用は顧客がチャーンしても消えることはないからである。

また、我々はコホートあたりのトップラインの収益LTVにのみ着目し、ユニットあたりの貢献利益の分析は別の機会に残しておく。あなたが提供するプロダクト/サービスに対して顧客がどのように反応しているのかという点をプロダクトの収益性とは切り分けて問わなければならない。この記事では、最初の問いであるコホートあたりのトップライン収益LTVを理解することだけに集中する。

まず、どんなコホートも以下の4種類に分類できることを説明する。

1.  フラットLTV:コホートは顧客から1度の前払いによる収益しかなく、増加収入を生み出すことはない。ただし、eBayモーターズのように、高収益によってLTVが高ければ事業として問題はない。

2. サブ線形LTV:コホートは時間と共に継続して支払いを続けるものの支払額そのものは徐々に減少する。多くのビジネスはサブ線形LTVに分類され、サブ線形LTVはフラットLTVに集束していく。

3. 線形LTV:コホートは継続的にユーザーから定額の収益をあげる。代表例はSpotifyであり、試用期間の1ヶ月目にユーザーが減少することはあるが、コアユーザーはサブスクリプションを中止する確率が少ないと想定されるため、コホートは線形かサブ線形に発展する蓋然性が高い。なお、本当の線形LTVは極めて高いリテンションをもつPG&E(サンフランシスコ・ベイエリアを中心とするカリフォルニア北部地域のガス、電力供給を行う企業)のような公共事業である。線形LTVの成長性(直線の傾き)は一定ではない。もしある事業が各コホートで無期限に支払い続けるコアな顧客をもっているなら、LTVは成長性の高い(直線の傾きが急な)線形になる。成長性はノン・コアな顧客がコアな顧客のLTVをどれだけ薄めるかによって決定される。

4. スーパー線形LTV:顧客からの収益が時間の経過につれて増加するものを言う。スーパー線形LTVの代表例としてはAmazonが挙げられる。Amazonに登録した最初の月は少しだけお金を使うが、数ヶ月後にはより多くの買い物をしていることが分かる。同様にSlackユーザーはSlack利用のためにいくつかシートを購入し、数ヶ月後、より多くの人々がSlack利用を目的にさらにシートを購入する。このような事例は最もエキサイティングであり、顧客あたりLTVが無限に増加する可能性を秘めている。

改めて書く必要もないが、我々が本当に見たいビジネスとは、少なくともいくつかの顧客のコホートが線形LTVかスーパー線形LTVであり、その証拠を観察できるビジネスである。

上記4つのLTV曲線をビジュアル化したものは理解しやすいが、LTVが良くなっているのか、それとも、悪くなっているのかを判別するのは難しい。もし全てのLTV曲線が同じで安定しているように見えるならば、我々はただ従来の公式(LTV = 限界利益 * リテンションレート / (1 + 割引率 - リテンションレート)を使ってLTVを計算する。しかし、アーリーステージの企業のLTVは大きく変動することが通常であるため、我々はLTVのトレンドに関心を持っている。下のイメージはLTVのトレンドを示したグラフであり、我々が好んで使うグラフである。

このイメージは少しトリッキーであり、詳細に説明したいと思う。X軸はカレンダー上のの週ごとのコホートを意味し、縦棒はコホートのサイズを、折れ線はコホート毎のLTVを表現している。例えば、2014-11-03のコホート(コホートAとする)を見てみると、サービスに登録した週に350人の顧客が平均44ドル支払っていることが分かる。4週間後、コホートAのLTVは55ドル(緑色の折れ線)と微増し、24週間後にはLTVが125ドル(オレンジ色の折れ線)まで増加している。サービスに登録した週から36週間は経過していないため、このグラフでは36週間後のコホートAのLTVは明らかになっていない(※ここで、LTVを計算する公式が実測値をパラメータとしているため、36週間後のLTVが計算できないことを思い出してほしい)。なお、折れ線は累積のLTVの推移を表現しているため、N week(例えば24週目)の折れ線とN+1(例えば25週目)の折れ線が重なることはあっても越えることはない。そして、どんな折れ線も顧客が全く同じであることはなく、異なる顧客の集まりであることは理解してほしい。

このように、LTVをイメージにすることでLTVのトレンドを追うことができる。Week 12のLTVはコホートサイズが大きくなる2014年後半には減少傾向にあるのに対し(arrow 2)、2014年前半のコホートは非常に高いLTVを記録している(arrow 3)。このようなトレンドは珍しいことではなく、アーリーアダプターはプロダクトの利用頻度が高い傾向にある。2014-03-24のコホートは奇妙な増加がスパイクとなって現れている。(arrow 4)、この増加も24週目から36週目に入って初めて顕著な増加が発生していることが分かる。(arrow 5)。そして、このようなトレンドは最初に見たオリジナルのイメージから読み取れるトレンドとも一致している。

企業のLTVトレンドで我々が見たいのは、遅いコホートの顧客とライフサイクルの後半でLTVが増加しているトレンドである。

なぜなら、事業が拡大してから引きつけたコホートは、早期に引きつけたコホートに比べてプロダクトをあまり使わないからである。もし、プロダクトがマーケットのニーズを満たすほど素晴らしいものであれば、ライフサイクルの後半でもユーザーの支出が大きくなるからである。
 
LTVのトレンドを示すもう一つの有効なグラフは、ヒートマップである。

Y軸(Row Labels)は 最初にユーザーがサービスの対価を支払った週、
X軸(0,...,10)は最初にユーザーがサービスの対価を支払った週から1週おきの累積LTVを色と金額で示したものである。

最上位のコホート(12/30/13)では110人の顧客が徐々に支出額を増やして、直近のコホート(3/10/14)はLTVの推移がまだ出ていないことが見て取れる。上のヒートマップは2014年前半までのコホートしか示していないが、時間が経過すれば対角線がどんどん長くなり、全てのコホートを示すと下のようなヒートマップになる。

2014-03-24のコホート周辺(赤丸で囲ったあたり)では緑色の横縞になっており、色の移り変わりが早いところを見ると、顧客が急に支出を増やしていることが分かる。反対に、顧客の支出が急激に低下すれば、コホートが次の色(例えば、黄色)に変化するまで長時間かかる。

この記事で紹介した3つのグラフは強みと弱みがある。一つ目のグラフはLTV曲線の形がはっきりするという強みがあるものの、コホートの数が多くなると識別が困難になり、トレンドを読み取れないという弱みがある。2つ目のグラフは、コホートごとの傾向を全てのコホート表示しながら把握できるという強みがあるが、LTV曲線がどういった形をしているのかが把握しづらいという弱みがある。さらに、LTVトレンドは特定の重要なLTVを示して、全てのLTVを解読できない欠点もある。ヒートマップは全てのコホートの全ての時点でのLTVを観察できる強みはあるが、色の変化を見るだけではLTVの推移を理解することが難しいという弱みがある。しかし、ヒートマップは季節変動がLTVに与える効果をうまく表現できる。

我々のデューデリジェンス(企業精査)では主にLTV曲線とLTVトレンドを見つつ、補完的にヒートマップを分析する。もしあなたが我々のところでピッチ(自社をアピールするプレゼン)をするならば、これら3つのグラフをうまく活用してほしい。

では、収益LTVに関する話はここまでにしよう。次回の記事では、これらのフレームワークを活用してコホートレベルのengagementとretentionを理解する。

目次
1. ユーザーグロースのためのアカウンティング
2. 収益グロースのためのアカウンティング
3. 実用的なコホート・LTV分析 (収益)
4. 実用的なコホート&LTV分析 (エンゲージメント)
5. エンゲージメントの深さと収益の質
6. エピローグ : エイトボールとスタートアップのための会計基準


翻訳ソース記事 : https://medium.com/swlh/diligence-at-social-capital-part-3-cohorts-and-revenue-ltv-ab65a07464e1

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※尚、本記事はSocial Capital社の許可のもと翻訳記事として掲載させて頂いております。スタートアップ業界の投資家、起業家の皆様のビジネス分析の参考にしていただければ幸いです。当該和訳は、英文を翻訳したものですので、和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願い致します。


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