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弟子はとりません(ただし例外あり)

展示をやっていると、たまに定年退職前後くらいのおじさんから毎度同じような調子で話しかけられます。

「よい、アンタが作った人か?」
「はぁ」
「これ売れるんか?」
「いや、なかなか売れないですねー」
「じゃぁ、何で食っとるんか?」
「霞を食って生きてます」

そういうおじさんたちは、定年退職後にオートマタを作って、趣味と実益を兼ねてやろうという魂胆で、何だかんだと聞いてきます。そして最後はお決まりの質問。

「アンタのところで作り方は教えてくれるんか?」

ノー!!「そんな暇はねーよ」と言いたいところですが

「いや〜、ちょっとそういうのはやってないですねー」

と丁重にお断り。これまで何人もの人をそうやって断ってきたので、デンマーク人のローラという女の子から届いた「オートマタの作り方を教えてください」のメールに、二つ返事で快諾したときには、おめぐに「いつもと違いすぎる!!」と笑われてしまいました。

ローラはうちの工房で1ヶ月オートマタ制作の勉強をすることになりました。ある日、ローラが1日かけて彫り上げた手の彫刻を見ると、上手く彫れているんだけど、何かちょっとだけ変。何でだろう??

「あ、ローラ、この手、指が6本あるじゃん!」
「あー、本当だ!何で今まで気付かなかったんだろう?」
「どうする?どの指削る?」
「面白いから、このままにしますー」

こんな感じで明るくて楽しい子でした。それにしても、他にもオートマタ作家はいるのに、どうして僕を選んだのだろう?と気になって聞いてみました。

「最初、ポール・スプーナーさん(イギリスの有名作家)にメールしたんですけど、「忙しいから無理。カズなら引き受けてくれるんじゃない?」って返信があったんですよー」

き、聞くんじゃなかった。っていうか、そこまで正直に言わなくてよろしい!!

やはり今後、弟子をとるのはやめよう、と心に決めた数か月後。今度は台湾人の女の子から届いた「オートマタの作り方を教えてください」のメールにまたしても二つ返事で快諾してしまいました。しかし、君よ笑うなかれ。もう「どうして僕を選んだの?」なんて野暮な質問はしない程度には成長した僕でありました。


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