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週刊金融日記 第205号 そもそもカリキュラムの目的は何なのか、関電の原発に再び津波がヒット、下呂温泉と温泉工学への挑戦、銀座→鶯谷のロングパスを華麗に通す、他

// 週刊金融日記
// 2016年3月15日 第205号
// そもそもカリキュラムの目的は何なのか
// 関電の原発に再び津波がヒット
// 下呂温泉と温泉工学への挑戦
// 銀座→鶯谷のロングパスを華麗に通す
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 先日、『マネー・ショート』見てきました。原作のほうの翻訳は僕が解説を書いたのですが、こっちの邦題はなかなか見事ですね。その点、やはり映画の日本語タイトルは、資金が足りない!みたいな意味になってしまうので、ちょっとだけ残念です。
 ハゲタカの「腐ったこの国を買い叩く!買い叩く!買い叩く!」を真似して、「腐った世界を売り抜けろ!」ぐらいでよかったんじゃないでしょうか。僕に相談してくれれば……。

●『世紀の空売り』世界経済の破綻に賭けた男たち、マイケル・ルイス
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51954398.html

●『マネー・ショート 華麗なる大逆転』見てきました

 ところで、日本語タイトルが残念な映画といえば、『ハート・アタッカー』ですね。これはイギリスのマイナーな戦争映画で、イラクでふつうの市民が爆弾テロを行い、それに報復するために同じくふつうのアメリカ兵が反撃して、もちろん誰がテロリストか簡単にわからないので、イラクの民間人がどんどん殺されてしまうという、重い現実を描いたノンフィクションの名作です。もともとのタイトルは"Battle For Haditha"だったのですが、同じ時期にアカデミー賞を取った戦争映画の『ハート・ロッカー』を買おうとした人が間違えて買うことを狙って、パッケージもそっくりに作られました。
 もうちょっと、作品にリスペクトがあってもいいんではないでしょうか……。

『ハート・ロッカー』http://amzn.to/1TKMXAl
『ハート・アタッカー』http://amzn.to/251E6Os

 当研究所で監修した、山科ティナさんのコミック『LINEモテトークはSariに聞け』がLINEアプリで公開されました。フリーコインがもらえます。LINE会話のひとつの参考になれば、と思います。アプリ専用です。

『LINEモテトークはSariに聞け』山科ティナ
https://line.me/R/ch/1370466387/c/mngstr01

 今週も読者から多数の面白い投稿が寄せられました。重要なトピックをリストします。

―日系大手企業では仕事が終わったら早く帰る人は出世しませんか
―銀座→鶯谷のロングパスを華麗に通すマタドールとは
―ときに自由は人生にマイナスである

 さて、世間では、コンピュータが攻略するには最も難しいゲームのひとつだと言われていた碁で、世界的なプレイヤーのイ・セドル棋士とGoogleの人工知能AlphaGoが対戦して、大変盛り上がりましたね。
 この人工知能の開発者のデミス・ハサビスさんは、15歳でケンブリッジ大学コンピューターサイエンス学部に入学し、その後、会社を立ち上げたり、博士課程に進学し影響力のある論文を書いたりしたという経歴です。

●人間を破った人工知能をつくったDeepMindとは何者か?
http://wired.jp/2016/03/12/deepmind/

 欧米で頭がいいとされ、投資銀行やヘッジファンドにクオンツとして入社したり、GoogleなんかのIT企業の研究プロジェクトに雇われるのは、こういうバックグラウンドの人たちなんですよね。その中でも、彼はとびきり優秀でピカピカの経歴の持ち主なのですが、欧米と日本の学力観というか知性観の違いが、浮き彫りになっていると思います。
 冒頭のコラムは、こうしたことを論じました。

 今日は確定申告の〆切りですが、ギリギリ提出した人も多かったのではないでしょうか(笑)。来年は、もっと余裕を持ってやりましょう。
 それでは、今週もみなさんよろしくお願いします!

1.そもそもカリキュラムの目的は何なのか

 だいたいの工学の問題は目的を達成するためにいかにプロセスを最適化するかということに行きつく。たとえば、受験工学は、特定の入学試験に合格する確率を最大化するために、どうしたらいいのかを考える学問だ。そして、日本の場合は、多くの人にとって、大学受験が一番重要である。中学受験も高校受験も、すべては大学受験のためなのだ。中高一貫校は高校入試がないために、6年間を使って大学受験に最適化されたカリキュラムを作れることがひとつの利点だと言われている。また、日本の偏差値最上位層がどのように育成されているかを詳細に調べることにより、さらにカリキュラムの最適化についての知見が得られた。
 結局のところ、受験工学は、なるべく早く受験に必要な範囲を習得してしまい、入試と同レベルの問題を反復練習する時間を最大化するということに行きつく。こうした、先取り学習+反復練習の弊害もいくつか述べたが、子供のトレーニングプログラムを最適化していくと、このように身もフタもない解に行きつく。そして、それを愚直に実行しているのが、鉄緑会などの塾が、最難関中学に合格した生徒を集めてやっていることである。
 そして、このカリキュラムの最適化を考えていくと、現在では王道となっている、最難関中学へ入学することさえ、大学受験という目標に対しては効率が悪くなる可能性があることが示された。中学受験で無駄な勉強をしなければ、もうあと2年分ほど早く、高3までの先取り学習を終わらせられるからだ。もっとも、人間は群れる動物であり、社会的な側面が多分にあるので、理想のカリキュラムがワークする可能性は低い。そのカリキュラムでプレイする人口が少なすぎるからだ。同じ教室に通うライバルがいないのに、ひとりで膨大なカリキュラムをこなし、退屈な反復練習を継続することは、並大抵のことではない。

『週刊金融日記 第201号 現代受験工学の最前線』
『週刊金融日記 第202号 早期教育の効果と副作用』

『週刊金融日記 第203号 先取り学習は最強だが最も効率の悪い勉強法』

 さて、このような文脈で見ていくと、ひとつの恐るべき結論に行きつく。人生で成功することが最終目的である人生工学があるとするならば、あるいは、もっと範囲を狭めて知的職業で成功するためのキャリア工学があるとするならば、じつは大学受験こそが最大の無駄なのかもしれないのだ。これは何も、大学なんて行かずに起業して成功しろ、などという俗っぽいことを言おうとしているのではない。組織に雇われて仕事をするようなふつうの高度な知的職業全般に言えることなのだ。今回はそのことを説明しようと思う。
 まずは、読者から興味深い投稿が届いたので、紹介しよう。

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―受験算数や受験数学の能力は実社会で活かせますでしょうか

初の投稿になります。
現在26歳でITエンジニアをやっております、マナトと申します。
三回にわたる「受験工学」の連載、とても面白かったです。
メルマガというものを読んだことが無かったのですが、勢いで3回分まとめて購入してしまいました。
藤沢様は、教育と受験とキャリアを一気通貫で見通されており、とても感銘を受けました。
あと10年早く読んでいたら私の人生は変わっていたかもしれません。

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