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週刊金融日記 第251号 サピエンス全史と生物学的欠陥で滅亡しつつある人類、国は貿易黒字を稼ぐ会社じゃないと何度言ったら……、麻布の高級住宅地にある朗らかな和食、東京でオススメな安い居酒屋、他

// 週刊金融日記
// 2017年2月1日 第251号
// サピエンス全史と生物学的欠陥で滅亡しつつある人類
// 国は貿易黒字を稼ぐ会社じゃないと何度言ったら……
// 麻布の高級住宅地にある朗らかな和食
// 東京でオススメな安い居酒屋
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 本当に最近、寒いですね。カニでも食べてしのぎたいところです。
 連載中のコミック版の『ぼくは愛を証明しようと思う。』は、わたなべ君がプレイヤーとなるところです。なんか顔つきが変わってきました(笑)。もうすぐ第二巻が発売できそうです。
 
『アフタヌーン 2017年3月号』 http://amzn.to/2kre3Re

 さて、何かと話題にことかかないトランプ大統領ですが、こと経済政策については、笑ってしまうほど1980年代~90年半ばぐらいのアメリカが双子の赤字に苦しみ、日本などの新興国の経済成長が著しいころに出てきた「俗流経済学」の話ばかりです。そして、それに対する、識者たちの(間違った)反応も当時と同じです。
 これは経済学をまじめに勉強したことがないけど、経済に詳しいと自分で思っている人が陥りがちなよくある間違いなのですが、政府を会社のアナロジーで理解しようとすることです。要するに、政府は大きな会社だと。会社は利益(=売上-経費)を稼ぐために他の会社と競争しており、そこでの競争に負けると利益がなくなり、最後には倒産してしまうわけです。国では、この利益が貿易黒字に相当すると。だったら、ずっと貿易赤字が続いているアメリカやイギリスは、どうして豊かなのでしょうか。永遠に赤字が続いているのだから、国=大きな会社というアナロジーが正しければ、とっくに倒産しているはずですよね。逆に、バナナを売って外貨を稼いでいる途上国は豊かなのでしょうかね。よく考えれば、すぐにこのような考え方は間違いだとわかるはずです。
 俗流経済学を唱えている人たちは、貯蓄・投資バランスという、簡単な会計の恒等式も理解していないわけですね。

 貯蓄-投資 = 輸出-輸入

 日本や中国の貿易黒字はこうした国の貯蓄超過になって、そのお金でアメリカ国債やアメリカの企業の株などを買ってアメリカに投資している、というコインの裏と表の話に過ぎないわけです。ぶっちゃけた話、紙切れを刷れば外国が喜んで買ってくれて、自国民は外国が作ったモノやサービスをじゃんじゃん買えるのだったら、こんないい話はないのですよね。
 こういうようなことはすべて拙著に書いてありますし、また、そうした俗流経済学がはびこっていた時期に書かれたポール・クルーグマンの『良い経済学 悪い経済学』という名著を読めば、とてもよくわかります。この機会にぜひ読むといいんじゃないでしょうか。

『日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門』藤沢数希
http://amzn.to/2kQWfju

『良い経済学 悪い経済学』ポール・クルーグマン
http://amzn.to/2kQKfyb

 今週も面白い投稿がたくさんありました。見どころは以下のとおりです。

―東京でオススメな安い居酒屋を教えてください
―アラフォー女医ですが本を出版しました
―鬱の女性とのHの経験はありますか
―童貞の大学生でも恋愛工学はワークしました
―AフェーズをクリアできていないようでLINEゲットがアポにつながりません
―住宅ローンを借りたほうがよいのか
―大学受験で失敗した息子へのアドバイス
―風俗はクソだと思います
―女ですがプログラマの仕事も恋愛もどちらもがんばりたい

 それでは今週もよろしくお願いします!

1.サピエンス全史と生物学的欠陥で滅亡しつつある人類

 世界史を研究しているハラリ教授の『サピエンス全史』は、僕が取り立てて紹介しなくても、すでに世界的なベストセラーになっている大変に興味深い人類史の本だ。日本でも昨年の秋に翻訳が発売され、多くの識者に絶賛され、すぐにベストセラーになった。発売から2年ちょっとで、もはや古典となったと言ってもいい本である。
 これは我々のコミュニティでも、ぜひとも読むべき本だと思っていたのだが、1月はずっと品薄状態だったので、大増刷がかかり、Amazonの在庫が安定するまで紹介するのを待っていた。

"Sapiens: A Brief History of Humankind," Yuval Noah Harari
http://amzn.to/2jpF2xd

『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
http://amzn.to/2jpIlEJ

『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
http://amzn.to/2kMWfB1

 内容は大きく分けると3つだ。まずは、およそ10万年ほどの人類史についてのまとめである。歴史学だけでなく、進化生物学や多くの科学分野にも明るいハラリ教授が、これまでに明らかになった猿から進化した人類の歴史について解説している。ふたつ目は、なぜアフリカでほそぼそと暮らしていたホモ・サピエンスだけが、突如として食物連鎖の頂点に立ち、いまにいたる恐るべき文明を築いたのか、その謎についての彼の仮説である。それは「虚構」にある、というのだ。人類の祖先は、神話を作り、それを共有することで見知らぬ人同士が協力することを可能にした。いまでは国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった虚構を人々が信じることにより、この恐ろしく複雑な社会が発展を続け、グローバル化により世界はまたひとつになろうとしている、と言う。そして、3つ目は、ハラリ教授の深い学識から語られる、これからの人類の未来だ。遺伝子工学をはじめとするバイオテクノロジーで、ついに人類はこれまでの生物であるという呪縛から解き放たれる、と言う。単なる繁殖活動ではなく、知的に子孫をデザインしていくという、禁断の扉が科学の力で開いてしまうのだ。
 この中で、世間から高く評価されているのが、ふたつ目の虚構を作り、それを信じる力こそがホモ・サピエンスを圧倒的な種、あるいは他の類人猿を含む大型動物を次々と絶滅に追いやった非常に危険な種にしたという仮説であり、3つ目の未来への洞察である。しかし、僕にとって圧倒的に面白く、そして有用だったのが、ハラル教授の「世界史まとめ」である。これぞ本物のキュレーションだと思った。
 僕たちが恋愛工学でよくメンションする「石器人」のルーツが非常に詳細に解説されていた。そこには歴史学者たちがさまざまな仮説を打ち立て、遺跡の発掘はもちちんだが、放射性同位元素の測定や琥珀の中などに残された僅かなDNAサンプルを頼りに、科学的に過去にいったい何が起きたのか、という真実に迫っていく様子が、詳細に描かれている。歴史というと、単なる事実の羅列を暗記するような科目だと思われがちで、実際に僕はそう思っていたので、中高生のとき歴史というのは最も嫌いでかつ成績の悪い科目であった。しかし、歴史とは、こんなに科学的で面白いものなのか、と感心した。
 ところで、石器人というのはいささか誤解を招く表現だ。というのも、我々が遺跡を発掘して知ることができるのは石器ばかりなので、彼らがとりわけ石器を愛していたように思えてしまうが、実際には朽ち果て、やがて土に帰る木の道具のほうを多用していたことは明らかだからだ。

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