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【酒話】酒と泪と祖父と僕、時々、オトン

昨年、祖父を亡くした。
寿命だったと思っているし、ここで祖父の死について詳しく書くことはない。

祖父は、とても日本酒が好きだった。
僕が日本酒を好むのは、隔世遺伝かもしれない。額の方から来るタイプのその禿頭までは、遺伝しないことを願う。
 
午後5時から6時までは、シルバー世代のゴールデンタイムである。例外なく、祖父はゴールデンタイムに、いつも1合ほどの日本酒を飲んでいた。
老化で足が弱っていたにもかかわらず、酔っぱらって千鳥足、いや、万鳥足になるものだから、いつも手すりにつかまりながら、食卓から自分の部屋までの廊下をフラフラと歩いていた。

ちなみに、「老化」と「廊下」を掛けていることに気付いた人は、このnoteの拡散をよろしくお願いします。

日本酒は、辛口が好きだった。
辛口のお酒を飲んで、
「いける! (おいしい!)」
と甘口コメントをしていた、祖父の声と表情を憶えている。想い出す。

命日には、仏壇に、お供えものをしている。
突然、祖母が提案した。
「おじいさんは、お酒好きやったし、お酒供えたろか〜」
もちろん大賛成である。
どんなお酒でも良かったのだが、せっかくだし、祖父が好きだった地元奈良県の酒造「梅乃宿 大吟醸」を買ってきた。

「おじいちゃん。好きなお酒やで。ゆっくり味わって飲んでや〜」
お猪口に注ぎ、仏壇に供える。
手を合わせ、目を閉じた。

僕は、大人になったから、知っている。日本酒を飲める年齢になったから、気付かされている。
祖父が、二度と帰ってこないことを。
このお酒を、もう、飲めないことを。

このお酒は供えているだけである。次の日に祖父が飲んで、お猪口が空になっているなんてことは、現実にはあり得なくて、数日したら流しに捨てることになるし、ビンに残った日本酒は、生きている人間、残された家族で飲むことになる。

その一杯目は、父(祖父の息子)と僕の2人で飲んだ。

お猪口に注ぎ、父と杯を交わした。
祖父のことを想って飲む。
お米の香りが、口の中全体に広がる。
「どう?」
母が、感想を催促する。

僕たちは、声を揃えて言った。
「いける!」
父の声も、僕の声も、やっぱり、おじいちゃんに似ている。髪の毛は……

ほんのりと甘い日本酒だったけれど、なんだか、ちょこっと、しょっぱく感じた。

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