【ADV郡山R】「〈嘘松〉認定」の研究:ツイッターにおける女性差別に関する一考察2(月刊テキストマイニングレポートVol.23)

※この記事は、「ADVENTURES in 郡山Revolve」(2019年3月31日/郡山市・ビッグパレットふくしま)の新刊として刊行し、「資料性博覧会DX」(2019年5月4日/中野サンプラザ)にて改訂した同名の同人誌をもとにした記事です。

#嘘松 #嘘松認定 #twitter #私たちは女性差別に怒っていい #おそ松さん

0.はじめに

独立した同人誌として「月刊テキストマイニングレポート」を出すのはこれで5冊目になります、後藤和智です(最近商業原稿とかを後付け的に欠番になっているレポートにすることが多くて申し訳ありません……)。

さて、皆様は「嘘松」という言葉を聞いたことがあるでしょう――と、恐らく本書を手に取るような方は、聞いたことがあるかと思います。というより、ツイッターをやっていると「否が応でも見ざるを得ない」というものかと思います。

「嘘松」というのは一つのネットスラングで、まあ意味としては「嘘」です。しかしこれになぜ「松」がつくのか。「嘘」でいいではないか――と考える人もいらっしゃるかもしれませんが、実際この言葉はネット上に空気のように存在しているミソジニー(女性嫌悪)を伴って広がったものと言えます。

実際、「ニコニコ大百科」の「嘘松」の項( https://dic.nicovideo.jp/a/%E5%98%98%E6%9D%BE )には、このようなことが書かれているのです。

これらのように、多くの人が事実を疑うであろう内容を、目撃談・体験談としてTwitter等に投稿し、多くのコメント・リツイートを得ようとする者のことをネット界隈では嘘松と呼ぶ。
またTwitter以外にも2chやLINEの投稿(自作自演)もみられ、バリエーションは多い。
これらは虚言癖・演技性人格障害と呼ばれることがある。
男性による投稿も散見されるが、一様にして女性の投稿が多い。

一体《一様にして女性の投稿が多い》というのは、どのような根拠をもってそのように言えるものなのでしょうか。そもそも《目撃談・体験談としてTwitter等に投稿し、多くのコメント・リツイートを得ようとする者》というのは、それこそ昔から多数ありましたし、さらに言えばこれについては左派やフェミニストに関するものは批判されにくいという現状があります。むしろ女性が発端とみられるデマや流言などを〈嘘松〉呼ばわりしているのが現状なのではないでしょうか。

そもそも「ニコニコ大百科」にとっての「嘘松」とはどのようなものなのか。

嘘松とは、Twitter等にみられる『嘘(妄想)であろうツイート』のことなどを指す。
Twitterのアイコン画像がアニメの『おそ松さん』であることが多いことから、『嘘松』と呼ばれるようになった。
というのは事実ではなく
「話題になった発端は「(Twitterアカウント)」って人のツイートでそれがおそ松さんアイコンでおそ松さん似を話題にしたからそこで「嘘松」って言葉ができたんでしょ」(記事内スレッドより引用)
という事である。
さらに言えば、初出はなんJであり、また当初は『嘘(妄想)であろうツイート』ではなく、発端のツイートに登場する『おそ松さん似』のことを指していた。その後にこれをツイートした人が他にも嘘と思われるツイートを頻繁にしていたために現在の意味に変化していったという経緯がある。

この物言いが正しいとするならば、元々「おそ松さん」――赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』を原案とする、主人公の六つ子の青年期を描いたアニメ――の創作の一形態を指す言葉であるものが、いつの間にか「「おそ松さん」のアイコンの人による流言やデマなど(決めつけ含む)」というようになっており、それについてこの「大百科」でも疑問を持つ向きは内容に思えます。それはこのように「嘘松」が遊び道具のようにされていることにも裏付けられるでしょう。

また嘘松を集めたアカウント(腐女子の虚言ツイート博覧会exit)や、誰でも簡単に嘘松ツイートができるアプリ(嘘松ジェネレーターexit)などもつくられた。

さらに、匿名掲示板「5ちゃんねる」におけるスレッド「なんでも実況J(ジュピター)」のまとめサイトのひとつ「なんjやきう関係ない部@おんj」においては、「ヲタク女の特徴で打線組んだ」というスレッドがまとめられており( http://kankeinai.blog.jp/archives/79403786.html )、そのブログ記事はこのような「打線」で始まっています。

1(中) 早口
2(右) 眼鏡
3(遊) ブス
4(指) ってオイイイィ!!
5(一) ◯◯だよね!?これ◯◯だよね!?
6(左) 声が低い
7(三) 笑い方がキモイ
8(捕) 生物学的には女
9(二) 嘘松

という風に「嘘松」が《ヲタク女の特徴》として採り上げられているのです。「なんJ」は、2018年における、YouTubeにおける排外主義動画・及びそれを配信しているチャンネルの凍結祭りにおいて大きな貢献を果たしましたが、他方でこのような女性差別的な認識も見られます(なお、なんJと共同戦線を取った「ニュース速報@嫌儲」はさらに女性蔑視が強いとされている)。

他方で、「ピクシブ百科事典」においては若干ニュアンスが異なります。「ニコニコ大百科」にあった、語源(とされるもの)に関する記述はないものの、次のように作品とは全く関係のないものであることが示されています(ただ最後のほうに「文章を嘘松風にする」というお遊びのようなものがあるのが困りものですが)。

Twitterにてアニメアイコン(おもに『おそ松さん』)を用い、堂々と真実とも捉え難い嘘を平気で垂れ流す憐れで滑稽なさまを呆れ果てたネット民が叩いて生まれた語である。
「嘘松さん」とも。
要するにかまってちゃんのほら吹きであって、観測者に把握されたのが『おそ松さん』アイコンだったことからちなんで命名されただけで作品内容と関係があるわけではない。また後述のようにそれ以前から同様の行為は存在したし女性ユーザーに特徴的であったわけでもない。

ただ、「嘘松」という言葉は、少なくとも私の観測範囲においては、主にツイッター上で女性を叩くための捨て台詞として使われているように見えます。〈嘘松〉概念のミソジニー性については、ここまで見てきた「ニコニコ大百科」や「なんJ」の例を見ても明らかです。「おそ松さん」は女性の人気が大きいコンテンツのため(若い女性の参加者が多い地方の同人誌即売会では、同人誌や同人グッズを出すサークルも少なくなく、地方の即売会を多く開催しているスタジオYOUは全国でおそ松さんのオンリーイベントを行っている)。

「はてな匿名ダイアリー」に、「「嘘松」って言い方もうやめてくれ」( https://anond.hatelabo.jp/20180110202533 )という文章が投稿されています。その中では、《創作話のたびに名前出される松の気持ち考えてくれよ。そのうちおそ松さんブームの火が消え、「嘘松」っていう単語だけが独り歩きするかもしれない。そんな時代に、「嘘松の松って何だろう?」と思ってググればきっと、「アニメ版『おそ松さん』のファンが大袈裟な話を創作し、インターネットに書くこと。また、その創作話。」なんて書いてあるだろう。私はそんな不名誉で恥ずかしいきっかけで、おそ松さんのことを知られたくない。あんなに面白くて美しくて色褪せないアニメなんて他にないのに。何が「嘘松」だ。「創作乙」でいいじゃないか》と書いてありますが、実際そのようになっているのが現状です。おそ松さんのブームが去っても、女性差別の用語としての〈嘘松〉概念は生き続けるでしょう。有村悠の言うとおり( https://twitter.com/lp_announce/status/956288628417748992 )、〈嘘松〉概念は《いちいち「嘘松」と称して行き掛けの駄賃的におそ松さんファンをdisっていく》ものであるものですが、その差別性が認識されづらいというものがあります。

そもそもネット上においては、かつてからアニメ・ゲーム趣味を持つ女性であっても、女性ではないかと認識されたらバッシングに遭うため、一人称を「俺」にするなど、男性として見られるように苦心したというエピソードが話題になっております。「男性オタクに苛められてたこと絶対に忘れないから」( https://anond.hatelabo.jp/20190324040152 )という文章では、《書き込みが少しでも女っぽいと「女だろw」「くっさ」とまるでそれが悪いことかのように嘲られる》《美少女アニメが飽和してるなかで、ただ男キャラが二人並んでるだけの絵がでると「腐向けかよ」「女に媚びてる」「腐女子に侵食された」と非難囂々》《男性声優が出てるときに「かっこいい」「かわいい」「○○さん」などのコメがあったが、「腐女子わきまえろ」「腐コメするな」と言われコメが減り謝罪する人もいた》などというものがありますが、このような現状は私がニコニコ動画を見てきた実感と一致します。そしてこの匿名ダイアリーのリプライも含めて、ネット上での女性差別は根強いと言わざるを得ません。

私は2018年7月に、「月刊テキストマイニングレポート」の第15号として、ネット上における「性器呼び」について検証を行いました。その続編として、ツイッターにおける「嘘松」という言葉、そして〈嘘松〉概念の中身について検証してみたいと思います。

1. 「嘘松」ツイートの分析

本書では、日本のインターネットの内、ツイッターにおいて「嘘松」という言葉がどのように使われているかを検証する。前項でも述べたとおり、「嘘松」という概念は、(語源については諸説あるとはいえ)ある「おそ松さん」のキャラクターアイコンのツイッターユーザーが創作話を実話として語っていたことから、「嘘」を叩くための言葉として広まったものである。とりわけ「おそ松さん」が女性からの人気が大きかったことから、ここまで広がったと推測されるのは前述の通りである。そしてまずは「嘘松」という言葉の現状について検討し、発言者を分類し、次に発言者の特徴について分析を行う。

ツイッターデータの習得には、フリーの統計ソフト「R」のパッケージ「twitteR」を用いた。最初に、「嘘松」が含まれるツイートを下記のコマンドを用いて、日本時間2019年3月8日昼頃に取得した。分析にあたって、国際標準時で3月1日から7日までの期間に絞り込んでいる。

data01 <- searchTwitter(searchString=iconv("嘘松",from="CP932",to="UTF-8"),n=200000)
data01 <- twListToDF(data01)
dat <- data01
dat <- rbind(dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-07",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-06",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-05",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-04",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-03",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-02",],
dat[as.Date(dat$created) =="2019-03-01",])

この時期は、子供に対する加害の噂が女性を中心に広まっていた。しかしこのツイートについては、「デマ」「都市伝説」という指摘も多くなされたが、他方でその実在性が疑問視されても、女性を中心に性犯罪や性差別の現状に対する批判も多く広がった。

さて、この期間に取得できた「嘘松」という言葉を含むツイートは、リツイート含め2,564件だった。ただし、twitteRではAPI検索を用いており、そのため「嘘」「松」を含んでいるツイートが検索に引っかかる場合もあるため、「嘘松」という文字を含まないツイートについてはExcelのFIND関数などを用いて排除している。また分析のために、Excelのマクロを用いて「 https://t.co 」で始まるツイートをメディアツイートとして「(メディア)」で、絵文字を示す「<U+……>」というツイートは「(絵文字)」として置換し、また「@アカウント名」となっているものを排除し、さらに文字を全角、小文字に改めた。

これを、フリーのテキストマイニングソフト「KH Coder」を用いて、Jaccard係数によるクラスター分析を行い、適切と思われた水準である12の区分に分けた。区分に分けた場合、多数リツイートされたものが独立した区分として排除される。辞書は、ネット上の新語の分析に対応している「neologd」の1月第4週盤を使っている。

(組版時のミスで、冊子版では表3,4の右側が切れておりました。この場を借りてお詫び申し上げます。こちらに掲載しております。)

その中で特徴的だったのは、まず第一に区分1の、ほとんど「嘘松」としか言っていないツイートで、全体のおよそ5分の1にあたる。また区分4も似たようなものであった。他方で区分6,11のように社会的なことに関する論評において平然と「嘘松」という言葉が使われている一方で、区分5,9、そして12のように〈嘘松〉概念の恣意性を批判するものも少なくない。ちなみに分析者も期間内に区分12のツイートを行っている。

これらの区分のツイートを分析し、発言者を5つのクラスターに分けた。それぞれのクラスターの特徴としては、クラスター1が「嘘松」概念に批判的な層、クラスター2が主にリツイートやまとめサイトのシェアによって「嘘松」概念を広めながらも自らは積極的には使わない層、クラスター4が「嘘松」という言葉を捨て台詞として使う層、そしてクラスター3,5は日常用語としてなんとなく「嘘松」という言葉を使う層と言える。

(ここから先は有料コンテンツになります。有料コンテンツ内で使われている図の一部を公開します。)

3.発言者の特徴

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