見出し画像

3-4 基本準備に取り掛かろう---留学に必要な試験・提出物4: エッセイ(SOP)---アラフォーから始める留学

エッセイとは、要は英語で書く小論文のことです。随筆とか散文の意味もありますが、そっちじゃありません。そして、このエッセイは俗語で、正式にはStatement Of Purpose(志望動機書)というもので、SOPと略されます。

ほぼすべての海外の大学はSOPの提出が必須であり、かつ、入学審査において最大の配点項目が課されています。誤解を恐れずに言えば、エッセイが優れていれば、GPAやGMATが低くても入学できます。どこの大学も「GPAやGMATが高いからと行って入学許可が出るわけではない」とAdmission Officeの資料に、ほぼ必ず書いてあります。例えばハーバード・ビジネス・スクールでいうと、合格者のGMATの得点レンジが610から800、中央値は720となっていますね。つまり、合格者に一番多いのはGMAT 720点ということになりますが、610点で入った人もいる、ということになります。その差中央値から110点。どういうことかというと、

GMATの点数はだめだったけど、エッセイがイケてたので通った人がいる。

可能性が高いと考えられます。もちろんどこぞの王族や政治家の推薦状パワーで入る人もいると思いますけど、ゴミエッセイでは絶対に通りません。各大学、こういうデータを必ず出しているので学校を選ぶときは参考にして下さい。つまり、合格者のレンジが広くてかつ、中央値と最低値の差がでかいほど、その学校はエッセイ勝負の学校ぽい、といえるでしょう。

ちなみに、GMAT610って高いのか低いのか。800点満点の7割弱ですから、そこそこと言えるでしょう。が、下限が610というのはかなり厳しい学校です。そりゃHBSですから。HBSやGBS(スタンフォード)、シカゴ、ノースウェスタン、コロンビア、NYU SternといったいわゆるメジャースクールはGMAT700超えが基本です。でも、持ちスコアが伸びないこともあるでしょう。そういうときに残された道がエッセイ勝負です。僕自身、GPAもGREも持ちスコアは中央値より下でしたが、合格しました。つまり、エッセイでなんとかなったタイプです(僕の学部はMBAじゃないけどね)。留学経験者やアメリカ人の教授に「俺ダメかも。。。」とか愚痴りに行ったら「何いってんだ。確かに安心できるスコアじゃないけど、エッセイ頑張ればいけるよ。」と皆口を揃えて言いました。もちろん激励でもあるでしょうが、彼らはエッセイが大学院受験の最大の勝負どころで、逆転のチャンスは常にある、ということを知っているのです。

1. Statement Of Purpose、つまり志望動機

ここからは、ニュアンスの誤解を避けるため、SOP=志望動機書という言葉を使っていきます。SOPは志望動機書ですから、

「何故、私はあなたの大学に入りたいと思っているのか」

を書くものです。あなたの情熱をぶつけるものです。なんでその学問を学びたいのか。学んだことによってどうなりたいのか。なんでその大学なのか。こういった内容を書いていきます。簡単ですねw。ただ、ここで、日本人がよく主張を忘れてしまうポイントがあります。それは、

「私が入ることで、あなたの大学にはメリットがある!」

というアピールです。ビジネスみたいですが、そのとおりです。私立大学であるPrivate Schoolはもちろんのこと、公立の大学でも、入学事務局の審査員は、かなりビジネスライクにこれを見ています。
こいつを入れることによって、わが校に良い影響があるか?カネ?頭脳?人脈?人間性?いろんな方面から審査します。

言い換えるとSOPは、

「私が(その学校に)入りたい理由」と、

「あなた(評価者)が私を(その学校に)入れるべき理由」の両方を説明するための文章なのです。

2. SOPで書くべきこと

先述の内容を書くわけですが、もう少し詳細にすると、

- Reason(志望理由):
「何故、私はこの学校(学問)にマッチしていると言えるのか?」

- Vision(将来の展望):
「私は、この学問を修めることで、何を実現しようとしているのか?」

- Contribution(学校への貢献):
「私はこの学校にどんなポジティブな影響をもたらすのか?」

これら3つに集約できると言えるでしょう。各学校はそれぞれのフォーマットがあったり、書くべき項目が明示されている場合がありますので、章立てや題名はこれに従えばいいでしょう。ともあれ、こういうことを800-1500ワードでまとめます。

3. SOPで評価されるもう一つのポイント:文章構成力

SOPは上記の3項目を説明するための文章ですが、同時に「こいつは大学院で勉強するだけの、きちんとした教育レベルを持っているのか」を示すための文章でもあります。すなわち、

「適切な言葉で、適切な表現を用いて、理路整然と、高度な専門性を説明する英語の文章構成力を持っているのか?」

を見極める意味もSOPにはあります。違う言い方をすれば、大学院ですから「論文を発表できる力を持っているか」なんですね。実際、大学院では(教授によりますが)授業ごとにレポート提出があったり、中間・期末試験がレポートメインだったり、死ぬほどレポート書きます。もちろん卒論もレポートです。レポートが書けなければ何も出来ません。そして、現地英語学校の先生曰く「学部までは雑なレポートでも通る。でも大学院は無理。学部はあくまでUNDER Graduateだから一つの学問をかじっただけ。大学院はGraduate School。その学問を修めたことを意味するのだから、学会に論文出せるレベルじゃないとダメ。」だそうです。つまり、学会論文と同等の「お作法」を守って、文章を書く必要があります。

4. SOPが満たすべき論文のお作法

まず、この英語論文のお作法は、独学より、お金払って学ぶことをおすすめします。実際に海外の大学院を卒業した人にレクチャーを受けたり、学校に通うなどして、いろんなテーマを説明する1000語程度の小論文を書きまくり、添削してもらいましょう。僕は留学予備校には通わず、GREは独学ですが、TOEFLとエッセイはNYUのALI(American Langage Institute)の東京校に1年くらい通いました。入学後も半年、ニューヨークのALIで授業を受けています(基本、海外留学生は入学前にほぼ義務付けで授業を受けさせられる)。言い換えると、SOPはお金をかけてトレーニングすべき重要項目であり、非英語圏の人間がこの作法を習得するのはなかなか難しいという実感値があります。ここでは、「こんなことを学ばなきゃいけないよ」というポイントだけ説明します。

- 5パラグラフ構成

英語の小論文は、5章立て構成が基本でこれをFive-paragraph Essayと呼びます。Introduction(導入), Body 1,2,3(3つの説明), Conclusion(総括)の5つのパラグラフで構成され、それぞれのパラグラフで明確に記載すべきポイントがあります。例えば、導入部分ではThesis Statementと呼ばれる「私はこれから何を説明するのか」を明確に主張する文節が必ず盛り込まれなければなりません。これ自体、TOEFLのWritingを勉強すれば同じことをやりますので、あらかた覚えることは出来るでしょう。が、TOEFLトレーニングとしてやっていると「点が取れる書き方」に寄ってしまうので、TOEFL講座だけではなく、SOP用の勉強をしたほうが良いと思います。

- 頭の良さそうな言い回し

日本語でもそうですが、同じ単語ばっかり使うとバカっぽいですよね。また、会話言葉を文章にするのもバカっぽい。

「この車は超早くて、超低燃費で、超お買い得です」
「この自動車は最高水準の高速走行と特筆すべき低燃費を両立させており、極めて費用対効果が高い商品であると言えます」

どちらが頭良さそうでしょうか?(笑)

日本語だとできそうですが、これを英語でやるには、同義語の語彙力やイディオムの使い方、文語体としてふさわしい単語の理解なんかが必要になります。ButじゃなくてHoweverのほうがいい、などは聞いたことがあるかもしれませんが、この背景には、論文ではネガティブな表現をなるべく使わない(butから始まると言い訳がましい文章ニュアンスになる)という英語論文特有の文化があるのです。この様に、技術論だけじゃなく、文化的背景や文章全体をポジティブに見せるためのバランスがSOPには重要です。これも、お金を払ってでも経験者やネイティブのチェックをおすすめする理由の一つです。

5. SOPの作り方

まず、先述のReasonは一番主要な部分です。きっちり5パラグラフで作ってみます。簡単に1000ワードを超えると思いますが、これをなんとか500〜700まで洗練させる必要があります。
その次のVisionは、平たく言うと「卒業したら何すんの?」ですので、シンプルかつ短めでもいいです。100-200ワードで書きます。「卒業したらこういうポジションの仕事について、学んだことをこういうふうに社会に還元してくつもりだ」という感じです。
最後のContributionはちょっと長め。僕はReasonの部分と同じくらいの長さを5パラグラフで作りました。「僕が入ることでNYUが得られる恩恵は3つある。1つは。。。」みたいな感じです。これも大抵長くなりすぎるので、どう洗練させるかが重要です。

この作業を何度何度も繰り返します。僕は、最低30回は書き直したんじゃないかな。。で、学校に通い、先生だけじゃなくて知り合いの外国人や留学経験者に査読してもらい、真っ赤っ赤にされて、何度も書きました。それでも、提出後改善すべきところが結構みつかり、凹んでました。母国語の文章でも辞書引くことがあるわけですから、異国の言葉でかくなら当たり前。生まれた国の文化背景じゃないですから、どうしてもネイティブから見たら変な表現だったり構成になるのです。ここはホント、修行するしかありません。

6. 自分の志望動機を整理するいい機会

SOPを書くためには、あなたの志望動機、あなたの価値が整理されていなくてはなりません。自分は何故この学校に行ってこの学問を習得したいのか?習得した学問は、学校や社会など自分以外のものにどう役立つのか?一般的な学生と違って自分はどれだけユニークなキャリア背景や才能を持っていて、志望校が抑えるべき人材なのか?

「ぶっちゃけ、かっこいいから行きたいし、卒業後いい職についてブイブイいわせたいし、天才でもないんでぶっちぎりの才能があるわけでもない」

と思うかもしれませんが、入学志望者の99%はそれです。特にMBAやProfessional Schoolなんかは。であっても、この自分物語を作らなくてはいけません。それが出来なければ、自己表現も出来ないし、自分のアイデンティティも築けないので、アウェイの海外で生活しても辛いばっかりです。なにより、本音は俗な志望動機であっても、実は熱い想いがどこかにあるはずです。だって、生活費含めて1000万近くのマイナスを背負って勉強しに行っても、100%ビジネスで成功するわけではないし、職が見つかる保証もない。その予算で株やビットコイン買ったほうがよっぽどお金が儲かるかもしれない。そんなリスクを背負ってわざわざ挑戦するのですから、利害だけじゃない動機が必ずあるはずです。ただ、自分で深く考えて整理してはおらず、燃え上がる感情で動いていると思います。SOPはこれを整理して、言語化して、他人がわかるようにする大事な作業であり、だからこそ、入試においてウェイトが高いのです。

こと海外にいると、自分の説明力とアイデンティティの緩さを実感します。日本にいると、日常生活で自己証明なんかする必要がありません。海外だと茶飯事です。「お前は誰だ?」「何が出来る?」「何がしたい?」を常に問われます。アウェイでは、誰もあなたを説明してくれません。自分の存在意義と意思を他人に説明できることで、初めて一端の人間として認められるのです。SOP作成は、海外で暮らすために、自分を見つめ直す非常に良い機会です。是非、本腰入れてチャレンジして下さい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?