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週刊金融日記 第242号 サルでも分かる人工知能の歴史とこれからのビジネス、蒲田の安くて美味しい魚介居酒屋、トランプ・ラリーはひとまず終了、職場でホールドアップされました、他

// 週刊金融日記
// 2016年11月30日 第242号
// サルでも分かる人工知能の歴史とこれからのビジネス
// 蒲田の安くて美味しい魚介居酒屋
// トランプ・ラリーはひとまず終了
// 職場でホールドアップされました
// 他

 こんにちは。藤沢数希です。
 寒くなってきましたね。年末年始はホテルも飛行機も驚くほど高く観光地は混雑するため、僕は来週あたりに暖かいところでもいこうかと思っています。また、レポートします。
 さて、ネットでは、DeNAが運営するWelqという医療情報サイトが炎上して、閉鎖まで追い込まれるというお祭り騒ぎで盛り上がっております。

●DeNAがやってるウェルク(Welq)っていうのが企業としてやってはいけない一線を完全に越えてる件、2016年11月24日
https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=30141

 医療系の記事は深刻に悩んでいる人たちがググって関連インチキ商品を高い金を出して買うので、アフィリエイト業者にとっては非常に金になる分野です。そこでWelqは、安いライターを使って、検索エンジンに引っかかりやすい記事を大量に作って、Googleではいつも上位に表示されるようになっていました。医療系は、厳しく規制されている分野ですので、間違っている記事や法的にグレーな記事も多く、その辺が突っ込まれて炎上したわけですが、こうしたサイトに雇われている安いライターは、既存の記事をパクってコピペでバンバン作っていかないと食っていけません。よって、著作権に関しても多くの問題をはらんでいました。
 他には、コンプレックス系のサイトとか、簡単に金儲けできる系のサイトなんかも、まあ、同じビジネスモデルで作られており、ふつうの人がGoogleで検索すると、こういうサイトばっかり上位に来ます。
 また、Google様の検索エンジンは、昔はTwitterとは仲が悪くてTwitterのデータも入っていなかったのですが、最近では仲が良くなって、こうしたSNSで話題になっているかどうかも重要な指標として取り込んでおります。

●いくら積まれても売らない:TwitterはGoogleへのデータ提供を拒み自分に賭ける、2012年1月14日
http://jp.techcrunch.com/2012/01/14/20120113twitter-google-firehose/

 その結果どうなったかというと、炎上したデマ情報や有名人を誹謗中傷する記事が軒並み上位に表示されるという結果になっております。たとえば、ドナルド・トランプ次期大統領は、オバマはイスラム教徒で本当はアメリカで生まれておらず大統領の資格がない、と言ったデマを飛ばしておりましたが、これは賛同する人もデマを否定する人も入り乱れてSNSで炎上するので、そういうサイトがガンガン上に来てしまいます。
 まあ、世界最高の頭脳を集めて作った最先端の人工知能が搭載されたGoogleの検索エンジンもこんなものであります。いまやネットの世界は地獄ですよ(笑)。
 さて、今週も面白い投稿がいくつも寄せられました。見どころは以下のとおりです。

―英語の和訳スキルについて
―文章力を向上させるトレーニング方法
―セミストップロスしたら向こうからアプローチしてきました
―3回も浮気された女に非モテコミット
―下ネタYouTuberブライアンのモテは恋愛工学の理論通り
―来たるべき南海トラフ巨大地震に備える方法
―トランプ次期大統領は二度の離婚でどうやって財産を守ったのですか
―キャリアアップをほのめかされ職場でホールドアップされました

 それでは今週もよろしくお願いします。

1.サルでも分かる人工知能の歴史とこれからのビジネス

 昨今、教育やキャリアの問題は人工知能とからめて語られることが多くなりました。そこで、よくわかっていない評論家や社会学者たちが"頭のいい俺様が考えた未来になくなる仕事リスト"みたいなものを作って、不安を煽ってブログ記事や本を書いては小銭を稼いでいます。また、このまま人工知能が発展していくと、ある時期に人類の能力を超越する人工知能が誕生し、人類を支配したり滅ぼしたりという地獄の世界になったり、あるいは科学を飛躍的に進歩させて不老不死だとか宇宙移住だとかを可能にするユートピアの未来がやってきたりする、などとまことしやかに語られています。ちなみに、人類の知性をコンピュータが超える特異点は「シンギュラリティ」と呼ばれ、けっこうまともな学者や企業家(たとえば、宇宙物理学者のスティーブン・ホーキングやテスラ・モーターズCEOのイーロン・マスク)などが、警鐘を鳴らしていたりします。
 しかし、多くの人たちが、人工知能とは何か、その開発の歴史はどうなのか、ということを知らないので、とても上滑りした滑稽な議論が展開されているように思います。一方で、ガチの研究者が書いている記事は、技術的過ぎて何を言っているのかさっぱりわかりません。そこで今回は、人工知能の勘所をサルでもわかるように解説したいと思います。

【失敗した人間の思考や動作をプログラムするアプローチ】

 僕が思うに、しょぼいライターや評論家が的はずれな議論を繰り返すのは、彼らの人工知能のイメージが、いわゆる第5世代コンピュータ的なものだからです。当初、人間が物事を考えるときの仕組みをコンピュータにプログラムしていけば、やがて役に立つ人工知能ができあがると思われていました。人間は知識を覚え、論理的に考えて、さまざまな問題を解決していきます。よって、コンピュータに百科事典のような知識のデータベースを与えて、それらを使いこなすさまざまな論理をプログラムしていけばいいと思われました。
 たとえば、外国語の翻訳に関しては、まずは辞書をインストールします。次に、文法の決まりをプログラムしていきます。コンピュータは、プログラムされた文法のルールに基づいて、文章の構造を解析し、適切な単語の意味をデータベースから取り出していきます。このように、人間が翻訳するやり方をプログラムすれば、コンピュータも翻訳できると考えていたわけです。
 結論からいうと、こういう人間の思考回路をコピーしようという試みはことごとく失敗しました。翻訳など、まったく使い物にならないレベルでしたし、コンピュータが人間と会話し、たとえば医者の代わりをするなどというのは夢物語に終わりました。人間の思考パターンをプログラムしようとすると、例外処理の数が爆発的に増えてしまい、まともにプログラムを書くことなどできないのです。
 ところで、第5世代コンピュータというのは、日本経済が絶好調の1980年代に、こういう人間のようなコンピュータを作ろうとした通商産業省の国家プロジェクトの名前でした。これが戦艦大和のように、ほとんど何も実用的なものを生み出さずに頓挫したのですが、その評価に関してはここで論じることはやめましょう。

●なぜ人工知能ビジネスは2回も失敗したのか ―早すぎた30年前のビッグデータ解析
http://ascii.jp/elem/000/000/851/851380/

 また、人工知能やロボットの研究では、人間の思考を再現するのは難しいのですが、それ以上に難しいのが単純作業だということがわかりました。たとえば、工事現場で物を運んだり、さまざまな材料を鍋に放り込んで料理するというような、安い労働者がやっている感覚運動スキルは、膨大な計算を必要とし、コンピュータにとっては極めて難しいのです。高度な科学技術計算や経営判断などより、低賃金労働者がやる単純作業のほうがコンピュータにとっては圧倒的に難しいのは、モラベックのパラドクスと呼ばれています。
 要するに、ブルーカラーの仕事は人工知能時代の未来でも安泰なのです。

【大成功した何も考えない統計的アプローチ】

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