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感情のポップコーン ~愚痴風味~

仕事は仕事。あくまでも企業の一歯車として、お客様により良いものをお渡しするために、託された職務を全うするのみ。
いつもはそう誓いながらサラリーウーマンをしているのだが、数年ぶりにやってしまった。派手に感情を爆発させてしまった。


決算も近い年度末は毎年アホほど忙しい。そんな中、私はプロジェクトリーダーから「芳田はお客様と仲良くやっているから簡単には怒られないだろうちゃんとコミュニケーション取って仕事進められるだろう」という理由だけで、割と重要な作業を任されてしまった。しかも締め切りの1か月前に!

完全にこの状態(インターネット老人にしか分からないやつ)

しかも引き継がれた作業の途中経過は散々なものだった。バックデータは穴だらけ、議事録の内容は曖昧、肝心の本体は謎マクロが組まれているうえファイル形式が旧時代のもので編集ができない。これはもう、最初からやった方が明らかに良いものだった。

どうして…(以下同上)

とはいえ締め切りは決まっているし、お客様も待っている。そもそもこんな目も当てられない惨状にしたのはうちのプロジェクトチームが100%悪いわけであって、締め切りと品質の言い訳にしてはいけない。
やるしかない。そう決めた私はすぐさま作業に入った。穴がある部分はプロジェクトリーダーと元の担当者に埋めるよう依頼をかけ、約束事があやふやな部分はお客様に頭を下げて(私が!!)再度確認し、本体は周りの助けも借りながら1から作り直した。当然ながら作業は容易には進まず、しばらくは終電を気にする日々が続いた。


ところがだ。依頼をかけた確認と作業の返事が一向に来ない。この作業はバックデータの穴が埋まらないと完了しないと何度も言ったのに、催促しても「ちょっと待ってね」ばかり。さらにこまめに仕事の進捗報告をプロジェクトメンバーにしても、サッパリ返事もない。いつも反応してくれるのは新人の子(元気に「了解です!」と送ってくれる)と部長(ニコニコした顔文字を付けてくれる)だけだった。
やきもきしているうちに締め切りの2週間前になり、私は半ばハイな状態で本体の仮完成版を社内のプロジェクトメンバーに提示した。しばらくするとSlackがピコンとまたたき、プロジェクトリーダーのアイコンが出てきた。

内容はまだまだ薄いけど、芳田さん専門じゃないもんね。
まあ中間報告分だしいっか~☺


数週間ぶりに見たアイコンと文字列を見て、ばつんと何かが弾けた。
午後10時過ぎ。私はSlackのプロジェクトチャンネルにつらつらと文章を書き連ねた。その概要は以下のとおり。

①仕事舐めてますか?
②薄くて申し訳ありませんね。私じゃ専門知識足りないんで残りのタスクすべて引き取っていただけませんか?
③まあ内容が薄いのはあなた方が作業放置していたのと、あなた方に依頼した部分がサッパリ埋まってないからだと思います( ;∀;)
④これまで何度データ埋めて、作った本体見て、って言いましたっけ?
⑤仕事舐めてます??(2回目)
⑥私は対価に合う以上のものをお客様に提出したいのですが、あなた方は違うようですね(^_-)-☆
⑦仕事もお客様も私のことも舐めてますよね???(3回目)
⑧もう時間ないんでとっとと意見を寄越してください

深夜に送ったSlack(概略)
さすがに大人なのでここまでの文章は送っていません

送信ボタンを押してデスクにへたり込んでいると、隣にいた先輩のお姉さまがそっとアルフォートを1枚くれた。
お姉様「芳ちゃん、大変だったね。今日はこれ食べてもう帰りなさい」
芳田「お姉様…ありがとうございますぅ…」
お姉様「だいたい何書き込んだかは察しているわよ。芳ちゃん、呪いの歌みたいに何かつぶやいてたから」
芳田「まじっすか」

怒りというものは非常に多くのエネルギーを使うらしい。その夜お姉様からいただいたアルフォートはとっても甘く、脳みその奥へ奥へとしみ込んだ。


翌朝パソコンを開いてみると、Slackのチャンネルスレッドには大量の謝罪文が並んでいた。私が求めているのは謝罪じゃない、意見や。意見を寄越せ。そうつぶやきながら返信をしている私の姿を見て、隣のお姉様はまたアルフォートを1枚くれた。
そしてその日からスレッドの流れは3倍速になり、穴ぼこだらけのバックデータは面白いくらいに埋まっていき、提出物本体も精査が進んだ。そして何とか期日前に作業を終わらせ、お客様に成果を出すことができた。
納品のときにお客様から笑顔と感謝のお言葉をいただき、ほっとした私は社用車の中でそっと泣いた。そういえば仕事で激怒したり泣いたりしたのはずいぶん久しぶりな気がする。そう考えながら、腫れた目をハンカチでちょいちょいと抑えて車のエンジンをかけた。


一般的に仕事で感情をむき出しにするのは良くないと言われている。ただし今回はたまたま私が感情を大爆発させておかげで(おかげ、と言ってよいのか分からないが)、作業スピードが一気に加速し、たくさんの意見を交えて成果が磨かれ、プロジェクト完了までこぎつけることができた。
つまり何が言いたいかというと、仕事でも自分の気持ちをドカンと弾けさせないといけない場面があるのではないか、ということだ。サラリーマン・サラリーウーマンは会社の一歯車ではあるが、それ以前に人間である。組織の一部である以上に、個人の人格や感情を持っている。そして組織が生み出すものから利益を受けるのもまた人間である。あらゆる仕事が「人間対人間」のものである限りは、「感情」は仕事の流れを大きく動かし、成果に色を与えるものなんだな、と改めて考えることになった。
今回の場合は愚痴風味でなかなかエグイ味付けになってしまったが、この「感情のポップコーン」は仕事そのものや仕事に携わる人々に、何かしらの方向でプラスに働く特殊な力があるのかもしれない。そうであってほしい。

そうであっても、やはり怒りっぱなしは疲れてしまう。本当は笑顔で気持ちよく仕事がしたい。年度末も佳境。残りのプロジェクトには「おいしい感情のポップコーン」を添えられるようにしたい。そしてまた来年度、良い出会いに巡り合うために種をまくのだ。



アルフォートは薄いミルク味が好きです   芳田


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