【C94新刊】月刊テキストマイニングレポートVol.016 誰がnetgeekをシェアしているのか:排外主義サイトの読者の研究

本記事は、2018年8月12日に開催された「コミックマーケット94」で第2新刊として刊行した同名のコピー本を元に作成したものです。

#netgeek #twitter #KHCoder

はじめに

2ヶ月連続で、このように正規ナンバーとは別の形で「月刊テキストマイニングレポート」を出すのは初めてですね。後藤和智です。え、第14号はどうしたって? すみません、もう少しお待ちください……。

さて、今回分析するのは、ニュースサイト「netgeek」です。同サイトは、高いシェア数を誇る一方で、デマ、とくに排外主義に基づくデマ、著作権侵害など非常に問題の多いサイトとして知られています。最早デマの数は多すぎて、打線どころか控え選手、先発ローテーション、継投陣含めてチームができてしまうのではないかと思えるほどです。ちなみに、ピクシブ百科事典では、なんと《バイラルメディアの一つでありデマサイト(フェイクニュースサイト)でもある》などと序文で批判されているのです。もちろんピクシブ百科事典はニコニコ大百科などと同じように誰でも編集できるものではあるのですが、ネット文化に親和的なこういう用語集にさえこのように批判されているのは異例です。

本書の本文に入る前に、netgeekの代表的なデマ、扇動を挙げておきます。

「泉放送制作」デマ:http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20170911/p1(荻上チキ「「netgeek」が流した「泉放送制作」デマについて」)

《2017年6月20日の「netgeek」に、「日テレ・フジ・TBS・テレ朝の16番組以上を1つの制作会社が担当して偏向報道やりたい放題。日本は乗っ取られた」いうタイトルの記事が出ていた。内容は、「泉放送制作」という制作会社が各局のニュース番組を作っており、意図的に偏向報道を行っているというもの。

記事内容については、放送業界に関わっている者であれば、<放送現場を知らない人が、ネットで拾った言葉を繋ぎ合わせて作り上げたデタラメ>だと分かるもの。実際、放送業界の人などから、デマであるという旨の指摘も既に行われている。ただ、Twitterなどの反応を見ていると、真に受けている人も少なくなかった。国会議員であるとか評論家であるとか、社会的地位のある人もこのデマの拡散に加担していた。》

「沖縄デモの正体は中国」デマ:https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/netgeek-okinawa?utm_term=.mu9qyDr1M#.lezwVELZ7(バズフィードジャパン・籏智広太「「沖縄デモ集団の正体は中国」というnetgeek記事は本当か ソースの「公安調査庁レポート」を読んでみた」)

「(中国が)琉球独立勢力に接近」「『琉球独立』を標榜する我が国の団体関係者らを招待」と書かれているが、「沖縄デモ集団の正体は中国」に当たる記述はない。》

Togetter「netgeekさん、2年前に検証済みのシリアに関するネットデマを記事に→批判続出で追記するも削除はしない模様」https://togetter.com/li/1218644


他にもいろいろあるので、気になった方は「netgeek デマ」あたりで検索されると幸いです。

同サイトを問題視するツイートは何度も流れてきておりますし、私も何度か批判してはきましたが、ここ最近、さすがに度を超しているのではないかと思うことが相次いで起こりました。1つめは、2018年7月末に、読売新聞のスクープで、東京医科大学が女子及び3浪以上の受験者に対して点数を不当に低くしていたことに触れ、女性を中心として同大学前で抗議行動が行われたことについて、それに対して参加者の女性を莫迦にしたツイートを行いました。「当事者ではなさそうだから」というのが理由ですが、もちろん抗議行動などは当事者だけに許されたことではないはずです。そのツイートに対して、例えば評論家の切通理作氏はこのように批判しています。

公的な利他心に立脚するのが社会運動。少しもおかしくないんでは。受験勉強で大変な当事者に代わって声を挙げてるわけでしょ。https://twitter.com/risaku/status/1026259609550376960

もう一つは、シリアで拘束されているジャーナリストの安田純平氏を中傷したツイートです。netgeekは安田氏を《劇団「オレオレ死んじゃう助けて詐欺」》《プロ人質の安田純平さん、今回のキックバックはおいくら?》などと中傷しました(https://twitter.com/netgeek_0915/status/1024876248630157313)。さすがに(まあ9800時間ぶり334回目くらいではありますが)当然嫌がらせとして通報しました。

netgeekについて、ITMediaのニュースサイト「ねとらぼ」の副編集長である「てっけん」こと池谷勇人氏は、《netgeekが煽りやデマをやめないのは単純で、あそこFBのシェア数で原稿料が決まる》(https://twitter.com/tekken8810/status/907236454333530112)としており、シェア数至上主義で書かれていることを指摘しています。このような状況は、デマ、とくに排外主義に基づくデマがページビューやシェア数を稼げるという状況を示しており、極めて危険な状況です。

また今回の分析で知ったことは、メディアで活躍する論客の少なくない数がnetgeekを元に論評を行っており、そして彼らにツイッターなどでシェアされることによってさらにデマが広がり、そしてnetgeekは調子に乗ってまたデマや中傷を流してしまう……というループができてしまっているということです。実際、今回データの取得を行った7月27日から8月3日の間でも、20000を超えるアカウントがnetgeekについて、批判的な言及も含めて言及やシェアを行っており、恐らく批判的なものはそれほど多くはないためかなりツイッターに浸透したメディアになってしまっていると言えます。


またnetgeekは、動物の画像(なおほとんどが無断転載と言われている)のツイートも行っており(動物専門のアカウントもある)、それである種のイメージロンダリングを行っていると言えます。それもページビューを増やす手法なのでしょうか。


何はともあれ、netgeekについて、抗議しようにも、サイトは運営者どころか連絡先すら明かしておらず、どのように抗議すればいいのかわからないのが現状である以上、netgeekというメディアの特性について分析を行い、批判的な世論の形成に努める必要があります。そのような、読者にとっては「政治的」と思われる同人誌とみられるかもしれませんが、我が国における差別の蔓延を、少しでもいいから食い止めたい、その一心で分析を行っています。

1. 分析手法

ツイッターのデータは、フリーソフト「R」のパッケージの「twitteR」を使って取得した。まずアカウントの選定のために、2018年8月3日から7月27日までのツイートで(APIを用いている関係上この区間とした)、検索ワード「netgeek」をでヒットするツイートを取得した。この方法では、ツイートに「netgeek」を含んでいるもののほか、netgeekの本アカウントである「@netgeek_0915」や、そのほか「@netgeek○○」(「netgeek政治」など)のリツイートを取得することもできる。

この中で、twitteRから取得できるツイートの本文及び附属するデータから、Excelを用いて、ツイートを以下のように分けた。

A族:netgeek本アカウント(@netgeek_0915)のリツイート
B族:netgeekの記事を採り上げたツイート(「| netgeek」または「netgeek_0915さんから」を本文中に含む)
C族:netgeekの本アカウントへのリプライ
D族:netgeekの本アカウントへのリプライのリツイート
E族:上記のどれにも当てはまらないもの(netgeekの他アカウントや、netgeekに言及した他のアカウントのリツイートも含む)

ただし、netgeekの本アカウントは、たまに動物の画像をツイートし、それもよくシェアされる。またnetgeekが動物画像専門のアカウント「netgeek動物」(@netgeekAnimal)を持っている(なお、本アカウント及び動物アカウントで投稿される動画は無断転載であり、削除の要請にも応じないことが知られている――ピクシブ百科事典より)。特にnetgeekの政治的立場を気にしないような人がこれらの画像を(無断転載とは知らず、または特に意識せず)リツイート・シェアしてしまうことも考えるので、E族の内@netgeekAnimalのリツイートと、C族の内@netgeekAnimalへのリプライについては、「X族:アニマル」として分けた。

観測されたツイートは、20,613アカウント36,391ツイートで、特に本アカウントのリツイートは12,428、netgeek記事を採り上げたツイートは9,168件と、半分以上が占めている。また観測されたアカウントの内、14,591アカウントが、ツイートが1個だけ観測されたアカウントではあるが、そのうちのおよそ3分の1にあたる5,892アカウント(ツイート)がnetgeek本アカウントのリツイートと、netgeekはツイッターにおいて一つのメディアとして浸透している感がある。ちなみに2018年8月8日現在でのフォロワーは約6万である。ちなみに「netgeek動物」のフォロワーは約61,000と少し多い。

ちなみに取得したツイートのうち、リツイートで出てきたアカウントの数も集計した。その結果、百田尚樹、上念司、西村幸祐といった右派系の論客や、マスコミ批判、左派批判で知られるツイッターアカウント「CatNewsAgency」(catNA)、旧次世代の党支持者などが並んでいる。特に上念についてはおよそ1週間の観測期間で3,000ものリツイートが観測されており、上念はnetgeekを情報源として使っていると考えていいほどだ。

2. 観測ユーザーのクラスタリング

観測されたアカウントの内、観測数が15以上のアカウントについて、X族含む6族の数を集計し、標準化を行い、アカウントを8つのクラスターに分けた。デンドログラムの形状から、分けるクラスターは8個(対象A~Hとする)とすることが適切と考えた。例えば対象Aに属するアカウントは、全体での量が多いことに加え、そのほぼ全てがリツイートであるという特徴がある。また対象Bは記事の引用が多く、対象Cはリツイートとリプライが中心で、netgeekの世論認識の形成に積極的に働きかけている層と言える。一方対象Dはほとんどが記事の引用以外の言及である。

また比較対象として、1回しかカウントされなかったアカウントを比較対象として選定した。それぞれの選定基準については、X族(アニマル)が1回というアカウントを比較A、リプライや言及(C,E族)が1回のアカウントを比較B、それ以外(A,B,D族)のアカウントを比較Cとした。比較対象に用いたアカウントについては、乱数を用いて選出し、各比較カテゴリのアカウント数が20程度になるように調整した。

ここから、2018年8月5日現在の最新2,000ツイートをtwitteRで取得し、その中でも2018年7月のものを分析に使用した。ツイートはリツイートのアカウントと最初のリプライをスプレッドシートによって除去し、またメディアツイートの最後に見られる「http://t.co/」以降の文字を削除して、文字を全角・小文字に統一した。形態素解析にはMeCabを使い、「netgeek」「netgeek_0915」「ネットギーク」「netg……」を「netgeek」に、「立憲民主党」「立憲民」を「立憲民主党」に統一、「<f0>」及び「<u+0000>」~「<u+ffff>」を「(Twitter記号)」、感嘆符としての「w」が1~20個あるのを「(草)」、「http://t.co/」及びそれを切り取ったもの(「http://…」など)を「(メディア)」とし、「国民民主党」「SEALDs」「LGBT」を辞書に加えた(実際の観測対象は全角小文字化している)。なお、分析者のアカウント(@kazugoto)をブロックしているアカウントのツイートは所得不可能である。また、ツイートの分析にはフリーのテキストマイニングソフト「KH Coder」を使った(KH Coderについては、樋口耕一『社会調査のための計量テキスト分析』(ナカニシヤ出版、2014年)を参照)。KH Coder側で「ー」(長音記号)、「netgeek」「(メディア)」「(twitter記号)」を分析から除外する対象として設定した。

対象Aに属するアカウント3つのうち、2つはごく少数のアカウントしか分析に使用されていないが、この理由として考えられるのは、ツイートの数があまりにも多く、2018年8月5日の段階ですら、最新の2000ツイートの内7月中のツイートが数件しかないほどであるということである。そのためnetgeekを積極的にシェアしているアカウントは、そもそも多くのメディアをやはり積極的にシェアしているアカウントと言うこともできる。

また、各アカウント区分の特徴をKH Coderの関連語検索記号を使って特徴語から分析すると、対象A,Dはメディアのシェアに積極的であり、また右派的な政治傾向を持っているのは対象B,Hと推測される。対象Cについては、ネット上のホモフォビア的なネタに親和的と言えそうだ。その他、比較Bも、政治などに関して関心があると言えるかもしれない。

3. コーディングを用いた単語の分類

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