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週刊金融日記 第241号 ホールドアップ問題で読み解く終身雇用と結婚制度、トランプ大統領は君子豹変しないかもしれない、四谷の安くて美味しい江戸前鮨、ピュア童貞がソープに行き素人女性に挑戦するまで、他

// 週刊金融日記
// 2016年11月23日 第241号
// ホールドアップ問題で読み解く終身雇用と結婚制度
// トランプ大統領は君子豹変しないかもしれない
// 四谷の安くて美味しい江戸前鮨
// ピュア童貞がソープに行き素人女性に挑戦するまで
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 もうすっかり冬になってきました。カニが美味しい季節ですね。北海道でカニを食べてスキーでもしに行きたいと思う今日このごろです。
 先週は、戦争映画の『この世界の片隅に』を見てきました。この映画はいろいろ事情があってメジャーな映画館ではやっていないので、わざわざ新宿に行ったのですが、満席で入れず、別の日に川崎の映画館で見てきました。映画館はラゾーナ川崎にあるのですが、ここはいいところですね。田舎のでかいイオンのように、まさに何でもある巨大ショッピングモールです。ビックカメラもあるので、都心に住んでて家電製品を見に行きたい人は、有楽町のビックカメラよりもこっちがいいかもしれません。品川駅から東海道線で一駅で、意外と近いです。

●この世界の片隅に
http://konosekai.jp/

●資本主義の罪と罰 ビックカメラ有楽町店での薄型テレビをめぐる攻防
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51728063.html

★ラゾーナ川崎でディナーして、安い!安い!と思っていたのですが、1杯1000円の地ビールとか飲んでたら、けっこうしました(笑)。港区の住宅街で個人でやってるようなビストロなんかは、やっぱりコスパがいいと思った次第です。

 それで映画ですが、まあ、確かによくできている戦争映画だし、そんなにグロくなく、また、政治色も強くないので、子供が見るにもいい感じに仕上がっており、完成度が高いアニメ映画だな、というのが僕の感想でした。見ても損はないです。

 今週も面白い投稿がいくつも寄せられました。見どころは以下のとおりです。

―いつ副業へシフトするべきか
―受験生ですがオススメの大学物理の本を教えてください
―どういう人が一流なのでしょうか
―Cフェーズ前半から中盤におけるライトなディスりの効果
―女子大生の愛人に振られ非モテコミットの極地
―ピュア童貞がソープに行き素人女性に挑戦するまで

 それでは今週もよろしくお願いします!

1.ホールドアップ問題で読み解く終身雇用と結婚制度

 これまでメルマガで、まともな所得がある男にとって(もちろん法律は男女平等なのでまともな所得がある女にとっても)、結婚という契約は本当に恐ろしいもので、借金の連帯保証人になるよりはるかに怖い、ということを書いてきた。しかし、結婚制度というものがこれほど世界で広がり、世界の先進国のすべてが結婚制度を採用しているということは、もちろん、デメリットばかりではない。当然だが、大きなメリットもあるのだ。
 明らかなメリットは、社会の安定度が高まることだ。放っておくと一部のモテ男性に多くの女性が独占されてしまう。しかし、結婚制度があれば、モテる男性もひとりの女性しか選ぶことができないので、下々の男性にまで女性が分配されることになる。こうして恋愛市場での格差を是正することにより社会が安定する。このようなマクロな観点からの考察は過去に書いたのでここでは再び詳しくは述べない。

週刊金融日記 第147号 恋愛工学で読み解くイスラム国
週刊金融日記 第192号 結婚制度=セックスの男性中間層への再分配

 この解釈では、社会の安定のために一部の個人(=大半の女性と一握りのモテ男性)が犠牲になっている、ということになる。確かにそれは一面では正しいが、もっと個人からの視点で見た場合、結婚のメリットとは何だろうか? じつはミクロな視点では、経済学の一分野である契約理論のホールドアップ問題から理解することができる。ちなみに、今年のノーベル経済学賞は、この分野に重要な貢献をしたハーバード大のオリバー・ハート教授とマサチューセッツ工科大のベント・ホルムストロム教授に与えられた。

●ノーベル経済学賞に米大2教授=「契約理論」構築に貢献
http://www.jiji.com/jc/article?k=2016101000268

●Oliver Hart, "Firms, Contracts, and Financial Structures"
http://amzn.to/2fXM9HR

 ホールドアップ問題(hold-up problem)とは、投資することで相手の交渉力が増してしまい、さらにその投資が実施されたあとには元に戻すことが困難なときに発生する問題のことである。具体的に説明するとわかりやすい。

 たとえば、トヨタ自動車だけが必要としている特殊な部品があり、下請け会社はその部品を作ってくれたら高く買うと言われているとしよう。この下請け会社はトヨタ自動車の口約束を信じて大きな設備投資をして特殊部品を製造する。この設備はトヨタ自動車とこの下請け会社にのみ価値がある関係特殊投資(relationship-specific investment)と呼ばれるものだ。最初は、トヨタ自動車は高い値段で部品を買ってくれたので下請け会社は儲けることができた。しかし、ある日、トヨタ自動車が裏切る。いきなり強烈に値切りはじめたのだ。下請け会社はどうなるのだろう? この設備は特殊な部品を作るためのもので、他に使い道がなく、部品はトヨタ自動車以外に買ってくれるところがない。つまり、トヨタ自動車のいいなりになるしかないのだ。関係特殊投資をしたことによって、取引相手の交渉力が増してしまい、このようなホールドアップ(強奪)が起こってしまう。この場合の解決策は、教科書的には、長期に渡り部品を決められた値段で買い続けるという契約をあらかじめ結んでから関係特殊投資をする、ということになるが、日本社会ではどちらかというと契約はなあなあで済ませ、信頼という暗黙の契約に頼ることが多い。そして、その暗黙の契約を踏み倒して、業績を∨字回復させたのが、カルロス・ゴーン率いる日産自動車だったのだ。

 次は、下請け会社が逆にカモるケースを考えてみよう。みずほ銀行が100億円のシステムを富士通に発注したとしよう(以下、あくまでたとえの話で、これはなんら具体的なケースを指しているわけではない)。納期の前になり、かなりできたところで富士通側は、「おたくが仕様を追加してきたり変更してきたせいで、当初思っていたよりも工数がかかってしまいましてのう。あと50億円ほど出してくれないと完成しまへんわ」と言いはじめた。みずほ銀行は怒り狂ったが、すでに80億円ほど払ってしまっている。NTTデータに頼んでまた一から作ると100億円程度かかるので、もうやけくそで50億円追加で払ったほうがマシである。富士通にホールドアップされたのだ。
 僕は学生のとき零細ソフトハウスでアルバイトをしていた。そこで、あるシステムを作れば200万円という話を上司が持ってきた。僕はもちろんOKして、喜び勇んで毎日会社に泊まり込み、1ヶ月ちょっとで完成させた。そして、200万円が振り込まれることを楽しみにしていた。ところが、金が振り込まれる前に社長に呼ばれて「このあとの客からの仕様変更などに答えてほしい。しばらくはサポートのために働いてほしい、そこまでやって完成だ。さらに資金繰りが苦しいから200万円を分割払いにして欲しい」と突然言われてしまった。そして、まずは50万円だけ払う、と。何のことはない。世間を知らない学生がホールドアップされたのだ。

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