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新型コロナ:ニューヨークで起こったこと、東京で起こること3

※この記事は2020.05.01時点で書かれた記事です。UPミスして10月公開になってしまいました。ごめんなさい。

NYCで起こったこと

上記のことから、何故NYCがこれほどまでにアウトブレイクしたか、筆者の仮説をまとめてみる。

1. 繁華街で働く主に接客業従事者が感染ハブとなった
2. 所得格差、住環境などの影響で、感染は特定エリアで拡大した
3. 医療システムや予防習慣の影響で、感染者の多くは診療を受けず、都心部で働いてしまった
4.繁華街顧客で高所得層にも拡大した

この仮説を支えるデータがある。

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図表:https://furmancenter.org/thestoop/entry/covid-19-cases-in-new-york-city-a-neighborhood-level-analysis

上記の表はNYUのFurman Center(ニューヨーク大が持つ、都市計画や人口統計などの調査機関)が4月10日に発表したコロナウイルス感染・死亡に関する統計データで、人種および年収別に、感染者数を五分位でまとめたものである。五分位法とは、特定母数の数値を低い方から高い方まで5グループに分け、どのグループが多いかを表現したものである。

この図では、COVID-19陽性者数が出現した地区の人口1000人あたりの発生数を、左から低い順に5段階で並べてある。つまり、右に行くほど陽性発生率の高い地区である。ご覧の通り、が3rd以上の陽性者数が多いのはヒスパニックであり、軒並み30%を超えている。一方で、Lowestから2ndまでは圧倒的に白人(ヒスパニック以外)が多い。また、貧困率*でみると、一方、貧困率はさほど大きな差異はないが、大学以上の教育を受けている人々はLowestと2ndに集中する。

*NYCの貧困率は年収$32,402を閾値としている。ちなみにこれは2人の大人、2人の子供の世帯に適用され、これ以下だと様々な保護給付対象になる(単身の場合は$15,017)。そして、2016年段階での全NYC人口における貧困率は19.5%である
参考:
https://www1.nyc.gov/assets/opportunity/pdf/NYCPov-Brochure-2018-Digital.pdf

このことが表しているのは、

1.COVID陽性発生率が高いエリアはヒスパニックの構成比が顕著に高い
2.白人が多い居住地域は陽性発生率が低い
3.アジア人の構成比はどのグループでも低い
4.貧困率はおしなべて20%程度---全人口平均(19.5%)とあまり変わらない5.陽性発生率の高いエリアの年収中央値は$58,000くらい
6.高学歴の多い地域は陽性発生率が低い
ということである。

先述のクイーンズやブロンクスはヒスパニックが多い地域で低所得が多いエリアである。年収$58,000あると貧困層ではないので保護受給は受けられない。つまり、貧困層向け医療保護もない。プロジェクトなどのスラムに住んでいる様な顕在化している貧困層は、むしろ衛生局から保護を受けている(実際、インフルエンザの予防接種を無料で展開するのはこういった地域)。また、不法移民であれば統計にすら載らないので、ヒスパニックのエリアに、医療保護を受けられない隠れ貧困層はもっといるはずだ。

もう一つの大クラスタであるブルックリンは白人とアフリカンが多いがHighestのグループにそれぞれ25%程度いるところを見ればブルックリンのクラスタがこの数字を作っていると考えられる。

白人、つまりラテン系以外のアングロサクソン系が多い地域は基本的に高所得エリアであり、高い学歴も同じ様な分類になる。

アジア人の陽性率が低いのは人種的特性かどうかはわからない。が、欧米人に比べて衛生習慣が異なる(土足生活しない、きれい好き、マスクや予防医療を好む)ことの影響も大きいだろう。

そして、接客業におけるヒスパニックの率は高い。彼らは勤勉で低賃金でもよく働く。出稼ぎの移民一世か二世が多く、アメリカで高等教育を受けていないので、就ける仕事は限られ、どうしても接客業が多くなる。収入も厳しいのでマンハッタン以外に住む。彼らの主な生活コミュニティはクイーンズやブロンクスにある。

最初の感染源はわからないが、接客業を通してヒスパニックが主に媒介となって蔓延した可能性は高い。そして、その理由は、所得格差と医療システム、住生活環境や習慣、移動交通手段などの問題が絡み合って出来上がったものだろう。黒人と白人への感染拡大は、繁華街の顧客として感染・拡散した、二次・三次的な波及ではなかろうか。

東京とNYCの類似点と違い

まず、東京都とNYCでの感染拡大のシステムは類似していると思われる。すなわち繁華街でクラスタが出来、その従業員や顧客の居住地で患者が発生することだ。東京での新宿区、港区の陽性発生率が高いのは、繁華街が原因であることは間違いない。世田谷、杉並、練馬が多い理由は、そもそも人口が多い(世田谷約90万人、練馬約70万人、杉並約60万人)からであり、かつ、新宿と直結路線があり、港区繁華街の主要顧客であるビジネスマンの世帯もかなり多いはずだ。品川区は繁華街と居住地の両方の側面を持っている。NYCでいうクイーンズと同じ状況が繁華街隣接区域、特に世田谷区あたりで起こっているといえる。

一方、東京とNYCには下記の大きな違いとアドバンテージがあると筆者は考える。

第一に、居住エリアでの感染爆発が東京では起きづらい。先述のようにNYCは所得や学歴、人種構成によって住環境が極端に違う。アパートの衛生面や換気システムなどに大きなギャップがあり、エリアあたりの病院数も異なる。端的に言えば、NYCの場合、低所得者居住地では二次感染が起こりやすい。特定エリアでの感染者数爆発は、接客業従事者が集中するエリアで起こっている。
一方の東京の住環境だが、室内土足ではないし、個室にエアコンがあり、洗濯機も有る事が多いはずだし、ルームシェア率も低い。また、日本人は予防意識も高く、マスク着用習慣があり、軽症でも気軽に病院にかかれて、徒歩圏に病院があるという医療環境の充実がある。つまり、繁華街で感染したキャリアによる居住エリアでの二次感染爆発のリスクは飛沫感染に集約されるだろう。

第二に、不法移民や貧困層の違いである。NYCは医療費の高さから、貧困層に限らず中程度の所得層でも病院にはかかりたがらない。不法移民であれば身元がバレるのを嫌い、なおさら病院へはいかない。ましてホームレスが救護されるのは病院ではなく協会やシェルターである。これらのことがかなりの数の「隠れコロナ患者」とそれらによる二次感染を生み出している。
東京にも彼らは存在するが、NYCのそれと比べれば圧倒的に少ない。国民皆医療保険制度もあり、発症しても医者を我慢する「隠れコロナ」の出現率はかなり低いはずだ。

第三に、公共交通の環境の違いである。東京の公共交通は衛生的であり、幸いにも24時間営業ではない。車両はよく清掃されているし、電車の中で眠るホームレスや貧困層もほとんどいない。大きなリスクは終電時のラッシュアワーによる感染だが、これによる感染はNYCに比べれば低いと考えられる。何故なら、もしラッシュアワー感染が横行すれば、東京の感染エリアは各地方に大きく分散しているはずだ。何故なら東京の公共交通網はNYCより圧倒的に充実しており、都内の隅々まで到達できるからだ。

23区感染発生率

図表:https://graph-stock.com/map/covid19-confirmed-cases-in-tokyo/

上記は4月27日現在の東京都コロナ患者発生「率」を示したマップであるが、人口数に関わらず、主要繁華街に隣接する区画の患者発生率が高い。もし、ラッシュアワー感染が顕著ならば、東京都北部や東部、三多摩地区にもまんべんなく人が散っているはずだ。つまり、東京の公共交通環境(ホームに並んだり車両に乗っている状態)が感染拡大を促すリスクは比較的低い。

東京はどうなる?

これらのことから、東京がNYCのような最悪の状況に陥る確率はかなり低い、と筆者は考える。

そして、政府や東京都が展開していると対応策は適切であるとも考える。実行スピードは遅いけど。

まず、確実に繁華街がクラスタ発生源であるから、これをシャットすれば一次感染を減らすことができる。そして、接客業従事者や顧客の感染者が居住地で二次感染を起こすリスクはNYCに比べて低く、隠れコロナ率も低いので、発症患者に検査を掛けてもぐら叩きすれば、抑え込める算段は見える。
三密とマスク着用の推奨でその効果は格段に上がるだろう。

誤算だったのは、3月末の連休で気が抜けた人々が再び繁華街に集まってしまったことだ。実際、この連休前後、近隣観光地の混雑だけでなく、繁華街では結構な数の宴会が繰り広げられていた。筆者は渋谷でノマドをしていたのだが、卒業する大学生の謝恩会や、サラリーマンの年度替わりの納会があちこちで繰り広げられていた。この結果、4月7日の緊急事態宣言となたわけだが、ここで2週間緩んでいなければ、現在の医療崩壊危機も無かったかもしれない。

ただ、残念ながら、現在の自粛という名の繁華街閉鎖状況はあと1ヶ月は変わらないだろうし、変えるべきではない。現在の特殊状況だから感染者数が収まっているだけであって、普通に戻せばまた爆発する。むしろ抑圧のリバウンドで繁華街やレジャー施設に人が集中し、最悪の状況になるだろう。

現在、政府が当初の臨時病床数を増やし、検査数と隔離数の拡大に方向転換しているのは、軽症回復患者を増やすことで抗体保持率を上げに行っている意図があるだろう。英国のボリス・ジョンソンが最初に実行して失敗した「抗体の壁」を作るタイミングに来ているのだ。これがなければ社会の通常復帰は不可能である。また、COVID-19がインフルエンザや他の感冒ウイルスと同じ傾向なら、高温多湿に弱いはずなので、梅雨開け以降は感染発症率がぐっと減るはずだ。東南アジアでの感染致死率の低さはこれかもしれない、と言われているがまだ不確実である。

筆者の予測では、東京の非常事態宣言の解除は入梅後のどこかのタイミングで、一定の抗体保持率が確認されたタイミングだろう。他県への移動制限は解除されるだろうが、少なくとも飲食店の時短営業や学校のオンライン授業比率は高められる。百貨店などの大型店舗や劇場、スタジアムなどは最低でも入場制限必須となるだろう。ワクチンや特効薬が完成するであろう1年半後まで、社会が通常に戻ることは、まずない。

東京はNYCほどの感染被害を受けないだろうが、withコロナの社会形態でしばらく生きていくしか無いのだ。

このことは災いなのか。それとも天がもたらした変化への啓示なのか。その答えは我々が生き残ったあとにはっきりする。まずはこの1年をコロナとともに生きよう。試行錯誤と共に。

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